第二話 例え全てに嫌われても
あれ、前書き消えてる?
楓「書き忘れただけじゃ? 何も言うことないし」
……確かに。あ、王華が梓紗に若干優しいてか甘いのは明かさない予定の過去にあります。本編には全く関係ない、その他大勢の一人でありながら特別な少女と容姿が似ているから甘いです。
楓「エキストラ、か。この物語が終始『途中』でなければその少女はきっと幸せに生きていたんだろうね」
過ぎた物語にハッピーエンドは訪れない。終わった過去はそのままに、ただ朽ち果て忘却される。『今』の物語ならハッピーエンドになっていたんだろうな。
赤く、朱く、紅く照らす凶兆の月。今はまだ薄紅色だけど、どうか血の色まで────
赤い月は、空に輝く。
昔から住む者ならばそれが凶兆を示すと知っている。だからこそ、知らぬ者と親しくなりはしない。
何かが来る。圧倒的な、何かが来る。
精霊に堕ちた神霊など覆しその者の力が世界を破滅させる。
築いた世界が、人との絆が、ただ平穏な日常が崩れ落ちる。
きっと、放っていたらそんな事が起きてしまうのだろう。それは防がねばならない。
何年、何十年、何百年ここで暮らしてきた?
幸せな時の象徴であるこの世界が護れるならば、反逆者の百や二百なんてすぐに殺せる。
この世界があるからこそ俺は、こんなにも人間でいられる。今からこの世界なしで生きなければいけくなったなら、俺はただの畜生になるだろう。
宝物なんて段階はもう超えている。この世界は色無紅我自体と言っても過言ではないのだ。
少々平和ボケしすぎていた。『作者』などと正体もわからない部外者の言葉なんて聞くべきではなかった。
あれが現れたのは赤い、朱い、紅い月が沈んだ後なのだ。体験したことのない者に、あれが浮かんだ時の事態の重さが理解できよう筈もない。
──今一度、色無紅我は化け物に戻ろう。
☆
紅我、王華、シロハ、美伊奈の四人はこの状況を深刻に受け止めていた。
彼らは昔からこの地に住む者。紅い月の出来事を知る者だ。
過去に赤い月が昇るのは三度あった。
一度目は星継王華の侵攻。
二度目はシロハの本質の暴走。
三度目はある龍の出現。
全てが世界を根本から崩壊させるほどの被害を出し、紅我の力を限界を行使しなければそのまま消え去っていたほどの出来事だった。
王華は、その脅威を良く知っている。
控えめに言おうと、星継王華という人物は全開を出せれば人では誰であろうと倒せなかっただろう。いや、人だけでなく生命ならば打倒できないほどの強さだ。
その人物が、赤い月が表れる中では最も弱い部類だった。
だからこそ、万全を尽くす。
「紅我、封印の解除お願い」
「分かってる。こっちの封印を解いているから待て」
余裕はない。赤い月が出ればその夜のうちに決着がつく。
「──全く、詠夜はどこに行ったんだろう」
シロハがそう言ってくる。この状況では最も死にやすいのは特殊な力を出し惜しみしている詠夜に他ならない。
地上に降りる時にいつの間にかいなくなっていた。
油断した。あの時赤い月は出ていなかったからと、すぐに戻るだろうと思った私がバカだった。
「こっちの封印は終わった。そっちの封印も解くぞ」
接触することもなく、私の中でせき止められた魔力との繋がりがだんだん戻っていく感覚がする。
たっぷり三十秒使って全盛期の尽きない魔力が漏れ出す感覚が戻ってくる。
「……ん、もう大丈夫。封印は解けたわ」
「知ってる。むしろ封印を解いてるやつが解けてるかどうか分からない方が怖いぞ」
「確かに。さ、詠夜を探しに行くわよ」
そう言い玄関に向かう私だったが紅我の言葉に歩みを止める。
「……詠夜が黒幕じゃないのか?」
「……呆れた。あの子がそんな事できると思うの? むしろ止めに入る方でしょ」
一瞬、納得してしまった。それなら、途中で詠夜がいなくなった理由も説明がつく。
そう、思ってしまった。そんなはずはないのに。
そんな中この家に近付く気配が二つあった。
「紅我、分かる?」
「普通に窓から見える。一人は詠夜だけど、もう一人は知らない奴だ」
「迎撃、する?」
「今はまだ」
「了解。敵対した時に?」
「その時と世界の危機に繋がる事をしていると判明した時」
淡々と話しながらテーブル回りにあるイスに座る。玄関は背にならないように、油断を絶やさぬように気を張り巡らす。
ドアが、開く
「ただいま────って何だこの重たい空気!? 何かあったのか!?」
気が抜けるほどに平和な声が聞こえたが場の空気は晴れず重い空気が張りつめるばかり。
「──詠夜、お前の後ろにいる奴は誰だ?」
その冷たく威圧する声に十三ぐらいの、茶髪に右目が赤色で左目が黒色の女子が、詠夜の後ろからオドオドした様子で出てくる。
「あ、う、えっと、神無月梓紗です……」
声は少し震えていて、怯えているのが分かる。
「……それで、何者だ?」
紅我は今だ緊張を途切れさせず底冷えする声で梓紗に問いを続ける。
「何者って言われても……詠夜さんの親戚で──」
「聞いているのはそういう事じゃない。聞き方が悪かった。この世界に何か求める事はあるか?」
変わらずに梓紗へ敵意を向ける紅我。
──いくら何でもやり過ぎじゃ?
そうは思うがどこかで当然と考える部分もあった。
ずっと、ずっとここで過ごした。幸せな時間はここでやっと手に入れた。勝手に図々しく入ってきた私がそうなのだ。この世界を創った紅我はどれだけ愛着があるか、分かるものではない。
けれど、敵と決まった訳でもないのにこれほど高圧的なのはさすがにダメではないか?
「──待ってくれ」
紅我の問いに詠夜が異議、というよりは不満をぶつける。
「そんな質問のしかたも内容も酷いだろ!? 梓紗が何かしたわけでもないのに、そんな嫌悪感丸出しで黙ってられる訳ないだろ! 大体何だよ、俺の時はそんな質問しなかったクセに、そもそも梓紗の事何も知らないっていうのに────」
「──黙ってくれ」
音が、消える。
誰も言葉を発しない。誰も息ができない。誰も心臓の音を拾えない。
「詠夜、俺も余裕が無いんだ。分かってくれ……」
悲痛な声と、まだ威圧感が混じる。
誰も、声を出さない。
そんな中で生那が説明を紅我に求める。
「とりあえず、何でこんな事になっているか、説明してくれんか? そうせんと話が見えん」
説明要求に応じ凶兆の赤い月について話す。
「この世界で世界の存続に関わる事が起きる時、絶対に出てくる赤い月が出てきてるんだ。無視したら世界が崩壊するから、こうして今までいなかったそっちの女に何も企んでいないかを訊いていたんだ」
「──言いがかりだろ。何で梓紗がそんな事するんだ。大体さっきも言った通り梓紗の事を何も──」
「──だから黙れって言っているだろうが!!」
努めて荒げなかった声を荒げる紅我。焦りが顔に浮んでいて、横から見ているだけで胸が苦しくなる。
「……確かにあるよ。偶然この世界に流れ着いただけで、あるよ。目的」
それは、明らかな原因の宣言だった。
「なくなっちゃった世界をもう一度創るの。元の世界を創るために、力を借りに来たんだ」
少女を殺そうと飛び出そうとする紅我を抑える。納得いかないようだがふて腐れながらも少女の話を聞き始めた。
「元の世界で生き残ったから、私がみんなを生き返らせないといけないんだよ。だから、だから力を貸してください!!」
少女の懇願に紅我は極めて冷静に事実を伝えていく。
「この世界は不安定な状態で存在しているんだ。俺の力で支えているが、世界の創造なんてものをしたらその支えが無くなって崩れる。世界を創る途中で自分が存在している空間が消えたら、意識が途切れて失敗する。だから、無理だ」
その言葉に少女は顔を俯かせる。
紅我の威圧感は既に霧散している。
なのに、
「それでも、私は元に戻さなくちゃいけない……」
少女は『何か』が混じった声でそう呟いた。




