90 雷光 4
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
魔王軍の襲撃から王都を救い、最強機体の設計図を届けた一行は英雄として迎えられた。
だがこれまで協力者だった騎士が豹変。彼は魔王軍の間者だった。機体を破壊されたジン達は――。
自分の造った機体をことごとく壊され、クロカの瞳は燃えていた。
「移動しながら艦内で作成だ。すぐに材料の積み込みを手配するから! ヴァルキュリナは追撃の許可をもらってきて!」
完全に圧倒され、無言で何度も頷くヴァルキュリナ。
その二日後。
戦艦Cガストニアは荒野を進んでいた。
追撃の許可はディーンが裏切った当日のうちに降りた。だが本来なら新型機の部品搬入もあわせ、数々の手続きや許可が要る筈だった。そしてそれには数日かかる。
だが――
「黄金級機が魔王軍に増えるような事になればこちらはお終いじゃろ。許可は全部ワシが出させておくから、可能な限り早く追撃しておくれ」
王の鶴の一声で、全ての手続きが飛ばされたのだ。
ただ実際に追いかけるには武装も物資も必要だ。
当日出撃できたのは、Cガストニアだけだったのである。
戦艦のブリッジは緊張に包まれていた。
ジンはヴァルキュリナに訊く。
「ディーンの足取りは追えるのか?」
「ああ。今の所、こちらの探知魔法にかかっている。黄金級機設計図には城でこちらの探知対象になるよう、処理が施されていたからな」
そうは言うが、ヴァルキュリナの声も顔も硬い。
それを聞いてジンには気になる事ができた。
「俺ら三人の体も魔王軍の探知魔法にかかるんだよな。向こうにも追いかけている事がバレているわけか?」
「わからない。あれから探知阻害の魔法を施している。だが……発見と隠蔽、どちらが勝つかは魔法の威力次第だ。王城の魔術師達を信じるしかない」
ヴァルキュリナからの、なんとも不安になる返答。
とはいえジンにも、信じる以外の道が無いのは確かだ。
ゴブオが後ろからジンに小声で話しかける。
「アニキ。ケイオス・ウォリアーができてからにしませんかい? それでこの国がやられちまうなら、それは仕方無かったという事っスよ」
「ちょっとォ! 本気なの!?」
批難するリリマナ。
だが……材料が揃い、壊れたBCカノンピルバグを元にするとはいえ、やはり巨大ロボットが簡単に組み立てられるわけもない。クロカ達整備班が徹夜で作業し、完成は間近だが、それでもまだ使えない。
ナイナイとダインスケンの機体は一応動くようにはなっていた。だがハリボテに近いパーツがあちこちにあり、戦闘力がいくら残っているのかは怪しい状態だ。
要するに戦える状況ではない。
それを追いつくまでに戦闘可能に持って行こうという、無茶苦茶な作戦なのである。
ゴブオの意見は、薄情ではあるがおかしくないとも言える。
それでも怒られるゴブオを他所に、ナイナイはジンに訊いた。
「ジンはなぜこんな状況でも戦おうとするの? 本当にヴァルキュリナさんと結婚するため?」
艦前方を見て二人に背を向けたまま、ピクリと反応するヴァルキュリナ。
「悪くはねぇが、そんなわけねぇな」
笑いながら言うジン。
小さく「そうか……」とヴァルキュリナが漏らした。
だがそれには気づかず、ナイナイはジンに訴える。
「その方が納得できるよ。そうじゃないと、何故なのかなって。僕達を気持ち悪いって言う人、やっぱり多いし……」
先日の訓練場での揉め事を含め、今まで受けてきた扱いがナイナイには引っかかっていたのだ。
それに対し、ジンは――
「ああ。嫌な野郎も多いし、それを助けようと思うほど人間ができちゃいないが……」
そう言いつつも優しく微笑む。
「助けてやりたい人もいるからな。ナイナイの友達とかよ」
ナイナイに会いに来た二人の少女の事だ。
またそう言いながらも、ジンの頭にはダインスケンにじゃれていた子供達の事も、自分達に感謝していた少年騎士の姿もあった。
「その少しのためでいいんじゃねぇか。その他大勢はそのついで……たまたま助かる範囲にいて良かったな、という程度の話だ。嫌な野郎どものために助けたい人を見捨てるのも癪だしよ」
冗談めかしてはいる。
だが、紛れもない本音である。
その事がナイナイにはわかった。
造られた関係とはいえ、他人ではないのだ。想いの共感もできるようになっている。
その時、クルーの一人が叫んだ。
「敵の反応! ディーンの進行方向から、入れ違いでこちらへ……!」
「不味いな、迂回していては逃がしてしまう。艦だけで戦うしかないのか?」
焦りながら迷うヴァルキュリナ。彼女は急いで格納庫へ通信を入れる。
「敵だ、出撃はできないか?」
『もう少しで新型は動く! それまで艦の戦闘はやめてくれ!』
クロカが怒鳴るように答えた。
「それじゃどうしようもないじゃん!」
宙で情けない声をあげるリリマナ。
敵は来る、戦ってはいけない、逃がしてもいけない、逃げられない。
Cガストニアは八方塞がりだった。
だが、その時――
「僕が行く。足止めしてくるよ」
そう言ったのはナイナイだ。
「おい……!」
慌てて止めようとするジン。
BCバイブグンザリはかろうじて動けるだけで、数分の一のパワーしか出ない。
だがナイナイは必死な視線をジンに向けた。
「怖いよ。勝てないのもわかってる。けど……僕もこの世界に、大切な人がいるから」
そして事実、誰かが捨て石になるしか打開策は無いだろう。
それはジンにもわかった。
フル改造戦艦が戦えてしまうとピンチにならんからのう。
近頃はどの艦も強くなった。以前の艦なんて弱くて目を覆ったもの……
と思い返してみれば、昔から2回行動MAP兵器撃てたり
妖精含めて支援コマンドの山だったりして別に弱くは無かった。
本当にアカン戦艦は、Fと完のBUライト艦だけだったのでは……?




