お巡りさん、私です
あれから数日間、馬車の揺れと戦いながら進んでようやくドヴェルグに到着した。二度と乗らんからな馬車。あの揺れで私は酔って何回リバースしたと思う、テレビならしばらくお待ちくださいの文字が出るわ。
「レイカ殿、ここで待ってて貰えるだろうか」
門の前でナツミさんがそう言ってくる。
「あいよー」
これから報告かな?私は特に気にしないし気長に待つよ。
「主様ー、これでどうかな?」
「ん?」
と、そんな時に横から馬車から降りてくるのはワルキューレ。しかしその姿に特徴的な翼などは存在せず、ただの人間にしか見えなかった。バルキリーもそれは一緒だ。
「なんだ、そんな事が出来たのか」
最初からやって欲しかったです。説明がややこしくならずに済んだのに。
「こういう事できるのさっき思い出してねー」
「ど、どうでしょう主人。おかしくはありませんか?」
あははと笑うワルキューレと少し恥ずかしそうに自分の体を触るバルキリー。うん、可愛い。
「いや、おかしなところはないぞ」
「そ、そうですか。良かった」
「こうしてみるといい姉ちゃんだな」
そんなワルキューレ達を見てガハハと笑うのは親方。見た目だけだぞ、可愛いのは。戦いを見る限り竜相手にも防御に専念すれば負けない実力があるだろうからね。
「んー、報告とやらが終わったら一度宿屋で休みたいな、流石に馬車で揺られて体が痛い」
「なんだ、レイカは馬車には慣れてないのか?乗ってる時も酔っていたし」
そんな親方はあの揺れの中、イビキかいて寝てたよな。化け物か。
「まあ、いつも徒歩か使い魔だしなー。馬車での移動は初めてだった」
できることなら次はないといいなぁ。と、そこで詰所の方から重々しい鎧を纏った兵士達がこちらにくる。話は済んだのかね。
「んー?なんだあいつら。武力制圧用部隊なんて出してきて」
そんな様子の兵士達を見て怪訝な目を向ける親方。ふむふむ、何かよくない事があったか。
「罪人レイカだな?君を拘束させてもらう」
その集団は私を取り囲むとそのように言い始める。それに対して反論するのは私ではなく、周りに居たアレン少年や親方だった。
「な、何を馬鹿な事言ってるんだ!レイカはワシらを助けてくれた恩人だぞ!あそこで止めなければそれ以上の被害もあったかもしれない!」
「そ、そうです!何も悪い事はしてないですよ!」
庇ってくれる二人はすごく嬉しいんだけどさ。それが気にならないほどに隣にいるバルキリーがね?聞いてから今にでも本気出してこの街滅ぼそうかとしてるんだよね?必死にワルキューレが止めてるけど。
アイコンタクトでバルキリーにやめろ、と合図をすればグッ・・・とした表情で抑える。それを止めていたワルキューレはホッとした顔である。ナイスだぜワルキューレ!
「罪人レイカには竜を操りそれを自分が止める事で出世を狙った罪がある。故に拘束だ。抵抗するようであれば武力で制圧させてもらう」
親方達の意見にも耳は貸さず、あくまで威圧的に話す。問答無用と言った様子だ。
「ふむ、証拠は確かにないし言いがかりだとは思うが、否定はできん」
つーかやってない証明とかそれこそ出しようがないし。ここで抵抗してもいいんだけど、それするとナツミさんの立場とか危うそうなんだよね。
「そういう事だ、確保しろ」
するとじりじりと詰め寄り、私の腕を掴むと手錠のようなもので拘束された。それはバルキリーとワルキューレも同じだ。私はともかく、二人は普通に抜けられるだろうが私に従い大人しくなっている。
そのまま私達は連行されて兵の詰所に連れて行かれ、地下の牢獄に入れられた。
「このまま王都より使者が来る、それまでここで大人しくすれば命は助かる。が、暴れるならその限りではない。肝に命じておけ」
そう言って重そうな鎧の男は階段を上り地下を出て行った。
「ふーむ、まいったね」
私はどかっと手で掘られたような床に座り込む、ヒヤリとして冷たい。
「何故止めたのです主人、あれくらい。主人ならいくらでも返り討ちにできたはず」
不満そうに言うバルキリー。ワルキューレは・・・何か寝てる、緊張感ねぇな!
「あのまま暴れると困るのはナツミさんかな?と思ったからだな。それに王都だろう?少し興味はある」
あのレマカリスの杖を持っていたのはマモン王国の王子とかなんとかって言ってたからな。その出所を知るにもちょうど良かった。ツテなんてないからこんな事がない限り城にも入れないだろうし?
「・・・私は不満です。主人に、あのような格下に侮られた目を向けられるのは、腹が立ちます」
「その気持ちは嬉しいけど、今は我慢してもらえる?その分後で撫でてあげるから」
「な、撫で!?え、えぇ、別にそんな事で私は」
「じゃあやめる?」
「そうは言ってません!」
なるほど?なんだかバルキリーの扱いがわかって気がしたぞ?




