第一話 星継古例
古例、昔から伝わっている慣例。また、昔のしきたり。
楓「ん~、なんか後も使いそうな予感。使い回したりしないよね?」
大丈夫だ、限りなく同じだが文字は別にするから。
楓「意味が同じなんだ……。そういえばオリジナルは人間嫌いなのに人間の風習とか、古い建物好きだよね」
風習とか建物じゃなくて、そこに結びつく信仰が好きなんだ。もっと深く言うと神々や妖怪に関係するかもしれない何かが好きっていうこと。
楓「……なんだ。ただの知的好奇心なんだ。それ関係は十分気をつける事だよ」
知ってる。霊感がない。神仏を信じない。けれども、日本人だったらどこかで恐れがあるからね。
楓「ま、ない人もいるだろうけど、注意することだね。この地はかつて八百万の神々がいた地。神に仇なす愚かさ、私は知ってる」
じゃ、雰囲気でたところで締めの一言。
それは星継である限り続くのです。たとえ星継に引き取られた捨て子であったとしても。
夢を見ていた。幸せだった頃の夢を。
まだ、人間だった時の夢。
「ワタシ」と妹二人で遊んでいる。
両親が微笑ましそうにそれを見ていた。
追いかけっこ、鬼ごっこ、トランプ、にらめっこ、ジャンケン、色々な遊びをしていた。
夢。今の光景は二重の意味でそう言うに相応しい幸福なものだった。
こういう幸せな夢を見るとどうしても死にたくなる。自分自身を殺したくなる。
──なぜ私はこうも幸せを享受出来ない?
──『星の器にそのようなモノ必要ない』
──なら、なぜ感情なんて無意味なモノを器に入れた。
──『我らが注がれるまで壊れていては困る』
──なら、私はとっくに壊れた。失敗じゃないか。
──『それは我らが決める』
「あぁそうかい……!」
頭の中から響く声にイラつき言葉に出してイライラを発散させようとするが、逆にイライラが増してきた。
外に出よう。あの大樹はとにかく頑丈だ。それにむかつきをぶつけよう。
ろくに服を着ていない状態で外に出ようとする。
ドアを開けると紅我と天使と朝運ばれた奴が玄関近くにいた。
天使は瀕死に見えるから侵入者なのだろう。
「こんな時間に起きるなんて、なにかあったな?」
「別に対した事じゃない。だからほっといて」
「わかったけど、服は着ていけ」
あきれたとため息を吐く紅我だが、怒りに満ち満ちている今の私では服を着る手間にブチ切れて服を破りそうだ。
紅我をスルーして玄関を出る。
曇り空で月は見えないが桜の花びらが舞い降り風情がある。
月があれば幻想的な風景に魅せられるのだろうが生憎曇り空だ。
大樹の目の前まで来た。
殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。
拳は全く痛まない。傷一つつかない。
それが嫌で、化け物染みた己が嫌で、殴るのだ。自らを痛めつける為に。
殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る。
体が勝手に治っていく。体が慣れて痛みを感じない。
それが憎くて、それを否定したくて、何も考えずにただ殴るのだ。己の心を守る為に。
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。
感じない。感じない。何も感じない。
大樹を殴っていると確認する方法が視覚しかない。
何も匂わない。何も聞こえない。感覚すらない。味覚もない。
「──ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!」
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る──
☆
「天使襲撃に寝たら朝まで絶対に起きない王華が夜起きてくる。……何がおきてんだ?」
そこに紅我に話しかけるゆったりとした声が聞こえる。
「近くで戦闘してるから、起きるのもおかしくない。勘違いかもしれないけど」
「ん、美伊奈か。っていってもあの大樹の枝から木材を作ってるし、音が伝わらないから起きないと思うんだが……」
「今はそれより、どうするか、だと思う」
……それもそうか?
美伊奈の意見にそれが適切と思ったが、どうにも王華が引っかかる。
「王華を、呼んでくる」
美伊奈は俺の言葉にただ短く
「気をつけて」
そう返した。
☆
怖い。恐い。とにかく、こわい。
ワタシは、人間だった。……アレ、『だった』?
矛盾点に気付く。
私は人間だ。なのにワタシは人間だった、と言っている。
いやそもそもワタシって何? 私以外に私がいるの……? それとも、私の中に何かいるの──?
こわい。恐い。怖い。助けてよ。
唾の味がない。へたり込んでいる感覚もない。風の音が聞こえない。草木の匂いがない。……目の前の大樹すら、見えない。
ご丁寧に意識だけある。他の何も感じない。
自分が存在するのかわからない。なにがあるのがわからない。今まで過ごした日々が現実かわからない。人間がわからない。わからない。わからない。
もう、どうだっていい気がしてきた。
今なら、今のような耐えがたい苦痛を受けるなら消えていいと思った。
視ているのは虚無だ。
匂うのは死の香りだ。
聞こえるのは静寂だ。
感じるのは虚構だ。
味わうのは絶望だ──!
なら、消えたっていいじゃないか。
それとも誰かが助けてくれるの?
『どうやって? ワタシは助けに気づけない』
……さぁ。
『逃げたいとは思えない?』
……逃げられるの?
『試してみるのは?』
……無駄。でしょ?
『そっか。君が言うなら。そうだね』
……けどもう一回見てみたいな。
『何を?』
……幸せな日々。
『……じゃあ、抜け出さないといけないね』
……だね。誰かわからないけどたすかった。ありがとう。
『…………』
『またね』
☆
目を覚ました。なぜか大樹のすぐそばで。
服もろくに着ていないし夜だから寒い。口の中が妙に酸っぱい。何か食べたのだろうか?
そよ風の音が聞こえる。草木の香りがする。
なぜかそれに安堵する。
とりあえず部屋に戻ろう。
『朝に連れてこられた少年も寝ているだろうし』。
「王華? ……何でもなかったのか」
紅我が心配そうに私の名前を呼んできた。
「何かあったの?」
紅我は少し間を置いて肯定した。
「天使から襲撃があってな。対策の為に話し合いをな」
「ん、なるほど──」
すぐに行く、と言いかけて自分の姿を思い出す。
服は下着のみ。いや下着を服と分類していいかは疑問だがそうするとして、下ぐらいしか穿いていないのだ。上は締め付けが嫌で寝る時は外すのだ。これはしょうがない。そう言うことにしよう。相手が、家の主で侵略者の私を住まわせている寛大なお方ということでまだ見せていい範囲にしよう。
しかし、しかしだ。なぜ下の下着がティーバッグかが理解出来ない。
……いや、興味本位で着てみたのは覚えている。だがそれだけを着て外に出て寝るか!?
「……ほんとに大丈夫か?」
紅我の言葉で思考の混乱で生まれなかった恥ずかしさが一気に生まれて顔が赤くなる。感覚的なものだけど、絶対赤くなってる。
だけど何か答えないといけない。いやそれどころじゃなくって、恥ずかしい死にたいいやまず服着ないとそうしたら少しは治まるはず。
とりあえず一言、紅我に返した
「服、着ていいかしら……?」
上辺だけ冷静を取り繕ったがバレているのは間違いないだろう。
絶対からかわれる。
「おう。早く行ってこい」
だから、からかってこないことに「違和感」を感じた。
ただし、恥辱心が疑問より勝り服を着るため部屋にすぐ向かった。




