↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダダ漏れな2人  作者: tosa


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/23

おまけ③

「皆さんこんにちは。志染浅利しじみあさりの「日本にもシェスタとベーシックインカムを導入しなさいよ政府」を改め「日本にもスマホ投票システムと配送物時間指定禁止法と被害者が加害者に自由に報復出来る復讐法を導入しろや政府」のお時間です。今日から番組名がほんの少しだけ変わりましたが、リスナーの皆さんにはこれからも応援していただければと思います。え? 番組名が変わった理由ですか? ふふふ。そうですね。権力者と上級国民とプロデューサーからの圧力があったなんて事は決してありません。ただ私もいい大人ですので、そろそろ丸くなろうと思っているだけですよ。さて。梅雨なので仕方ないですが、相変わらず今日も曇り空ですね。でもこの素敵な午後を彩るリスナーの皆さんからのお頼りをご紹介していきますね。ラジオネーム「奇跡が起き片想いの女性と付き合う事が叶うもまだ手を繋げないヘタレな俺」さんからです。あらあら。ラジオネームと相談内容がほぼ同じですね。ふふふ。そうですね。誰しも最初の1歩を踏み出すのは勇気が要りますよね。私も証券会社時代、インサイダー取り引きに手を染めた瞬間は今もまだ鮮明に覚えていますよ。あら? 何のお話だったかしら? そうそう。その後の大使館時代は某国の外相とその妻との泥沼三角関係、昼メロドラマフューチャリング刃傷沙汰。そんな事もあったわね。そう。その後に私は運命の本と出会ったの。偉大なる革命思想家、北湖歩子里ほっこりぽっこりの傑作著書「革命しちゃいなよ?」に! それから私は変わったわ。朝食はシリアルから発芽玄米に!  昼食はマックからケンタに! 夕食は牛丼から豚丼に! 就寝前のストレッチからナンパした男と夜の運動会へ! 華麗に優雅に生まれ変わったのよ! そして導かれるように「転覆革命桜吹雪」に入党! 党員数現在14名! 絶賛入党員募集中ですわよ! えーと? 何の話だったかしら? ふふふ。まあいいわ。とにかくこのラジオを聴いているリスナーの皆さん。私達「転覆革命桜吹雪」に入党して、この国を。そう! 例えるならバスマットの裏(意味不明)から徹底的に粘着テープコロコロで掃除しまくってピカピカにするのよ! お掃除大好き! 革命万歳! イーヤッホー!!」


 ······志染浅利の絶叫の後、ラジオ番組は強制停止された。


「他与太さん? 大丈夫ですか? 顔が真っ青ですよ?」


 直角直子が心配そうに丸平他与太の顔を覗き込む 。2人は中華料理店を出た後、川沿いの土手を歩いていた。厚い雲で空は覆われており、昼間でも外は薄暗かった。


「い、いえ。大丈夫です。直子さん。変なラジオを聴かせてしまってすいませんでした。突然放送も止まるし」


 他与太は今しがたまでスマホのラジオ放送から危険思想を垂れ流していた画面を閉じる。


  他与太『······まさかまた相談メールが採用されるなんて。でも、結局アドバイスらしきものは貰えなかったな』


「どうすれば「なおなお」とアレしてコレしてナニ出来るんだろう?」


「え? 他与太さん。なおなおがナニでなんですか ?」


「!? い、いい言ってませんよ?「なおなお」とチューしてペロペロして揉み揉みしたいなんて? しまくりたいけど踏み出せなくて、岩にしがみついて、気付いたら俺石像になってるじゃん? なんて自分で自分にツッコミを入れてませんから! 元はと言えば、昔何回か会った女の子と夜に飲んだ後、池袋の平和公園で突然ベロンチューが始まり「これ今夜絶対いけそうな気がする」と思うも、ホテルで何故か徹底抗戦、いや絶対防御、いやいや完全拒否されてホテル代だけ消えて翌朝立ち食い蕎麦で食べたかけ蕎麦がちょっとしょっぱかった的な思い出がトラウマになり、女性に対して奥手も奥手、奥日光の山に籠る熊さん的な根暗になり今に至りますなんてとても言えないですから!!」


「た、他与太さん。とにかく一旦落ち着いてください」


  直子が他与太の背中を擦ると、他与太は力無く座り込み両手で頭を抱える。


「······すいません。直子さん。せっかく直子さんと念願叶って付き合えたのに。俺がもっと上手にリードして直子さんを幸せな気持ちにさせないといけないのに。俺は自分が情けないです」


「······他与太さん。誰しも過去はあります。それは 、必ずしも楽しかった思い出ばかりじゃないかもしれません。でも、過去は変えられませんが、未来は変えられます!」


「み、未来ですか? 直子さん」


「そうです他与太さん。黒歴史を。一緒に黒黒歴史も、ついでに黒黒歴史マシマシもまとめて全部楽しい記憶で上書きするんです!」


  未来だけ見据える直子の前向きな視点に、この時他与太はただ圧倒されていた。


「私だって黒光り黒歴史くらいあります。私は他与太さんも良く知っている通り、杓子定規で融通が効かない生真面目女です。勿論子供の頃からこの性格で、恋やお洒落を楽しむ同世代を冷めた目で見ていました。でもね他与太さん。本当は普通に青春を謳歌する皆が羨ましかったんです。私だって中学生の頃妄想していました。私の良さを分かってくれる白馬の王子様がいつか現れてくれるって。でも、1年経っても、5年経っても、14年経っても白馬の王子様は現れませんでした。14年ですよ? 笑っちゃいますよね。ふふふ。14年なんて、白馬の王子様はもうとっくに誰かと結婚していて。子供もいて。その子供はもう14歳で。ん? 14歳? 私が白馬の王子様を妄想した時と同じ歳? 白馬の王子様にはもう14歳の娘がいて、私の事を「まだ私のパパを待っているの? いい加減諦めなさいよ。お・ば・さ・ん(笑)」ってせせら笑っているの? 私の事を馬鹿にしているの!? なんで? なんで白馬の王子様と絡みが一切無いのに、その性悪な小娘に馬鹿にされないといけないのよ!? 私はそんな目に遭うために真面目に生きてきた訳じゃないのよ!!」


「お、落ち着いてください直子さん。涙を拭いてください」


 涙ぐむ直子にハンカチを渡した時、他与太は直子と同じ目線だった事に気付く。他与太が力無くしゃがみ込んだ時、直子も一緒に膝を折っていたのだった。


  他与太は思う。思えば直子はいつも自分と同じ目線でいてくれた。空を見上げる時も。デート先の風景を眺める時も。落ち込み打ちひしがれて地べたに腰を落とした時も。


  直子のスカートの裾が砂で汚れているのを見て、他与太は自分の悩みが一瞬で消え去った事に気付いた。


 そして自戒する。自分が本当に今すべき事を。 それは、いつも自分と対等でいてくれる大事な人を正面から見続ける事だった。


「······直子さん。俺は貴方と手を繋ぎたい。抱きしめたい。そしてキ、キスをしたいです」


 直子の瞳を真っ直ぐに見つめ、他与太は思いの丈を打ち明ける。


「·····はい。私も他与太さんと同じ気持ちです」


  直子は他与太に照れくさそうに微笑む。気持ちを確かめ合った2人は、ぎこち無くも座ったまま抱擁を交わした。


  異変はその時起きた。他与太がやや直子に体重を寄せた影響で、2人はバランスを崩し土手の斜面に仲良く転げ落ちていった。


 その様子を、母親と手を繋いで歩く3歳の幼児が目撃していた。


「ねー。ママ。お兄ちゃんとお姉ちゃんがチューしてるよ」


 突然妙な事を口走る息子が指差す方角を見た母親は、慌てて息子の手を強く引いた。


「見なくていいのよ。マー君。さあ早く帰ろう? マー君の好きな「ぽっちゃり探偵」がもうすぐ始まる時間よ?」


「はーい」


  幼児は嬉しそうにスキップをしながら一度だけ土手の斜面を振り返った。そこには、互いに顔を赤らめながら幸せそうに笑い合う男女の姿が在った。


「ママー。まぶしい」


  帽子を被ってなかった幼児は、雲間から差し込む突然の太陽の光に小さな両目を細める。梅雨の終わりを知らせる風が上層の雲を退場させ、夏の到来を告げる風が入道雲を連れてきた。




          おわり





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。