第七話 決別と決意の妖精問答
扉の先、散乱した紙の中に、その妖精はいた。
暖かい灯火そのものを思わせるその妖精は、シロハを見て悩ましげに微笑みかけた。
「……久しぶり」
「……そうだね。うん、久しぶり」
彼らの再開はひどく拙く、さながら知り合いではあっても友人ではないかのように素っ気なかった。
「……戻る気は──」
「ない。絶対。私が生きる場所はここと決めたから」
彼女らしか分からぬ問答。されどここには彼女たちしかいない。ゆえに、問いは進んでゆく。
「女王も見つかったんだ。もう、いい」
「私にとってはもう終わったことなの」
男の妖精は、回答を知っているように、それでも祈るように問いをなげ続ける。
「もう一度始まるんだ。もう一度終わる。これで認めてくれないのか?」
「私は認められない。過去をなぞるだけの日々なんて、退屈で変化のない日々より苦しいものだよ」
女の妖精は、確固たる決意を語るように、しかし悲しむように答えを告げていく。
「お前にとって、あの時は、どんな時間だった……?」
空白のあと、妖精の声が落ちる。
「楽しくて楽しくて、たまらなかった」
呟くように、大切そうに。
「なら──」
それは、縋りつくような声だった。
それなのに。
「それでも、私は戻らない」
妖精は、過去へ帰ることを否定した。
「私は、あの頃の私じゃない。あの頃とは違う私だから」
幸せな過去を、己の考えで切り捨てた。
「今の私が大切に思う居場所を、過去に幸せだったからって理由で、捨てるのはいやだ」
それを聞いた男の妖精は、何かを諦めた顔で、決意を語った妖精へと語り始める。
「お前だって、色々あったのは分かる。俺が言う幸せがお前にとっては呪いになることだって分かる」
一言で説明してしまうなら、それは懺悔だった。
「それでもお前がいないと、俺たちがだめなんだ」
それは自身の事情に巻き込んだことに対してとも言える。
「みんながお前を覚えている。最後まで、抗い続けたお前を求めている」
それは誰かの身勝手に賛同したことに対してとも言える。
「俺はそれを否定出来なかった。俺自身、お前がいなけりゃ心に穴が空いたように苦しさが溢れてくるんだ」
しかし、それは何より──
「だから無理やり連れ去ることにした」
今からすることに対してだった。
男の妖精は素早く後方に下がると火の玉を複数シロハへ飛ばしていく。
シロハは避けもせず、滅びの魔力で火の玉を消して──その後ろに隠れていた火の玉に、反射で後ろに跳んだ。
「そんなことしても、私はあなたの所には行かないよ」
「言っただろ。無理やり連れ去る。数カ月もすりゃ慣れる」
もう、それは会話ではなかった。意見の押し付けに変貌したその言葉のやりとりは、もう話し合いでは決まらないということを示す決定的な証拠であり、両者が絶対に自分の意見を曲げないことの表れである。
妖精の争い。昔はいたずらの応酬であったそれが、痛々しく凄惨なものとしてここに繰り広げられようとしていた。




