第三十一話 「コモの誤算」
「大変です! 大変ですよ、二人とも!」
ランスが洞窟から戻り慌てたように言った。
デルターもコモも座って止血をしながらその報告を待った。
事前に知らせなかったので、ランスだけが興奮しているのは仕方が無いことだが、見ていて滑稽に思えた。
「き、金貨や高価そうな物がたくさんありました!」
ランスはそこまで一気に言うと粗く呼吸を繰り返した。洞窟の中を走って来たんだろう。
「な、言った通りだろ?」
コモがデルターに向かってウインクする。
「そうだな。だが、その盗賊共の財宝をお前はどうするつもりなんだ?」
デルターが尋ねる。
「フフッ、お前らにも助けられたからな、心の広い俺様は俺とお前らで財宝を山分けしようと思って」
と、言ったところでコモの言葉は止まった。
草木を掻き分ける音がする。複数だ。
「全員、動くな!」
若々しい声が勇ましく響き渡った。
ラーズの若い保安官だった。そういえば、キンジソウに頼んだんだったな。と、デルターは思い出す。
「賊なら全部倒したぜ」
コモがショットガンを見せニヤリと得意げに微笑んだ。
「それは本当ですか?」
若い保安官と、保安官補六名がピストルを下ろして尋ねた。
「ああ」
デルターは頷く。
「そうでしたか。おや、洞窟がありますね」
若い保安官が言った時だった、コモがランスを呼びつけて言った。
「おい、隠し扉は閉じてきたろうな?」
「いえ、開いたままですよ」
ランスは特に疑問を持った様子もなく言った。
「だぁー! 保安官!」
「何ですか?」
保安官がコモを見る。
「洞窟の中は見なくても大丈夫だ! 盗賊共も外で始末したからな! 中には何も無い」
「いや、しかし、ここまで来た以上、見ぬふりはできません。・・・・・・それに本当に何も無いんですか?」
保安官がコモに詰め寄り顔を近づけて厳しい口調で言った。
「保安官である私達に嘘を吐くとそれだけで重罪ですよ。本当に何も無いんですね?」
「あ、うう・・・・・・」
コモは頭を抱えてしまっている。
「奴らが盗んだ金貨や財宝があるって話だ。そうだろ、ランス?」
「ええ、そうですよ。案内しますよ、保安官」
デルターの問いに真面目なランスは応じると保安官と二名の保安官補を引き連れて洞窟の中に入って行った。
「ああ、クソッ、ランスの馬鹿野郎! 馬鹿馬鹿馬鹿の大馬鹿野郎! 保安官が来るなら俺だけの秘密にしとけば良かった!」
保安官補達に見られつつ、ひとしきり愚痴を吐き終えたコモはハッと気が付いたように動き出す。
「おい、まだ止血が」
「そんなもの後回しだ!」
コモが向かった先には横倒しになった鉄の荷車があった。その両開きの扉を開くと、慌てて戻ってきて焚火の木の切れ端を松明代わりにし、扉の中を覗いている。
ランスと保安官達が戻ってきた時にコモも顔を上げた。
「どうにか荷は無事だった」
コモはそれだけ言うと腰を下ろした。
結局、盗賊が盗んだ金貨や財宝は国の所有物となり没収され、デルター達は怪我人として盗賊達が使っていた馬を貸し与えられた。
荷の方は期日があるためランスが一人で先にガールの町まで行くことになった。
「もう賊の襲撃は無いでしょうから、私だけでも大丈夫でしょう」
夜も更けた街道で松明の灯りの中、ランスが微笑む。
「絶対にヘマするなよ。くれぐれも丁重に運んでけよ」
コモが念を押す。
「ええ、ゆっくり行きます。コモさんも、デルターさんもしっかりケガを治して下さいね。それではまた会いましょう」
ランスが御者台に座り手綱を振るった。馬車は夜陰の中に消えて行った。
「では我々も行きましょう」
保安官が言った。
こうしてデルターとコモはラーズへ戻り、深夜の診療所の戸を叩くこととなったのであった。




