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第九十五話 「百叩きのデルター」

 ヴェロニカとランスと共に歩みを進めると、ヅーダという町に入った。入ってすぐにヴェロニカが呼んだ保安官と出会った。

「よぉ、あんたらか」

「賊はどうなったんだ?」

 デルターの問いに保安官はあまり浮かない顔をして言った。

「縛り首だ」

「縛り首!?」

 ランスが声を上げるが、デルターは冷めていた。確かに更生する連中では無いと彼は思ったのだ。鴉団とはそう言う者達の集まりだ。保安官のやり方は間違っていない。鴉団を畏怖させることができたのならば、それこそ成功だ。しかし、問題は、連中が逆上した場合だ。

 子供達が駆け回り、老人達がイスに座って日向で寝息を発てている。この平和な町が戦場になるということだ。

「賊は広場に?」

 ランスが問う。

「いいや、護送車の中だ。王都で縛り首になる」

「急いだ方が良い。ここが奴らの戦場になる前にな」

「ああ、そろそろ出立しようかと思っていたところだ。おーい! 護送車はまだか!?」

 保安官の声に応じたのは、幾つもの銃声、そして悲鳴だった。

 平和そうにイスに座っていた老人が立ち上がり、こちらへ駆けようとするところを背後から撃たれた。

「ランス!」

「ええ、ヴェロニカ、我々は隠れましょう!」

「デ、デルターは? あなたはどうするのよ!?」

「鴉団が来たに違いない。奴らを追っ払う! 絶対に出て来るなよ」

 デルターは先に駆け出した保安官の後を追った。

「撃ち殺せ! 仲間の仇だ!」

 西側から次々銃声が轟く、奴らは護送車を盾にしている。反対側にいる保安官補達は、一人が死亡、三人が建物の陰から応戦していた。

 デルターは腰に提げた棍棒に触れた後、逡巡し銃に手をやった。

「こいつを使うのはこれっきりだ!」

 デルターはホルスターから銃を引き抜き、シリンダーに弾を装填し前方に構えた。

「準備は良いか?」

 保安官が尋ねる。デルターは首を縦に振った。

「この悪党ども! 俺の町でよくも殺しをしやがったな!」

 保安官は叫び、デルターと共に荷馬車を盾にし、銃を連射した。

 だが、護送車に当たるばかりで、成果が出ない。

「くそっ、弾がそろそろ、不味いな」

「やたらめったら撃つからだ」

 デルターは保安官に言った。

「こういう時は隙が出るまで待つんだ」

 敵が一人、身を乗り出した。デルターは引き金を引いた。乾いた発砲音が轟き、敵は顔を撃ち抜かれ倒れた。

「やるな」

 保安官が感心したように言い、戦線は硬直状態になった。どちらも弾薬を節約するために撃たないのだ。睨み合いは続く一方だ。デルターの方が焦れた。そして銃を保安官に差し出した。

「怖じ気付いたのか?」

「まぁな、怖じ気付かなきゃ、銃なんて持つ資格は無いと俺は思ってる。俺流にやらせてもらうぜ。ちょっと行って来る」

 デルターは棍棒を引き抜き、保安官補の発砲に敵が気を取られている隙に民家の後ろへ回り込んだ。

 ああ、くそ、怖いぜ。

 デルターは迂回しながら身を隠しつつ、敵の背後へ回り込んだ。

 賊は十二人。どいつもこいつも悪党面にチンピラ面だ。俺の大っ嫌いな顔をしてやがる!

「オラオラオラオラアッ!」

 デルターは突撃した。

 相手がこちらを向く。が、棍棒一本で、ましてや突撃してくるなどとは予期していなかったらしく対応が遅れる。デルターの狙い通りだった。そうじゃなければ死んでいる。

「そらあっ!」

 棍棒が一人の側頭部を打つ。

「何だ、テメェは!?」

「こっちの台詞だ! この悪党があっ!」

 デルターの棍棒は次々情け容赦なく敵を打った。

「死ね、ハゲ野郎!」

 デルター一人では限界のある戦いだった。最初から。そう、そう最初からだ。俺は、俺の罪に耐え切れなくなくなった!

「おう、オメェら、俺と一緒に心中して貰うぜ」

 デルターが不敵な笑みを浮かべると六人の賊は愕然とした表情を浮かべていた。

「オラアッ! この間抜け面ガアッ!」

 デルターの魂の一撃が一人の賊の鼻っ柱を打った。

「こ、殺せー!」

 賊達が慌てて銃口でデルターを追った。

 デルターは笑った。俺もここまでだな。

 その時、銃声が五発轟き、賊達は倒れた。

「焦らせやがって」

 キンジソウが立っていた。向けられた銃口からは硝煙が上がっていた。

 後ろにはヴェロニカとランス、ペケさんもいた。

「デルター! あなた、何て無茶をしたのよ!」

 ヴェロニカがデルターに跳び付くと、顔を上げて喚いた。

 だが、デルターの答えは、涙だった。驚くヴェロニカに、デルターは言った。

「命を取ったり取られたり、俺は疲れた」

「デルター……」

 ヴェロニカは目を見開き、そしてデルターのことを抱き締めた。デルターはその胸の中で泣いたのであった。

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