第九十六話 「デルターの決意」
デルターの手には銃が握られていた。
人の命を簡単に奪う恐ろしい兵器だ。
宿の一室に一同は集っていた。王都へ行くのか、行かないのか、デルターの思いを知るためだ。
王都で洗礼を受けなければ神官へは戻れない。だが、今、その王都は激戦区となっているらしい。鴉団と王国の騎兵隊との戦いが続いていると言うのだ。
「事態が収まるまで待ちましょう」
ランスが言った。
「そうよ、そうしましょう」
ヴェロニカが同調する。
だが、デルターは知ってしまったのだ。王都では鴉団撃退のために志願兵を募っていることを。銃を見詰めながら思案する。俺はこいつの扱いに長けている。それに人助けのためなら喜んで、これまでは首を突っ込んで来た。それにしても、王国騎兵隊は日頃訓練をしていないのか? 民間人の手を借りるまでに落ちぶれていたのか。
デルターは俄かに憤り、テーブルに手を叩きつけた。
くそっ、助けられるんだ。俺なら。なのに、なのに、行きたくない。殺生にはうんざりだ。
「ニャー」
ペケさんが鳴き、キンジソウが戻ってきた。
「決まったか?」
だが、ランスがかぶりを振ったようで、キンジソウは溜息を吐いた。
「キンジソウさんも同行してくれるのですか?」
ランスが問うと色男はかぶりを振った。
「デルター次第だ」
「何で、俺を待つんだ?」
デルターは顔を上げた。冷たい怒りが身体を支配する。
キンジソウはそんなデルターを真っ直ぐ見て応じた。
「それはな、俺が、お前の師匠、マイルス神官長に頼まれて、お前に付いて行くように言われたからだ」
「神官長が、お前を?」
デルターは驚いた。だが、合点がいく、この男はデルターの窮地には必ず姿を見せる。越冬先だって一緒に過ごした。
「どうするんだ、デルター、お前なら弱い人々のために立ち上がる、おめでたい人間だと俺は思い始めていたんだがな」
キンジソウが皮肉っぽく言った。
デルターは再び銃を見下ろした。人々は鴉団の脅威に怯えていて、王国は志願兵を募るまで追い込まれている。陥落すれば、鴉団がこの国の支配者となるだろう。暴力と血と銃が支配する国だ。
「そんな国にしちゃいけねぇ」
「デルター?」
ヴェロニカが顔を覗き込んで来た。
「キンジソウ、手を貸してくれ。俺は……無念だが、こいつをもう一度手に取る。これを最後にピストルとはおさらばする」
「銀貨十枚」
キンジソウが言った。
「あなた、またお金を取るの? マイルス神官長から依頼料だって貰ってるんでしょう!?」
ヴェロニカがキンジソウに迫った。キンジソウはどこ吹く風、微動だにせずデルターを見ていた。
「ニャー」
ペケさんが鳴いた。
「ああ、そうだな、ペケさん」
ペケさんがデルターの心を読んで、激励してくれたように思えたのだ。
「らしくないところを見せちまったな、ランス、ヴェロニカ、おめぇらはここに残れ」
だが、ランスがかぶりを振る。
「私の目的も王都ですよ。それにお世話になったデルターさんだけ行かせるわけにはいきません。私だって銃を持った戦士なのですから」
「ランス……」
「戦いには負傷者がつきものだわ。医者である私が役に立てる時よ」
「ヴェロニカ」
デルターはこの二人を連れて行きたくはなかったが、だが、来てくれるという、死ぬかもしれないのに来てくれると言うのだ。思わず身が震え、感涙しそうになったのを止めた。
「よし、みんなで王都へ行こう」
デルターが言うとランスとヴェロニカが頷いた。
「キンジソウ」
「何だ?」
デルターは巾着袋から銀貨十五枚を取り出した。
「こいつで俺達と一緒に戦ってくれ」
キンジソウは銀貨を受け取ると頷いた。
「色を付けてくれた分だけの働きはしてみせるさ」
こうしてデルター達は王都へと向かうことにしたのであった。




