第九十七話 「王都での戦い」
おかしい。そう最初に言ったのはランスだが、キンジソウは気付いていたらしい。
「王都の入り口を制圧されたな。誰も出入りできないようにしたんだろうよ」
傭兵の言葉にデルターは汗が背中を流れるのを感じた。王都の酷い有様を想像したのだ。もし、あの時、護送車が出発していたら、護衛は全員殺されていただろう。そうじゃなくとも犠牲は出たが……。デルターは考えるのを止めた。今はどっちの境遇が良かったのかなんて白黒付けてる場合じゃない。
一日後、王都の城壁が見えてきた。ヴェロニカを庇い、後ろの茂みの中に待たせると、キンジソウは望遠レンズで敵の様子を窺っていた。
「十八人。気を付けろ、ガトリングガンがある」
ガトリング。デルターは教本を思い出していた。ハンドルを回すことで複数の弾を連発できる兵器だ。破壊力は抜群だ。
「どうする?」
デルターは尋ねた。地形を確認する。森はそろそろ途切れ、だだっ広い街道だけが色を刻んでいる。
「陽動する。俺とランスで左右に駆ける。敵が迷ってる隙にデルターはガトリングを持ってる奴を狙撃しろ」
「分かった。いけるか、ランス?」
「ええ、脚には自身があります」
頼りにならない相棒が意気込みを見せた。
「行くぞ」
「はい」
キンジソウとランスが駆ける。
右をキンジソウが、左にランスが大きく迂回した。
敵は大騒ぎだった。すぐに発砲音が聴こえて来る。
デルターはリアサイトとフロントサイトを合致させ、近付きながら射程圏内へ入ると、引き金を引いた。
乾いた音が一発響き、ガトリングを握ってあたふたしていた男が頭を撃ち抜かれて倒れる。
よし。
デルターは駆けた。銃口を敵に向けながら、キンジソウとランスはそれぞれ城壁に身を隠しながら応射している。ランスの弾は当たらないが、キンジソウの弾は次々敵を撃ち殺していた。
残るは九人。
デルターも無防備ながら正面で発砲した。早撃ちだ。狙いは正確で一人、二人、三人と倒す。そこへ敵がデルター目掛けて銃口を向ける。ヒヤリとしたが、キンジソウが飛び出し、連射した。賊はあっという間に数を減らした。
「降伏しろ!」
キンジソウ、デルター、遅れてランスが残る三人の敵に銃口を向けた。
賊はなかなか銃を下ろさない。やるか、やられるか一騎討ちとなった。
三発の銃声が轟き、敵は倒れた。
「ふー、危なかったなぁ」
ランスが冷汗を拭って苦笑いしていた。
「デルター!」
ヴェロニカが駆けて来た。ペケさんも並走している。
「ここから先は騎兵隊と合流するまで敵の陣地だ。気を抜くなよ」
キンジソウが言った。
高い鉄の門扉をゆっくり押し開いて、デルターは飛び込む。
「待ってたぜ、外の連中をやるとはお前らなかなか」
「デルターさん退いて!」
ランスの声がし、デルターは咄嗟に身を右へよけた。
凄まじい連続した炸裂音が轟き、舐めるように敵を薙ぎ払い撃ち抜く。
正面に敵はもういない。
「少しは御役に立てましたか?」
ガトリングを握っていたランスがまた冷汗を拭っていた。
「少しどころか、十分すぎるぜ、でかした!」
デルターは笑って応じた。
「私の機転だったら良かったんですが、ペケさんがガトリングを見て鳴いたので、思いつきました」
「ペケさんは、不思議な猫だからな」
デルターは黒猫の黄緑色の目を見て言った。
「ランス、ガトリングを任せる。派手な音だ、聴きつけた敵が続々来るぞ!」
「了解、皆さん下がって!」
キンジソウの言葉通り、先の通りから敵が姿を見せた。
「あいつら、ガトリングを奪いやがった!」
「奪い返せ! 全員でかかれば、たかが四人程度」
それが最後の言葉だった。ガトリングガンの炸裂音が響き渡り、掃射され、次々敵は倒れた。断末魔の声すら掻き消された。そうしてガトリングの弾も尽きた。
「これがあったのが幸いでしたね」
ランスがハンドルから手を放して言った。
「そうだな、恐ろしい兵器だ。こんなものが量産されて世界はどうなっちまうのやら」
デルターは思わずぼやいた。
「そうね……」
「ニャー」
ヴェロニカが悲し気に言い、ペケさんも同意するかのように鳴いた。
「憂いている暇はないぞ。銃に弾を込めろ。ここから先はゲリラ地帯だ。どこにどんな敵が突っ立ててもおかしくない。早いところ、騎兵隊を見つけ出して合流する」
キンジソウの指摘にデルターは頷いた。
「分かった。行こうぜ」
デルターとキンジソウを先頭に一同は王都へと足を踏み込んだのであった。




