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第九章 第一話
大円は皆に伝える。桜の時期が過ぎたころ、将軍家は富士の裾野にて巻狩りを行う。そこが頼朝と工藤を殺す絶好の機会だと。彼はそのことを話しにきたのだ。
庵の火はバチバチと音を立てる。二藤次は頷いた。……曽我の二子は顔をひきつらせながらも、来るべき時が来たと身構える。
大円は懐より、隠し持ちたる灰色の、小さな袋を出す。中身を取り出すと……、炎に照らされて眩い光を放った。
黄金である。
「……奥州藤原の隠し財産。ここで使ってこそ、本望は成し遂げられる。……足りないようであれば、申しつけあれ。」
二藤次は、大円をまじまじと見る。大円は落ち着いた口調で続けた。
「私とて、ただ単に生きているだけではござらん。心は弟に同じ。」
大円は戦のあと、仲間をひきつれて奥州各所をまわった。鎌倉方に知られぬうちに、金銀を産する鉱山の口を壊してゆく。……正確な在処を知っている者は今や、大円らのみである。
必要な分は別の場所に取ってある。もし将来、再び立ち上がることがあれば……軍資金に化ける。
日は明ける。大円は皆に見送られながら、遠くへ去って行った。




