49 黄金 7
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
この世界最強の兵器の設計図を運んでいる艦の護衛を続けるジン達。
彼らは巨大艦を集めて作られた基地へやってきたが、そこにも敵の魔の手が伸びて来た――。
『ふん、何をしにきたのやら。やはり私がやるしかないという事ですね』
軽蔑したようにそう言い、Sエレクトリックレイは再び前進を開始した。
『そろそろ覚悟は決まりましたか?』
マスタービショップの声は笑っていた。対してジンは――
「ああ。ここらでいいだろう」
毅然と、怒りを含んだ声で、そう答えた。
ジン機の足が止まる。それに倣って他の二機も。
『逃げるのをやめるとは! ヤケクソにでもなりましたかな!』
喜々として突っ込むマスタービショップ。
その機体、Sエレクトリックレイの頭に稲光が輝く!
だが電光が放たれるより先に、彼の全身を異様な倦怠感が襲った。
(む……スピリットコマンドによるデバフですか。しかし、どうやら消耗していたようですね)
眉をしかめながらも余裕を失わないマスタービショップ。自分の状態をステータスウインドで確認する。
コマンドを受けた感触は2発――現在の戦意が110ほどに低下していた。情報ではもう2発は使われる筈だったが、それだけのSPが相手に残っていなかったのだろう。
確かに命中・回避を補正するスキル【見切り】は発動しないが……。
(しかし私のMAP兵器は戦意不要武器! さあ、吹き飛びなさい!)
マスタービショップは機体を走らせる。いよいよジン達の機体が武器の範囲へ入る――
――その直前、三発の同時射撃がエレクトリックレイを撃ち抜いた!
『なんですと!? どうして!?』
驚愕するマスタービショップ。
「頼りになる武器があるのはいいが、それで基本が疎かになってりゃな……」
呆れて呟くジン。
敵の移動力+MAP兵器の範囲。
その少し外、自分達の射撃武器は届く位置。
ジン達はその丁度いいポジショニングを考えて場所を移動していたのである。
(マスターウインドが撤退してくれなけりゃ、立ち塞がった奴にボコられた所をMAP兵器で吹っ飛ばされてお陀仏だっただろうがよ……)
そう考えながらもジンは合体技の指示を飛ばす。
「トライシュートォ!」
再び三発の射撃がエレクトリックレイを撃った。
『す、スキルが発動していないとはいえこうも避けられないとは!?』
エレクトリックレイは運動性も高めで回避力は優れている方だ。さらにジン達には【指揮官】スキルで命中補正をかけてくれる艦長もいない。
だが2度の同時射撃は的確に白銀級機を捉えていた。
実際、ジン達の機体に表示される予想命中率は60~70%台。
だがダインスケンには短時間だけ攻撃を必中させるスピリットコマンド【ヒット】があった。
そして――同じコマンドがジンにも。
(前回の戦いによるレベルアップで、俺にもこれが備わったようだな)
それをジンはステータスウインドで確認していた。思えば艦内でマスターウインドに拳を叩きこめたのは、このコマンドを習得していた影響だったか。
【ウィークン】の使用回数を抑えたのは、この技にSPをまわすためだったのだ。
Sエレクトリックレイのあちこちから火花がとぶ。武器などではない、受けた被害が大きくて各所が破損しているのだ。
5000を超えるダメージを立て続けに食らい、モニターに表示されるHPは3000を下回っていた。つまり――次の合体技が炸裂したらやられる。
『ま、まさか、三人とも【ヒット】を習得しているなんてご都合主義な事はないですよね!?』
『うん、僕には無い……』
取り乱すマスタービショップだが、ナイナイの言葉に一瞬安堵する。
『命中率と回避率が30%上がる【コンセントレーション】が代わりにあるから、これを使うよ?』
『そんなコマンドを習得していたのか。いいぞ、やってくれ』
すぐにナイナイとジンがそんな会話をかわしたが。
再び取り乱すその前に、同時射撃技がエレクトリックレイを貫いた。
『な、なんという事! 水中なら機体武器全て適応Sの私が勝っていたのに!』
嘆くマスタービショップ。
(じゃあなんでここに来やがった……?)
疑問を覚えるジンの前で、敵の装甲が弾け飛び、一際大きな爆発――!
エレクトリックレイが倒れた。
煙を燻ぶらせる残骸を前に、周囲を確認するジン達。
味方はほとんど残っていないが、敵は完全に浮足立ち、早くも逃げる体勢に入っていた。
(ゲームなら資金と経験値のために今からでも狩る所だが……ま、いいか。さっさと失せな)
ジンはあえてそれを見逃す事にした。
だがリリマナがモニターを見てか細い声をあげる。
「じ、ジン! 敵増援だよォ……」
「まだ来るのか!? まさかマスターウインドが戻って来たんじゃ……」
慌ててモニターを見るジン。
しかし映っているアイコンは別の機体だ。
山頂近くに出て来て、戦場を高みから見下ろしている。その機体から、明らかにジン達へ向けた通信が入った。
『なるほど。やるではないか、試作品。マグレではない事を認めてやろう』
その声に、恐れ慄くマスタービショップの声。
『あ、ああ……貴方様は! そ、そんなまさか……大隊長殿!』
モニターに表示される、新たな機体の操縦者。それは紫のフードローブで顔を隠した謎の人物だった。
「親衛隊は魔王軍三番目の高位だったよな。それがビビってるなら、あの増援は二番目って事か」
「う、うん。四大隊を率いる、魔王軍の四天王……」
ジンの問いに青い顔で答えるリリマナ。そしてその目が恐怖と驚愕で見開かれた。山頂に立つ、敵の機体を見て。
「ご、黄金級機……信じられない……!」
白銀級機以上の装甲は、さながら金色に光輝くプレートアーマーのようだ。青銅級機のような生物質のパーツはほとんど露出していない。
背中には節足動物のような脚が折りたたまれて翼のようにも見える。肩パーツは鋭く尖っているが、よく見れば閉じた鋏なのか。
「そういや過去に魔王が乗ってた事もあったんだっけか。今の魔王軍にあっても不思議は無いって事かよ」
ジンの呟きを聞き、黄金級機から笑い声混じりの返事が飛ぶ。
『そうだ。だが現魔王軍は過去の亡霊の比では無いぞ。四大隊を率いる四天王……その全てが黄金級機を駆っているのだからな』
「え、ええ!? ちょっとォ! 七機しかこの世に存在できない黄金級機が、四機も魔王軍にあるっていうの!?」
リリマナが悲鳴をあげた。
『一機しか持ってはいけないという規則など無いのでな。そして五機目の黄金級機を製造しようとしていた矢先、その設計図を紛失するという許されない失態がおかされた。おかげでいらぬ手間をかけさせられるわ』
そう言いながら、黄金級機は動いた。
『さあ、魔王軍四天王にして海戦大隊長、このジェネラル・アルタルフが見せてやろう。黄金級機の力の一端を、このGアビスキャンサーでな!』
叫びながら操縦者がフードローブを外す。モニターにその姿が映った。これまではシルェツトに隠れ、声しかわからなかった男の顔が。
口髭をたくわえ、ターバンを巻いた浅黒い肌の精悍な中年男だ。鋭い眼光を放つ双眸は、余裕と侮蔑を籠めて笑っていた。
黄金級機・Gアビスキャンサーの、背中の脚が展開し、扇のように広がる――!
『お、お待ちください! やめてください死んでしまいます! やめて助けて……』
悲鳴をあげて懇願するマスタービショップ。
だがアルタルフの返事は無情だった
『それも貴様らの仕事のうちだ。死ねば全て同じ事、大差など無いわ!』
黄金級機の脚先全てに、黒いエネルギー球が生じる。
それらの球が放たれ、山間部の荒野に落ちた。
球が互いに反応し、膨張し、混ぜ合わさって巨大な渦となる。
その渦に呑まれ、巨大艦の一機がひしゃげ、たわみ、吸い込まれていく! 周囲の残骸もろとも!
「なんだこりゃ! ブラックホールかよ!」
ジンが叫んでいる間にも、Gアビスキャンサーは同じ攻撃を再び繰り出そうとしていた。
(MAP兵器をお手軽にぽんぽん撃ちやがって! 敵ばっか強機体を次々出すなんぞスジが通らねぇ!)
どうにもならない状況に歯がみするジン。
だが最寄りの巨大艦の陰から、大きな竜が顔を出す。全身を覆う人工の装甲を見れば、それがこの世界の軍艦である事は明らかだ。
その艦から通信が入った。
『撤退する! ジン達はここへ!』
ヴァルキュリナの声である。艦の脇腹が開き、格納庫の入り口が見えた。
「チッ、しゃあねぇな!」
舌打ちしながらも艦に駆け込むジン。ナイナイ機もダインスイケン機もついてくる。
ジン達を収容し、艦は大急ぎで巨大艦の陰に走り込んだ。
直後、その場に黒い渦が着弾し、何もかも呑み込んでゆく。
数分の後。
山間の荒野はいくつもの巨大クレーターで抉られ、土の上を虚しく風が吹くだけの大地になっていた。
もはや何も残っていない。少し前まであった筈の、半人半獣の人造巨人達も。跡形もなく。
それを満足気に見下ろしていた黄金の巨人は、悠然と背を向けて去って行った。
祝2000PV。感謝。
この作品を読んでいただきどうもありがとうございます。
ネット小説界だと全然なスコアだそうですが、それさえ全く届いていなかった自分としては嬉しい話です。
この作品はそろそろ折り返し地点ですが、今後も少しでも楽しんでいただけるようにしたいものですな。




