46 黄金 4
異世界へ転移し、巨大ロボ:ケイオス・ウォリアーの操縦者となった男・ジン。
彼は世界を席巻する魔王軍へ、仲間と共に敢然と立ち向かう。
この世界最強の兵器の設計図を運んでいる艦の護衛を続けるジン達。
彼らは巨大艦を集めて作られた基地へやってきたが、そこにも敵の魔の手が伸びて来た――。
一歩一歩、ジンへ迫るマスターウインド。
ふらつきながらかろうじて身構えるジン。
もはや跳躍一つで最後の一撃が入る、その間合いまで来た。その時――。
「やめて!」
ナイナイがジンの前に出た。
「ほう。お前も命はいらんのか」
殺気をそちらへ向けるマスターウインド。
だがナイナイは――恐怖に震え、涙さえ薄っすら浮かべてはいたものの――精一杯叫ぶ。
「二人を見殺しにして僕だけ行くわけないだろ! お前達も軍の人も、みんな好き勝手ばかり……なら僕も勝手にする! 僕は僕の大切な人といるんだ!」
その肩に、ジンは後ろから手をかけた。
「ありがとよ。だが、俺はまだ……」
言いながらナイナイをどかそうとする。ナイナイの心意気は嬉しくとも、マスターウインドと戦えば殺される事は目に見えているのだ。やらせるわけにはいかない。
だが、ナイナイは――
くるりと振り返ると、ジンの胸に飛び込んできた。
「どかない! 嫌だ!」
無意味な我儘である。
一撃で容易く人を絶命させうる敵へ無防備に背を向け、一体何になるというのか。
だがこの状況でナイナイにできる事など無いのだ。意地をはる事以外には、何一つ。
「よかろう。その覚悟に免じ、二人一緒にあの世へ送ろう!」
マスターウインドが必殺の拳を放とうと身を沈める。
しがみつくナイナイの、震える華奢な肩に、ジンの左腕が優しく触れた。
「ありがとよ。だが、俺はまだやれるから……まだもう少し、やれるから」
そしてナイナイをそっと剥がし、己の横に退かせた。
力など大して入っていなかったが。
ナイナイは「あっ……」と小さい声をあげただけで、抵抗できなかった。
ジンが身構える。異形の右腕に力が籠り、敵へ打つために腰溜めに握りしめられた。
マスターウインドの額に一筋の汗が流れる。
(残っていなかった筈の力が……あと一打、あるな。それで私が倒されるわけもないが。無い筈だが……)
何か、嫌な感じがある。戦闘の達人がもつ勘が危険を告げていた。
(だが、やるならば躊躇は無用。ゆくぞ!)
途中で止められていた最後の攻撃が、いよいよ炸裂する――
だがまさにその時。
「まてまてェ! こいつがどうなってもいいの? 獲りに来たんでしょ、黄金級機の設計図を!」
皆の頭上から叫ぶリリマナ。
その場にいる誰もが上を見た。
リリマナが抱える、様々な光彩を放つ透き通った珠。記録を詰めこむアイテムである事は、先日ジン達も聞いた通りだ。
リリマナはそれを紐で縛り、花火を括りつけていた。しかも既に着火してある。
「貴様! 何を!?」
嫌な予感にマスターウインドが初めて狼狽を見せる。
構わずリリマナは宝珠から手を離した。
「飛んでけェ!」
リリマナから離れた瞬間、花火が火を吹いた。
打ち上げ式の花火である。ロケットのごとく火を吹き、倉庫の遥か奥へ、宝珠を括りつけたまま飛んでいく!
すぐに倉庫の奥で、爆発音とともに光が爆ぜた。何かが吹っ飛ぶ音、転がる音が響き渡る。
「ほらァ、探しにいかなくていいの? 早く探さないと、何かに引火して燃えちゃうかもだよ!」
リリマナが大声をあげた。
忌々し気にリリマナを、そしてジンをも睨むマスターウインド。
「クッ……運のあるうちは死なん物だな!」
そう吐き捨てて、彼は倉庫の奥へ走り去った。己の第一目的を見失う男では無かったようだ。
マスターウインドが去ったすぐ後、最後のゴーレムがダインスケンに倒された。
それを見届け、リリマナはジンの目の前にふわりと降りてくる。ジンは疲れきった笑顔で手を差し伸べ、彼女を受け止めた。
「へっ、ナイス機転だ。だがスイデンの軍にバレたら銃殺モンなんじゃねぇか?」
それに答えたのは、物陰から恐る恐る出て来たクロカだった。
「あれはあんたらに見せた市販品の安物。中のデータはあんたらの機体の修理記録さ。軍にバレても何も言われないけど、マスターウインドにバレたら今度こそ皆殺しだから! 早く逃げないと!」
ナイナイが泣きそうな顔でジンに近づく。
「ジン、ケガは大丈夫?」
言われたジンは「まぁな」と応えたが、歩き出そうとした途端にぐらりとバランスを失い、再び膝をついてしまう。
緊張が途切れた途端、体がダメージを抑えていられなくなったのだ。
「こりゃ仕方ねぇ……。俺は置いていけ。こっちはなんとか隠れる場所を探してみるからよ」
「できるわけないだろ!」
溜息混じりのジンに、ナイナイは涙声で叫ぶ。
ジン達が往生していると、倉庫の奥――宝珠が飛んでいった方から、運搬用のゴーレムがのそのそ歩いてきた。
ダインスケンが倒した戦闘用の物と違い、荷物を載せた台車を牽引するしか能のない木製のゴーレムである。台車には様々な資材が山と積まれ、ゴーレムに肩車される形で行き先を指示しているのは――部屋にいるはずのゴブオであった。
ゴブオはジン達を見て驚きに目を見開く。
「アニキ? 何やってんです、マスターウインドが向こうに走っていきましたぜ。早く逃げるっス」
「お前、何してんだ?」
逆に訊くジン。
「へえ、ヒマだったしもうすぐ軍をやめるというしで、ちと値打ち物を探してたんスよ」
いけしゃあしゃあと言うゴブオ。
「コイツ……当たり前みたいに窃盗しやがって……」
クロカがひきつった顔で漏らした。
実はマスターウインドも、なぜか資材を漁っているゴブリンがいるのは見かけたのだが、なにせ貴重品を追いかけていた(つもりだった)ので、雑魚モンスターなど無視したのである。
「まぁ助かった。俺も載せろ。行き先は俺らの機体だ」
呆れながらも命じるジン。
「はあ、確かにケイオス・ウォリアーも貰わないといけませんね。了解っス」
少し勘違いしてはいるが、ゴブオは一も二も無く同意した。
台車で運ばれながらジンはクロカに訊く。
「ところで回復魔法とかアイテムとかは無いか?」
少し考えるクロカ。
「治療術師達の所まで寄り道する事になるけど。ま、途中にあるからついでに寄れるか」
「よし……ならなんとかするかよ」
傷を抑えてそう決めるジン。
マスターウインドとの再戦はすぐに来る。そう予感していた。
HOKU斗の拳のコミックス前書きに「俺が屈強な大男ならウザい奴らボコボコにすんのにな~悪党どもは漫画の中で死刑!」とあった事を知る者ももはや少なかろう。
やはり願望……願望を形に変える事が創作の才能なのではないか。
逆に創作の世界で芽が出なかった者には「俺は無欲な聖人なので」という言い訳の余地が残されているという事になる。
良かった。才能が無いのは無欲だからなのだ。
メダルを生み出してコンボ組めるぐらいの欲望が無くて残念である。




