第七章 第三話
八月に入る。在地民の不満は高まり、とうとう争いが勃発した。場所は羽州の能代で、とある豪族の蔵から作物が奪われた。犯人は鎌倉方の兵士らで、白昼堂々と盗んでいく。蔵の持ち主は兵士らを殺したが、生き残った者が仕え先の御家人の屯所へ駆け込んだ。
御家人は求めに応じ、その豪族の屋敷へと攻め入った。火が放たれ、逃げ遅れたものらは無残に散った。この事態は、近くに住まう五城目の兼任も知るところとなる。ぞくぞくと仲間らが兼任の屋敷に集結。一触即発の様相を見せた。
一方で鎌倉方は土地勘に薄く、このままでは負けるだろうと危惧する。すでに源頼朝を筆頭とする本軍は奥州から引き揚げた後。比企は自ら鎌倉へ知らせに走り、宇佐美は秋田城柵で守りを固める。御家人たちも城柵へ逃げ込んだ。
……はたして、これでいいのだろうか。鎌倉へ立ち向かうことは、主君の仇を討つことだ。……しかし秋田城柵を取り戻したところで、あとから駆け付ける敵方に殺されて終わりなのではないか。
悩むのは似合わない。似つかわしい。羽州の大将あるまじき。そう思い直し、その場に立った。大河兼任、秋田城柵へ進軍を命じた。
右手には八郎潟。夜は葦のこすれる音が響く。風が少しだけ吹くだけで、ざわざわと乱れる。月は高々と、波は静かに。
……仲間内から、叫び声が轟く。鎧が激しくあたる音、刀同士交わりあう冷たい音。……左手の茂みから大きな鬨の声を上げて、鎌倉方が攻め込んでくる。……敵か味方かもわからぬ。どうも裏切り者もいるようだ。
逃げようと沼地に足を取られる者もあまたおり。兼任は歯を食いしばりながらも、北への退却を命じた。




