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第五章 第六話
大船百艘は燃やされた。藤崎での今生の別れの後、鰺ヶ沢からいざ出航しようとした矢先だ。
“これは鎌倉の仕業か。”
…………
それは違っていた。すべてを恐れた、白髭公の命令だった。高季が藤崎へ行っている間に先回りして鰺ヶ沢へ人を差し向けたのだ。
高季は、砂浜に座り込んだ。しばらくすると体勢を崩し、寝転がった。海岸には雪は積もっていない。ここあたりは風が強く、つもっても吹き飛んでしまうのだ。それゆえ、山にしかつもっていない。
そこへ、妻の明子がやってきた。そのあたらしい妻は、だまって高季の隣に座った。顔は互いにあわせぬまま、波しぶきをみるばかりだ。
だまっていると、やはり寒い。高季は小さき声で、尋ねた。
「寒くはないか。」
明子は、同じく小さな声で「はい。」とだけ応えた。高季は体を起こし、上に来ていた羽織を脱いで、大きくはたいた。砂を十分に落とすと、やさしく妻の背中にかけてやった。
いまだ、顔はあわせぬままだ。
静かな声で、「ありがとうございます。」と聞こえる。頭も下に、動いたようだった。
そのままひたすら、前に舞う灰煙を見ていた。




