ギャバンの危機、舞い降りた光
今朝、若い娘の遺体が水路を巡回中の兵によって発見された、役人である魔導師や神官の調べでは複数のバンパイアに数時間にわたって嬲られながら血を吸われ続けて死んだということだ。酷いことをするものだが最大の問題はこの町にバンパイアが潜んでいるということである。
バンパイアか、嫌なことを思い出す15年も前の話だというのに2つの国が滅びるところを目の当たりにしながら我輩は何も出来なかった。コーガ、ツゲ王国は多くの生贄を使った大規模な禁呪の前に成す術なく焼き尽くされたのだ。
唯一の救いはコーガ国王の英断によりコーガ国民の半数を周辺国や友好都市に疎開させていた事により、多くの人命が救われた事である。ツゲ国民は残念ながらほぼバンパイア化されるか同邦の餌になっておった。
コーガ王国の王、ガオウ=ガオ=コーガ様は吾輩が心より尊敬する人物であった。歳は当家の長男であるサリバンと同じであったが文武に優れ誰よりも民を愛する名君と言うに相応しい人物であった。
生き残った5大士族を中心としたコーガ解放軍が祖国奪還の活動に励んでおるが、大地は魔獣と呪いに満たされており、黒い城と頑強な砦から禁呪を使う魔導師や強力な魔法生物、ゴーレムが出陣し解放軍を蹴散らしてしまう。
奴らが何の目的でそのような悪業をするのか全く分からぬ。覇権を欲するなら他の領土に攻め込むか国力を増強するはず、だが奴らがする事は無意味な殺戮と破壊工作ばかり、あれだけの魔法技術と力がありながら国を起こす事もせず旧コーガ、ツゲ領で魔法実験と近づく者を拉致もしくは虐殺するのみ。
先日の人族至上主義霊長派によるロクジョウ襲撃未遂事件と真人類派の理解不能な破壊活動の裏で糸を引く謎の組織とコーガ、ツゲ王国を滅ぼした者は間違い無く同一であろう。
そして町に侵入したバンパイアの存在、15年前の惨事もツゲ王国の宮廷魔導師オリアーティが自らの研究でバンパイアとなった事がキッカケだったことが判明している。
霊長派の入念に準備された襲撃計画及び、真人類派のゴブリンを操る魔道具を用いた作戦と入れ知恵、敵は2つの作戦を潰されたのだ。そして町に現れたバンパイア、無関係とは思えぬ。
奴らが最終的に何を企んでいるかは分からぬがロクジョウの町を害し、吾輩を抹殺しょうとしている事は間違いない。どのような者が来ようと返り討ちにするだけである。
吾輩がそのような考え事をしていると、けたたましく鐘の音が鳴り響き兵や役人達が慌ただしく動き出した。もう日が暮れているというのに緊急事態か!?吾輩が外に出ようとすると、伝言用の鳥の魔道具が飛んできてムタミの声で話し出す。
「ギャバン様!ロクジョウの周囲を8体のバンパイアロードが取り囲んでいます。奴らは配下のバンパイアと共に包囲を狭め町に向かっております!」
なんだと!バンパイアロードが8体も配下のバンパイアを引き連れて来るとは、敵は本気で吾輩とこの町を滅ぼすつもりか!
「敵の到達には少し時間があるためミクニを通じて兵士、役人に住民への避難指示及び誘導を命じ、各門の警備防衛は騎士団、傭兵ギルド、冒険者ギルドに依頼を出しております」
流石はムタミ迅速な対応である!では吾輩もバンパイア退治にいくとするか!
「最後に悪いしらせが、町の中に3体のバンパイアロードが昨日より侵入している模様です!なおそのうち1人はオリアーティであると交戦したカムリと能力を使ったキースによって確認されています!」
なんだとぉぉぉ!!奴が生きておったというのか!?2つの国を滅ぼし、多くの民の命を奪った極悪人が!禁呪によって滅んだかと思えばのうのうと生きておったのか!!
「奴の狙いはギャバン様である可能性が高いので戦闘準備を出来れば対バンパイア装備で整えてください!私とカムリとキースもすぐにそちらに向かいます!」
対バンパイア装備といってもミスリルアーマを装着するくらいである。後は聖なる生地で編み込まれたマントを纏い愛用の豪剣ギランドルを肩に担いで準備完了である。
装備を整え終わるとムタミ達がやっ来た、全員が戦闘準備完了といった出で立ちをしておる。町が危機的状況にあるというのに心踊るのは武人としての性であろう。
「ギャバン様!ご無事でしたか!」
ムタミが心配そうに駆け寄って来おった、こ奴が聖騎士の鎧に身を包んだのは何年振りのことであろうか。カムリとキースもコーガ王国に代々伝わる戦士の衣装を身にまとっておる。やはりこの戦を前にした緊張感に、吾輩の血が滾っておるようだ。
「最初のバンパイアロードが北門にタドリ着いた!門の外で兵士と神官が食い止めヨウトしてイル!」
キースが敵の動きを察知して報告する。盲目であるが故にに様々な特殊能力を持つ男であるが、感知系の能力の冴えがこの1ヶ月抜きん出てて良くなっておる。
ムタミの所に伝言の魔道具が飛んできてミクニの声で報告する。
「住民の避難は完了しました!非戦闘員は全て領主の館、兵士の詰所等、比較的安全な場所にいます。敵に対しては騎士団、兵士、神官、傭兵及び冒険者ギルドの全戦力をもって迎え撃ちます!」
改めて思うが頼もしい物である!緊急事態にこれだけ迅速な対応が出来るのもムタミ、ミクニの代官一族と傭兵、冒険者ギルド、騎士団、兵士の練度と結束の強さがあってのものである。本当に素晴らしい町になったものだ、民のために必ず護らなくてはならぬ!
「オリアーティに動きがアッタ!マッスグこっちにムカッて来る!」
キースの叫びと共に今まで感じた事が無いくらいのドス黒い瘴気がこちらに向かってくる。吾輩は屋敷を出て門の前で待ち構える。左右にムタミとカムリ、後方にキースの布陣である。バンパイアロードとは何度か対峙した事があるが、これだけ威圧感のある瘴気は初めてである。
闇の中から3人の男が現れた、左右の2人は揃いのフード付きローブを着て顔がわからぬ。真ん中の男は見るからに上位者である、黒い正装の上に漆黒のマントを纏う、こ奴がオリアーティであろう。カムリとキースが普段からは想像も出来ないような殺気を放っている。
「はじめましてギャバン卿、私は元ツゲ王国宮廷魔導師にして現在は真祖をも超える最強のバンパイア・・・そうですねえバンエンペラーとでも言いましょうか、オリアーティと申します」
バンエンペラーだと?また仰々しい名前を付けおって。いや、確かにこの凶々しい瘴気はバンパイアロードとは比べ物にならぬ。並みの胆力であればこうして対峙するだけで気を失うであろう。
「ロクジョウの町に何をしに来たのだ?いかなる種族のものでも暮らせる町であるが邪悪な化け物に永住権を与えることはできぬぞ」
「大丈夫ですよ、この町は「あの方々の前線基地」となりますので。この町の住民は全て我等の手先に、あなたは強力なバンパイアロードとなっていただきます」
オリアーティが右手を上げると左右の2人が襲いかかってきた、吾輩はギランドルを構え相手の動きを見る。速さはダイチと同じくらいか、捌けぬことはない。
右側が長剣を振るい、左側が中距離から衝撃波を放つ。長剣はカムリが受け止め、衝撃波はムタミがシールドにかけた防御の法力で弾く。間髪入れず吾輩の斬撃が長剣の男を切り裂き、キースの念動破が衝撃波の男の胸に穴をあける。
しかし、瞬く間に傷が再生し何事も無かったかのように間合いを開けた。そして笑顔のオリアーティが拍手をしながら楽しそうに言う。
「いやあ、みなさんお強いことで嬉しく思います。全て我等の戦力となるのですから」
2人のバンパイアの背中からコウモリのような翼が生えると、さっきとは比べ物にならないくらいの瘴気が放たれる。再び攻撃を仕掛けて来るが強く早い連続攻撃と広範囲の衝撃波に防戦するのがやっとである。バンパイアロードというがさらに上位種と言った方が良いかもしれぬ。
2人は一旦攻撃の手を止め、オリアーティの左右の定位置にもどった。
「いかがでしょうかハイパーバンパイアロードの力は、この町を襲撃している者は皆この2人と同格の力を持っています、警備隊の全滅も時間の問題かと」
まずい!ここの4人はこの町では最強クラスのパーティなのである。我等でこの有り様では他の者では太刀打ち出来ぬ、強いて言えばダイチくらいか。
「取り敢えず虫ケラどもは隠れているようですが、警備隊を蹴散らした後は8人で陣を組みこの町の住民全てをバンパイアとさせていただきます」
「吾輩がそのような事をさせると思っておるのか!」
オリアーティはコウモリの翼を広げると目が赤く光り、凄まじい威力の瘴気波を放った。ムタミ、カムリ、キースは吹き飛ばされ吾輩も凄まじい瘴気に身体が痺れている。
「ギャバン卿は先にハイパーバンパイアロードとなっていただいて、コイツらの生き血を啜ってもらいましょう」
オリアーティは吾輩の胸にドス黒い宝玉を当てると針のような物が飛び出して身体の中に侵入してくる。ぐうぅぅ何だ!?この身体が自分の物で無くなっていく感じは!?
「すぐに気持ち良くなりますよ、最強クラスの戦闘力を持つバンパイアとして私・・・いや、あの方々のために働くのです」
何か言い返したいが気を練って進行を止めるのが精一杯である、このままでは長くはもつまい。耐えていると2体のバンパイアが慌てて飛んできた。
「オリアーティ様!大変です!輝く全身鎧を着た戦士が空を飛びながら我等以外のバンパイアを全て消滅させてしまいました!」
「さらに我らが血を吸い、バンパイア化しかけた人間に光を浴びせて元に戻したのです!」
「なんだとぉぉぉ!!まさかエンリーク神殿のアークデーモン計画や、霊長派によるロクジョウ攻撃作戦を潰した神の戦士か!?」
神の戦士が現れて町を救ってくれたのか・・・だが吾輩の意識は・・・まずい・・・血が飲みたく・・・・
「ヒーリングライトォォ!!」
天空から光が降り注ぎ、胸につけられた宝玉が砕け散った。強烈な疲労感が全身を襲うが、バンパイア化は免れたようである。
立ち上がり目を凝らすと、天より光り輝く全身鎧の戦士が現れ、短く舞いながら名乗りをあげる。
「・う神装甲ソルテラス!」
意識が朦朧として最初のほうが聞き取れなかったが装甲とは鎧の事であろう。そして最初は聞き取れなかったがその姿を見れば間違いない無かろう「闘神」様が舞い降りたのだ!!
次回、時間を少し戻して大地の視点に戻ります




