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第9話

 ◇◇◇◇◇

「本当にごめん!」

「は、死ねば?」

 気づけば夜遅く。あの後、グレイさんに色々事情を聞かれて、呆気なく家に返された。また会おうと言い残して。やるせない気持ちで一杯だが、至宝なんだから仕方がない。僕の至宝に対する信頼……すごいなぁと苦笑いしながら『安心薬草』に来た。ノックをするとチーユだけが出てきて鋭い目付きで、きつい言葉で、強くドアを閉められた。

「あはははは」

 と空笑いをして、涙目になりながら帰路に着く。今回は僕が悪い、弁解の余地は無い。また明日謝りに来よう。

 薄暗くなった裏路地。またあの男の人と会ったら嫌だなとか、この右腕をどうしようとか、また至宝と話してしまった、会ってしまったとか。色々な気持ちと思考が錯綜してしまっている。僕は足どり豊かに、自分が住んでいる区画に着いて、噴水に立寄る。もう冒険者組合の人おらず、夜も遅いため供え物だけがしてある。あの人に会うような白の百合の花束が多い。

「死んだんだよね。僕の右腕にいるのに」

 僕はあの途方もない衝撃を懐古して、噴水をぼーっと眺めていた。すると、白のフードを被った、とてつもなく馨しい匂いの女性が僕の前を通って、”りんご”を置く。

 そういえばリーエさんはりんごが好きっていっていた。食べたクレープもりんごが入っているものだった。でも、あのりんご変だ。赤色がどす黒い。周りが暗いせいかもしれないけど、どことなく血の匂いもする。

 フードを被った女性は手を合わせて、

「……」

 一言ぼそっと何かを言う。

 コツコツと靴底を鳴らしながら闇に消える際、あの人の瞳が僕を捉え、僕の方へ歩いてくる。噎せ返るような臭いが鼻を刺激する中、女性は僕の耳元で囁く。

「いい右腕ね。来てよかった」

 右耳が孕むような声色、体全身にさぶいぼに埋め尽くされ、唇を震わせながら彼女をまた見ようと振り返る。

「もう……いない? だれだ、あの人は」

 僕は無性に今のフードを被った女性が気になり、懐古していた記憶がどうでも良くなった。僕はごくんと唾を飲み込み、深呼吸をする。頭を振り、右腕を凝視する。

「さっ、今日は寝て。明日どうにかしよう。もしかしたら、リーエさんが治ってしまってるかもだし」

 まるで今は彼女のことを考えたくないと思うほどに、独り言をして、帰路に着いた。

 ◇◇◇◇◇

 喧騒、喧騒、喧騒。うるさいな、なんだよ。

「……!? え?」

 僕が目を覚ますとそこは、ゼイウスの中心地。ダンジョンがある場所。

「なんで……ダンジョンに!?」

 ダンジョンへ続く大穴。直径1キロにも及ぶ、深いクレーターの底に、水がある。上から覗くと神秘的な湖が出来たような不可思議な構造でもある。岩壁には螺旋状の坂が出来上がり、数々のお店が連なっている。1級品の武器と防具を揃える武器屋、冒険者組合、治療所など。ダンジョンで疲れた冒険者が無料で使用できるシャワーや、娯楽スペースもある。

 僕は右腕に連れられて、ここまで来てしまった。

「寝てる間に勝手に引きづられて? いや、僕は立っているし、歩いてきたってこだよね。右腕に引っ張られるのが癖になって眠ってても体を動かせるようになった!?」

 なんと、体は防具を付けていてダンジョンに入る準備は万端。

 でも、武器がない。そして、右手が握りしめてる僕のヘソクリ。なにか困った時に使おうと決めていた最後の砦。嫌の予感。だけどまだ覚めきれない脳と、目玉は、右腕になすがままに連れられる。気づいたら武器屋の目の前。大きな樽に乱雑に入っている、1本を剣を掴む。

「おい小僧、売りもんだぞ。そんな乱暴に使うな」

 カウンターから僕をどよめきながら凝視してくる店主に金を投げつける。

「買うのか。そりゃありがたい。まいど」

「リーエさーん! 止めてくださいぃぃぃ!?」

 刃渡り80センチ、横幅10センチの僕の体でも振り回せる程度の重さ。僕にちょうどいい剣だ。冒険者は武器を1日かけて選ぶほど大切なのに。

「僕のお金が!? 僕の1年間で貯めた1万ドラクマがぁぁ!?」

 涙がちょちょ切れて、いやもはや滝。嘘みたいに目が覚めた。脳が覚醒した。それでも右腕は僕を引っ張る。まるで右腕が本当に誰かに引っ張られるみたいに。右腕がダンジョンに行かせようとしてみたいに。

「ちょ、本当にダンジョンに行くんですか!? 待ってください、まだ心の準備が……!?」

 ダンジョンの水に近づいてきた。この水はなにやら大昔、混沌時代とも呼ばれる、ダンジョンが突如として現れた時代に七宝しちほうと呼ばれる大英雄達が作った、結界だ。この水がある限り、モンスターはダンジョンから出てこない。

 ステージという概念はダンジョンが作られる前から存在していたらしいけど、モンスターの出現、圧倒的に濃い経験値の出現は、才覚ある者たちを成長させ、結界ができるまでモンスターと人々は激動の渦のように戦い続けた。

 また至宝とは七宝と同等な存在であり、同等の力をもっているとされている。でも、混沌時代の最高ステージ数は5らしいから、絶対に今の至宝の方が強いと思う。

「本当にもう、リーエさん!? マジで行くんですね!?」

 僕は水の中に足を入れ込む。水は冷たくもなければ、温かくもない。足が濡れていると思わないし、無なようなもの。周りの重厚な防具に身を纏った人や、初心者冒険者も怖気付かずに入水していく。僕は水の中に入る。視界がボヤけながら、それでも歩む。最初は恐怖を感じていたけれど、今はもう慣れっこだ。

 視界が開けるそこは、岩窟。50メートルに及ぶ横幅の緩い下り坂。後ろを振り返ると水が、空中で浮かんでいる。

 ここがダンジョン、1階層。ダンジョンは正に迷宮、迷路と言っても過言では無い。1階から下に降りるにつれ、階層の広さは段違いになっていくらしいが、一階層でも途方もないほどに広い。ゼイウスの1区画分の広さを有しているほどだ。

 冒険者は事前にマップを購入するか、階層の中を覚えておくことが必要とされる。

 マップがもしなかったら、1階層を一日彷徨う結果にもなる。

 1階層〜3階層まではある程度把握してるけど、右腕はどんどんと僕を引っ張る。枝状に別れている洞窟に入り、2分後モンスターと遭遇する。

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