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第八章 第三話
夜は明けた。朝餉の時、十郎は二人に目を合わせることができない。弟の五郎はそんなのお構いなしに飯をよそう。二藤次と虎御前はいつも通り隣に座り、適当な話をしながら食べる。
……空は晴れていた。雲一つなく、西に見える箱根の山がみずみずしい。建久四年の春、梅の季節。鶯がなく頃合い。
二子はいつも通りに竹刀で交わる。……いつもなら兄十郎が勝つのだが、この日に限って負けた。初めての敗北。……傷を手の甲に受け、紫色に腫れ上がった。虎御前は面倒くさそうにしつつも、井戸から冷たい水をくみ、たらいに入れる。乱暴にも傷を受けた右手の首をつかみ、水の中へ沈めた。
十郎は思わず手を引っ込めようとした。虎御前は“なんだよ”と憤り(いきどおり)、さらに強い力で腕をつかむ。
弟の五郎はたいそう面白がり、“兄上の弱虫”と罵ってみた。すると十郎は片方の空いている手で拳を作り、弟の頭を殴る。
……そうしていると、三人のいる庭に人影が現れた。顔をあげてみると……一人のお坊さん。笠を取り、一礼をする。三人もつられて挨拶をした。
「ここに二藤次はいらっしゃいますかな。」
虎御前は首をかしげる。この怪しい奴め。すると屋敷の奥から二藤次が現れた。大きい声で“兄上”と驚き、草履を急いではいて駆け寄った。




