第十四節 轟の覚醒 ➀
東から黒い影が、丘陵の斜面をいっせいに駆け下りてきた。
岩の隙間を縫って走るのは、狼種の魔獣の群れ。体を覆う甲殻が、陽の光に当たって鈍く光ってる。
「五体ー!」わたしは上空からランドに声をかけた。
「他の気配は無し!」
見下ろすと、わたしが言うより早く、ランドは杖を地面に打ち付けていた。
今回はランドが先に動くらしい。
遠くを駆けてくる魔獣の下から、巨大な樹が瞬く間に突きあがる。
成長の特性を帯びた木の魔力は、魔獣を岩ごと吹き飛ばした。
わたしは、ぽかんとする。
「えぇっ……」
やりすぎじゃないの!
ランドが静かに杖をかざすのと同時に、わたしは宙を蹴って、風の魔力を押し出して加速する。
さっき出現した巨大な樹の幹から、左右に太い枝が二本、勢いよく伸びてきた。
二本の枝は、しなりながら横へ大きく振り抜かれ、二体の魔獣を叩き落とした。
わたしは空を舞い、三本の矢を一気に形成。そのまま続けざまに放つ。
わたしが三体、ランドが二体――五体の魔獣が、次々と地面に落ちて動かなくなった。
直立していた巨大な幹が、ボシュンッと消える。
ゆっくりとランドのほうを振り向く。はね上がった岩が落ちてきて、下の地面がぐらりと揺れたのが見えた。
地上のランドは、杖をじっと見つめている。
わたしは、思わず声が出た。
「なにその戸惑ってる感じ! 出力抑えるって言ってなかったっけ! 力のセーブできないタイプ?
というか! わたし、なんで合わせられてるの! なんで、自然と噛み合ってんのっ……!」
空中で、ひとりごとをいった。
「群れるぐらいだから、こいつらは小さいよね」
ランドは、倒れた魔獣を見回して、
「ああ。この場合の外殻は……爪か? これで証明になるのか?」
「そうだねえ。これじゃ布もつけられない」
五体の狼種は、どれも三メートルぐらい。牙とか爪を取るにしても、やっぱり小さい。
わたしは、魔獣の身体を覆う甲殻を指して、
「こういうときは、ここでいい」
黒い甲殻――魔獣が、黒い森の魔獣である所以。
「本来の意味での、剥ぐだね。
実際、どの魔獣でも甲殻を剥げばいいんだけど、
ほら……魔獣の中身なんて、余計に見たいものじゃないよね」
ランドは、納得したようにうなづいた。
「それで、さっきのナイ――」
わたしは、ひとつの甲殻の縁に手をかけて、
ベリィッ――!
と、思いっきり引き剥がした。
「……」
「……」わたしは甲殻を放りなげて、淡々と話続ける。
「甲殻も外殻だよ。命の流れが薄くて、外側で硬まった部分」
次の甲殻に手を伸ばす。ひとつじゃ足りないから、あと二枚も同じように引き剥がした。
それから、三枚の甲殻を重ねて、厚みを出したところに番号布をくくりつけた。
この作業の途中、ランドは、
「刃を……使わないのか……」と、つぶやいた。
少し経って――
ランドは甲殻に木の棒を突っ掛けて、ぐいっと剥がす方法をとっていた。
そして、五体分の作業も終わりかけたころ。
次の魔獣の気配がした。
――その気配に、わたしは、とある兆候を察知する。




