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天地生まれの英霊譚  作者: 庵下 流
『騒乱の夜』
31/31

「騒乱の夜」11 ─ 精霊の秘め事 2




          ☆




 どれほどの微睡にあったのか知れない。

 叩き起こされてすぐの戦闘は慣れている。

 しかし、状況は芳しくない。


 第一。武装縛呪の解呪が十分でない。韻唱は響くが、肝心の魔装の能力は半分に落ちている。さらに装填できる術包はごく僅かだ。遥か昔に補給は途絶えている。仕方ない。


 第二。巫女の少女は戦闘体として脆弱すぎる。依代としては優秀だが、戦術妖精の素体は厳しい。

 まあ、可愛いからいいけど。


 第三。世界は破滅寸前だ。訳がわからない。

 「おねえちゃん」は平和だというが、どう考えても帝国終末期の再現としか思えない。目指す勝利の条件すら見えない。

 

 第四。現在の接敵。あの貴族の女の子に擬態している「神」はかなり老獪だ。しかも戦い方が手慣れている。加えて、この場所は理力戦闘に向かない霊域のど真ん中。霊波干渉が複雑怪奇で、能力発揮の障害が多すぎる。


 第五。時間がないのに……。


 生まれ落ちてからずっと戦場で生きてきた「局地迅滅戦術妖精」の心に、強烈な不安と焦りが芽生えた。

 かろうじて残された命の欠片に縋りつき、取り戻した意識は、またもや風前の灯だ。

 自分は戦闘のためだけに作られた存在と割り切ってはいる。目の前の戦場で敵を駆逐し突き進む。それが唯一の生き甲斐であり、存在理由だった。

 あの精霊の意思を、感じ取る前までは……。



 魔装から放たれた「離絶陰子速射包」が、発現する度に打ち消される。相手の術理回路に、直接届いているはずなのに。

 未知の防御界か。

 同包した「探知妖精」から微かな困惑を受け取った。貴族の少女の行方が知れない。次元を跨いですら、魂魄の痕跡さえも辿れない。

 結論は、「この場所に少女は存在していない可能性が高いが、探知能力の限界が下げられているため、そう判断するべきではない」だ。

 戦術妖精は、思考速度を上げる。

 ならば、あの神を破壊せずに鎮圧し、理力接触を果たして情報を奪い取る。そのための戦術構築。同時に、少女の状態推測促進。


 少女はどこかにいる。少女は殺されない。少女は抹消されていない。少女はここにある。少女は隠されている。少女は神によって封じられている。何処に?

 極宝を捜索。不明。神は所持していない。何故?


─── 貴族を捕らえます。


 シーテリケが動く。

 貴族の男に。極宝の在処。可能性。

 あの神は、貴族の「守護神」?

 最新の「神魔種別検索」が辿り着いた結果。

 条件近似、一件。百二十二年前。「洞棲・変幻・不屈のド・グ・ハ神」

 

 警報に、体に巻いた防御界が自律軌道を捻った。そのまま、不規則に飛び回る。

 突然に行手に現れる、理力干渉波の進行域から逃げ回る。ただし、対象までの距離を保ちながら。

 捕捉の粒子線を掻い潜る。一つでも弾けば、狙いの焦点を与えてしまう。森の木々が遮ってくれるのはありがたい。


 「ド・グ・ハ神」。あれが同一個体なら、百年以上存続の一級神格。極宝は「極匱」。大きさに関わらず、生命体の秘匿が可能。

 その箱は何処にある?

 ……あの貴族か!


 突然、セレネアの苦痛が意識に響く。

 纏う防御界が消え失せる。

 体が失速し、地面に叩きつけられる。


 戦術妖精は狼狽え、音にならない叫びをあげた。

 いつの間にか防御界に侵入した不可知の因子に、魔術構築を一瞬で解かれた。敵に仕掛けた魔装の攻撃を、標的情報を書き換え、送り返された。


 セレネアの小さな体に、あってはならない破壊が起きる。

 地面に転がり、ただ震える血塗れの体めがけて、熱波を曳く視認できない重力球が襲いかかる。


 螺旋の眼光が睨みつける。

 闇の中を、捩れた不気味な金属光沢の縄が走る。

 重力球の猛烈な質量が、それを飲み込む。

 黒く流れる粘液が掌を形造り、小さくなっていく重力球を握り潰した。


 戦術妖精に余裕は無かった。その魂魄の大半を具現化し、「救命妖精」を創り出す。

 同時に魔装へ、最後の切り札を捩じこんだ。

 「試策二号」。標的に霊力暴走を引き起こす。

 神に使えば、その神威の制御を奪う。結果、何が起こるかわからない。廃棄の判断も当然の劇物。

 しかもここは霊域だ。この強烈な霊波の只中で実体化させたこの体が、珠宝魔装の反動に耐えられるはずもない。粉々に砕け散るだろう。

 だが少なくとも、あの神を無力化はできる。使える術はこれしか残っていない。


 戦術妖精にあるまじき、「後悔」と「私怨」の感情。

 一瞬の躊躇いもなく、魔装を撃つ。




          ☆




 太古の戦闘遺物である戦術妖精に立ち向かう「洞棲・変幻・不屈のド・グ・ハ神」もまた、全力を発揮する余裕を失っていた。


 森の神々が動き出す前に、霊域を抜け出す。夜が明ければ、貴族の娘の誘拐など誰も気にしない。貴族や神々でさえ、それどころでは無くなるのだから……。


 まずは目の前の相手を静かに倒して、この世から消し去らねばならない。古臭く曖昧な韻唱に合わせて届く厄介な魔装を封じるには、目視できる距離にまで近寄らせ、あの実体を壊しさえすれば事足りるのだ。

 しかし、乱世で戦闘に特化した妖精の捕捉は、考えていたよりも難しく、困難を極めた。それでも辛抱強く精緻に、敵の仕掛けてくる巧妙な罠を潰して、仕返しの網を張り機を窺った。

 そして、ようやくその時が来た。敵の防御界が消え去り墜落する。その哀れなまでに壊れた姿に向けて、トドメの一撃を放つ。目標に到達するとともに蒸発し始める重力の穴が、敵の体を飲み込み後始末をしてくれる。


 長居は無用。先に抜け出したジャロサイツ卿を追おうと踵を返した、その時。

 

 踏み出した足が止まる。

 動かない。違う。意思で体が動かせない。

 視界が揺れて、上下に振れた。光と色が剥がれ落ちる。

 心理崩壊に、神経接続の混乱。

 「霧中ニ迷エ」の「緋統防御」を、敵の攻撃が抜けた?

 

 ─── 緋伝…「心血ヲ「清廉ソソ潔」グ白」

 

 韻唱が歪む。写し取った体型を持続させる「無心ノ象形模辞」が突然に暴れ、心身の統合が、激しく揺らぎ出す。


 ─── 緋 緋伝…「以心 精糸「操」術不乱ヲヲヲ


 霊力転換が制御できない。緻密に編んだ「緋統」の伝理回路が、打ち寄せる霊波に飲まれ、秩序を失っていく。

 ああ、意識が抜けてしまう。……させるものか!

 対の紫炎が迸った。

 衝撃が、己れの眼球をひとつ吹き飛ばした。顎が砕けて、神経を毟る。

 少女の顔が割れた。中紅色の艶髪が捩れて、バサリと抜ける。か細く掠れた唸り声が籠る。

 痛覚の助けを借りて、無理やり意識を周囲の現実へ引き戻した。

 韻唱を重ねよ! 能力を取り戻すのだ。


 しかし、止めどなく霊力が押し寄せ、あらゆる対策を飲み込んでゆく。 

 ド・グ・ハ神は、呆然とする。能力制御の要の極宝は今、手元にはない。ほんの少し前に手放していた。


 ぼやける片目の視野に、変形し蠢く右手が見えた。

 もう、少女の姿を維持できない。それどころか人ですらなくなっていく。

 自身の神威が発揮する能力の、箍が外れた。

 流れ込む霊力の魔力転換が勢いを増す。体への負担は、とうに限界を超えている。生き物としての身体の構成が狂い出すのを止められない。 

 胸の奥が破れて血溜まりになり、流れる体液は管を引き裂いて渦巻き始めた。筋肉が千切れ、縮んで、繋いでいた骨を弾き出す。

 姿勢を保てず、その場に蹲る。

 奇妙な音を発しながら、体が悪戯に壊れていく。

 二百年長らえた命も、その贄として吸われていく。

 


 二百年。「神」に成り果て、紛れ神としてただ「居場所」を探し求めた。この僻地まで流れ、下級貴族の一族に取り入った。「祈祷士」に化け、人を装いながら、この一族の名を上げる。

 信頼を得て、感謝の言葉を受ける。皆が讃えて、心から大事にされた。幾度も姿を変え、この一族を陰から支え続けた。


 ひとりの小賢しい愚か者に、正体がばれる。

 その男の欲望を満たすために、神力を振るった。いつからか、「悪魔の祈祷士」と恐れられた。優しい言葉は消え、恐怖と憎悪を向けられ始める。

 それでも、立派な地位に上り詰めた貴族たちは、その悪魔と手を切りはしなかった。彼らの思惑を実現できる存在でいる限りは、「居場所」がある。

 ただし、その傲慢さは精霊との絆を細くし続けた。

 そして輝かしい名門の一族に、兆しが途絶え、没落が訪れる。

 


 己が命の灯火が、小さく勢いを無くしていくのがわかった。

 もう身体の大半は、贄に変わり失われていた。

 変換が追いつかず、溜まり切った霊力が溢れたら、この霊域も森も、唯では済まない。

 思考の脈絡が絶えつつある。すぐに何もわからなくなるだろう。それなのに、意識はまだ、霊力の氾濫を押し留めようとしている。

 今更なのに、これは神としての矜持か。それとも償いか。

 この土地に、何の未練があるのだろう。


 ド・グ・ハ神は消え去る間際に、もはや存在しない目から、涙がこぼれ落ちるのを感じた。 




          ☆




 左文字豹の道遁掘り。

 「遁溢奇門」の応用道術であり、術者の寿命を削る転移技だ。大地を走る理力の脈道を魔力で繋げ、不感知の経路を作り出す。威光街道に敷設される「縮遷洞」に構造は似るが、規模は遥かに小さく、それでいて任意の地点を瞬時に行き来できる。

 使う呪礎は出入りの二つ。ただし、その配置に極度の正確さを求められる。小指の幅程度でもずれたなら、出口がどこになるかわからない。

 この妙技を行使可能なのは、豹者の中でも「左文字」の宗派のみ。


 セレネアと戦術妖精が、少女に化けた神を抑えているうちに、あの貴族を捕える。それがシーテリケの命懸けの目的になっていた。

 とにかく、転移技の発動自体を阻止しなければならない。

そのためには、この近くの何処かに仕掛けられたそれを探しだし、奪う。

 貴族の男と左文字の手練れの居所ははっきり掴めている。ならば、術理起動の直前に呪礎の在処は知れる。

 失敗は許されない。機会はその一瞬しかない。

 純粋な「速さ」の勝負。

 掘りの達者な豹者相手に、簡単には距離を詰められない。

 左手の指が鳴る。奥義の間合いに届いた。

 

 それは下生えの草叢にあった。

 そして今、震える左の拳に握りしめている。

 後はあの貴族を!


 グぢゃッ! ブっずずズズずおッ!


 あらゆる思考と行動を圧し留める奇天烈な音響。吐き気を催し、体は萎縮して動作が凍りつく。

 シーテリケは地面を転がり、激痛に呻いた。

 何が起きた? あの貴族の男が、大剣を抜いている。

 背後から地面に押さえ付けられた。

 首根を絞められ、息すらままならない。


「あの距離で見抜いて、攫っていくか! ほんに卍字は、デタラメが過ぎる……」

「そのまま組み伏せよ。我が宝剣で、急所を抉ってやる」

「お待ちください。近づいちゃいけませんぜ。万一のため、ちゃんと別経路を掘ってありますから」

「抜かりなし。其奴はどうするのだ」

「段取りはできている。こいつには、そのための贄になってもらいます」


 シーテリケは身動きが叶わず、しかし気は抜かない。感覚器官の探知能を最大に保ち、受け取る激痛を無視して「魔凌ぎ」の機会を窺う。窮地を抜けさえすれば、貴族を捕縛する手段はあるのだ。

 痺れる左手に握る呪礎の塊を微かに意識する。穿った呪刻の端に、術理回路の受容端子がある。指に流した念気をそれに合わせ、複雑に組まれた回路の論理域を探る。


 それを見つけ出す間際……。

 首筋が捩れて熱を持つ。毒を打たれた? 体に埋め込まれた「自在血救酵素」を解き放つ。


「蝋沈果をくれてやる。観念して、『豹邪』に食われやがれ」

 

 シーテリケは、目を見開く。

 解毒不能の速効毒! 経絡を閉じられ、血液を壊す。血救酵素の分解能力が効かない。


─── リケさん。『極匱』を……。


 ああ。ネア様。

 視界が暗く霞む中で、四角い小箱が脳裏に浮かんだ。

 最後の手段。全身を使った「凌ぎ渡り」。


 次の瞬間、暗がりに聳える巨漢を見上げていた。

 大剣を振りかぶった巨大な外套を纏う豪奢で剛健な騎士装束の懐に、小箱を見つけた。そこだけ切り抜かれたように、何も感じない。

 これが神の極宝。奪えっ!

 その判断の直後に、毒が回って細胞規模で窒息が起きる。

 間に合わない。

 シーテリケは、自分の絶命より、成し遂げられない結果を悔やんだ。




          ☆




 白熱の光輝が到来する。それは闇夜を一瞬にして拭い去った。同時に圧倒的な理力の暴虐が、制御を失った魔力の混乱と共に襲いくる。


 ─── 勇武韻唱…「盤面静止令」


 全てが動きを止めた。

 ここで何が起きているのか。確かめなければならない。


 霊力がこの地の許容範囲を超えて持ち込まれた。

 通常は流れ込む霊力が溢れるほどになれば、すぐさま世界と反応し理力と魔力に転換される。当然その時には何かが「贄」として消費される。そうでなければ、この世界そのものが歪むからだ。


 一瞬で理解が進む。思考力も知識も思うがままだ。


 原因は「神」の神威発揚力の暴走。

 吹き出した霊力が大地を理力溶解し、その熱量を「贄」として、途方もない空間構造の爆発を起こしている。

 神は消滅したが、「神威」はそのまま霊力の流入口として存在してしまっている。地場の霊力制御の要である転換路は封鎖され機能せず、力の行き先がない。

 理力爆破を魔力が増幅し、破壊の連鎖が起きる。

 大地が崩壊しかねない。ならば……。


 黄金光に煌めく上腕筋を信じて、使命を覚えたばかりの「勇者」が、韻唱を想起する。

 己れの身体を「転換路」と化し、巻き起こる理力と魔力の爆発反応をそのまま、霊力流入封鎖の「贄」に置き換える。

 差分の霊圧と、注ぎ込んだ贄の均衡が取れれば、この出来事自体を鎮静化できる。

 「新米勇者」の初仕事としては難易度が高いが、成さなければこの土地が終わる。


 ─── 勇武韻唱…「応遮転換令」


 「敏腕の勇者」の両腕が、韻唱の轟きを現世に叩きつける。

 溶解して吹き飛ぶ土砂と、根こそぎ転げ回る巨木、そして砕け散る巨大な岩塊が、蒼く流れる幻光と混じった。



 暗闇が戻っていた。

 全身に蒸気と光子を滲ませて、黄赤色の短髪を逆立てた少年が立ち尽くす。

 すぐにそれを見つけた。掘り起こされた地面の穴に向かって歩き出す。

 そこには、焼かれ潰され、四肢をもぎ取られた、人だったものが横たわっている。

 少年はその傍らに膝をつき、血と泥で肌も見えない顔に頬を寄せた。


「ベルサ、姉さん?……」


 森と大地の破滅は防いだ。しかし、すでに壊されたものは、もうどうしようもない。

 たとえ勇者になろうとも、生命の潰えた寿命を取り戻すことはできない。

 そうわかっていても、運命を変えることを願わずにはいられない。そのためならば「早逝の誉」を今、授けられようと構わない。

 極上の力を手に入れたのに。輝く上腕二頭筋が泣いている。


 空っぽの静けさを取り戻した森の中から、微かな悲鳴が聞こえた。

 少年勇者は、姉の体を隠すように立ち上がる。

 緑碧の閃光が空に放たれ、その中に人影が揺らぎ見えた。

 勇者は、今まで受けたこともない奇妙な威圧を感じて熱り立つ。


 この神威。諸悪の根源の「神」が、今だに存在しているなんて。

 あれだけの霊力暴走を引き起こしながら、消滅せずに立ち向かってくるのなら、それは「魔神級」に他ならない。


 勇者はそれを睨め付ける。直後に渾身の力を込めて、目の前の闇を振り払った。

 周囲に立ち昇る緑碧の朧光が飛び散って、冷たい神威を放つ神の姿を曝け出す。


 鮮やかに艶が流れる羽根毛の衣を纏った小柄な体躯が、漆黒の闇の只中、宙に浮く。

 その見知った姿を認めた勇者は、ほんの一瞬途方に暮れた。


『……勇者。新たな勇者だね。クロシュ……』


 朧気に浮き上がる中紅色の髪。細面に優しげな眼差しが、なぜか懐かしい。

 両手を握りしめ最悪の魔神と対峙する勇者は、それが助け出すべき姫君、セディアンナであると確信できてしまう自分に困惑した。

 少女は両腕を下ろして、掌を上にひらいている。そこに浮かんだ極宝が、ゆっくりと回転しながら時折りキラリと瞬く。

 右手には、小さな四角い小箱。左手には、穴の空いた五角面を十二備えた奇妙な飾り箱。それが何であるかも手に取るようにわかる。

 生命の秘匿を齎す「極匱」と、生命を再生し留める「極繭」。あってはならない、この組み合わせの所持を果たした神が、何のために出現したか。

 勇者はそれを理解して戦慄した。


 精霊は、この世界の命の在り方を、改めたいのか。


『クロシュ。ベルサはまだ生きている。助けてあげて』


 哀れみの余韻を引くその声は、確かにセディアンナのものだ。その言葉の意味も痛いほどわかる。

 敏腕の勇者の「棋外奥義」。魂魄が途切れていないなら、心身丸ごと復活させることができる。だが、今は……。


『……御霊巫女に使ったの?』


 一夜に一度きりの大技。背負う精霊との約束の履行。

 霊屋で勇者を継いだ最初の試練を全うするために、瀕死の巫女を救った。


『そうなんだ。じゃあ、仕方ないね』


 敏腕の勇者クロシュは、貴族となるはずだった少女の「覚霊」と、ここで潰えたある神の二百年の逡巡への救済を感じ取る。それは、精霊が意図した秘めやかな「企み」の始まりであることもわかってしまう。


『クロシュができないなら、ボクがベルサを救う』


 セディアンナは、ゆっくりと両手を持ち上げて前に差し出した。近づく二つの極宝が、呼応して回転数を上げ出した。


『新たな栄誉を授ける最初の「生命」に、カルケディスの勇敢な「英霊」を選ぼう!』


 それが何を意味するのか。クロシュは「最悪の魔神」の母体となった少女の、はにかんだ表情と愛らしい笑窪に、運命を垣間見る。


 勇者として、倒すべき存在が、今まさに誕生した瞬間だった。


波乱の夜明け へ つづく。


※ようやく最終章です。

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