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王を問う  作者: 大石安藤
12/31

12.玉緒宮

「あったか」

「それらしいものは何も」

 答えながら、コウは自身が何を言っているのかわからずに首を捻った。探している物の形態すら知らないのに自分はなぜ無いとわかるのだろう。

「なんだ」

「……いえ。そろそろ行きましょう。見つかりたくありません」

 玉緒宮たまおのみやは盛大な溜息を吐きながらも、「そうだな」と踵を返すと、滝の裏の窪みから真織宮まおりのみやの裏門の方角へと足を向ける。月斎げっさいはとうに帰してしまったのでふたりだけである。木立をサクサクとそれでも目立たないように歩いていく。

――我は王にはならない。

 後ろを着いてくるコウに緊張感はない。兄が自分を傷つけることなど無いと思っているのか、どちらかというと考えてもいないのだろう。

 数えで13歳のコウが香女として正式に立って1年余り。龍と王が消えたのを誰に聞くまでもなく気がついた時には出奔していたのだろうが、そうして師の元へ行ってまだ二桁の日も過ぎていない。香女がどれほどの重要な立場を理解しているのかはなはだ疑問である。

――それでもこうして自分の役割を果たそうとしているわけだ。

 玉緒宮は龍に関してはわからないとしかいいようがないが、この国の王になることについてはなりたくないとはっきりと言える。皇子みことしての境遇は有難いものだが、この厳しい国の王という立場は荷が重すぎる。政に関与してはいるし、地方の見回りは積極的に行くようにもしている。龍が消えなければ立太子をした兄がそのまま王になると思っていたし、実は今でもそう思っている。つまり龍を信じていないとも言える。玉緒宮としてはこのまま国の参謀として生きていければ十分である。

――伽木きゃきが誰を見つけるか、いや、龍の元に連れていくんだったか。

 兄が聞いていればいいと思っておざなりにしか聞いていなかったので、龍の選択についてはうろ覚えである。

 誰が王になるにしてもいままでの大臣や幹部が総入れ替えになるには時間がかかるだろう。それだけこの国の政は厳しい。砂漠の南にある国なら王にも臣下にもなりたいものがうじゃうじゃいるのかもしれないが、この国の臣の数はそう多くない。

――すぐに狙われることもないだろうが。

 伽木が香女だと知っていたとしても、伽木の顔を知る者は少ない。だが王の選定に香女が携わると知っている者の中には、香女がいれば王になれると思っている者もいる。姉姫やすぐ下の妹姫が香女でいた時は、なんどか攫われそうになったものだ。

――我がどうこうするものでもないんだが。

 このまだ幼さが残るそれでも精一杯の妹を自分が守れるものだろうかと考えているうちに宮の裏門にたどり着く。鼻薬を嗅がせているいつもの衛兵に手だけ振ると、待っていた牛車にコウを誘う。

「どこまで行けばいい」

「送ってくださるのですか」

 コウがきょとんと兄を見上げる。

「どうせ城下に師がいるのだろう。挨拶ぐらいさせろ」

「……歩いていきます」

「あ、そうか」

 師が誰かを教えるわけにはいかないのを玉緒宮はころりと忘れていた。いかに龍に関心が無かったかという表れである。

「ひとりで大丈夫か」

「慣れております。あ、あの、兄上」

「なんだ」

 コウは大きな黒目勝ちの瞳を兄に向けると、大橘妃だいきつひの時よりもよほど名残惜し気に別れの挨拶を口にした。

「どうぞ息災でいてください。あまり無茶をしませんように」

 玉緒宮はなにか込み上げてくるものがあったが、それを口に出すことはしなかった。

「気をつけるのはお前のほうだ」

 白い額をピンと指で弾くと、玉緒宮は「もう去ね」とコウを大路へと送り出した。




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