第10話
「ゴブリン……!?」
ゴブリン。醜悪。その言葉が脳裏にこびりつく。ぶくっと膨れ上がったデベソのお腹、5歳児ぐらいの身長に、とんがった耳と、充血した目と顔を何回も強く殴られたような醜い顔。腰には茶色の布切れを巻いていて、なんといっても、全身緑色の体に目を奪われる。
いつ見ても気持ちが悪い。右腕はガツガツとゴブリン、3体へ向かっていく。まだ気づかれてない、今のうちに僕の『個性』を使おうと左手の親指と人差し指をLの形にして、ゴブリンに向ける。
が、更に強く僕を引っ張り、右腕が剣を振る。
「一切りで……!?」
ゴブリンの首がボトッと地面に落ちて、ゴブリン本体も崩れ落ちる。
『グググギィィィ!?』
残ったゴブリン2体が僕に気づき、鋭い爪で襲いかかる。右腕が剣を振る、だが僕の体がついていかず、先程よりも弱い一撃。右腹に10センチほど剣がめり込んだけ。左から、残ったゴブリンが僕に抱きつくように接近する。
僕は左手を構える。
「【魔弾】!」
僕の左手の人差し指から、橙色の30センチ代の魔力の弾が発砲させた。魔弾はゴブリンの上半身を跡形もなく消滅させ、岩壁を騒音とともに削る。
【魔弾】僕の『魔法』魔力の塊を発射する。威力だけでいったら、1階層〜3階層の魔物は体を粉砕するほどの威力のため魔石までも壊してしまう。
魔石とは紫色の結晶のような物。モンスターそれぞれに必ず埋まっていて、心臓の役割を果たしている。魔石を壊せばモンスターは必ず死ぬが、殆どの冒険者は魔石を壊さないようにと努力をする。
なぜなら、魔石が冒険者にとっての生命線だからだ。魔石を集めて冒険者組合に渡すと、通貨であるドラクマと交換出来る。
モンスターが強ければ強いほど、魔石の濃度は上がり金額も上がる。そして、それらの魔石は街灯や、コンロ、冷蔵庫などライフラインの動力源として使われる。
「ん!」
右腕が剣をゴブリンから切り離し、崩れたゴブリンの胸を指す。体を貫いた剣は紫色の血を滴らせる。
「こんなに簡単に僕がゴブリンを……。これなら魔石を回収して生計がたてられる! いっつも魔弾で粉砕してたからどうにもならなかったのに……って、リーエさん!?」
これでやっとひもじい生活からおさらばだと思ったら、右腕が僕を引っ張る。せわしないなぁもう! っと目の前の死体から魔石を取りたい気持ちを心に密閉し、涙目でその場を去る。
そのあと幸運なことにモンスターには遭遇せず、3階層へと下りてきた。1〜4階層の区別はとても曖昧で岩壁の光で判断する、徐々に光明が落ちてきて、光明の強弱で階層を判断する。僕の長年の経験によるとここは3階層。
「どこまで深くまでいくんですか!?」
3階層の中でも次の階層に下りるための道を選ばず、どんどんと3階層の深くまで進んでいく。
冒険者がよく通る道はモンスターはあまりいないが、ここら辺には討伐されていないモンスターが出現する。
『キュピィ!』
1メートルほどのリス。リスタが現れた。可愛かったからまだ倒すのに戸惑うのだが、目は後ろに引っ張られるようにつり目であり、毛並みは逆立っており、触るとチクチクする。3階層では中位の強さ。
右腕は剣を構え、一体のリスタと対峙する。僕は左手からいつでも魔弾を発射できるように構える。
「ゴブリンは簡単に倒せたけど、リスタは強いよ」
リスタの頬はぷっくらと膨らんでおり、不用意に近づくと岩を吐き出す。当たったら僕のステージなら深手だ。
右腕は僕を引っ張り走る。リスタは目を光らせ、岩を吐き出す。
「ひっ!?」
眼前に迫る岩を右腕はまるで予知していたかのように左に僕を引っ張り、避ける。足がまだ右腕についていけない。右腕が引っ張ったら直ぐに動かなければ、負ける。僕は肩に感覚を集中させる。
僅か2日の付き合いだけどなんとなく分かってきた。右に動く、左に動け。
「ふっ!」
剣はリスタに届き、リスタの目を擦過する。リスタは痛々しい奇声を放ち、短く、鋭い爪の右手を僕に突く。右腕は剣を振り、リスタの手首を切り落とす。リスタは痛みに目を歪ませ、もう片方の手を僕に差し出す。
「【魔弾】!」
すかさず僕は魔弾を放ち、リスタの上半身を消し炭にする。危なかった、もう少しで深手を貰うとこだった。
「ダメだ。リーエさんは強いのに僕の体が動かないから次の攻撃に繋がらない。僕がリーエさんの足を引っ張ってる。完璧に戦えな……! もう、リーエさんまだ進むんですか!?」
またリーエさんに引っ張られる。僕の【魔弾】は精神力を大幅に使う。マジックポイントはステージが上がれば上がるほど、大幅に体に貯められる量が増えるが、僕はまだステージ1。魔弾を連続に撃てるのは5発まで。1発撃てるようになるのに1時間かかってしまう。コスパが非常に悪い。このままこんな戦いが続けば、負けるのは時間の問題だ。
とにかくモンスターに会わなければいいんだけど、右腕が進む方向はモンスターが何故かいない。




