●第六十一話 その圧倒的力を見せよ
ゴババババ! と虚空を切り裂き、『六枚羽』と呼ばれる遠隔制御の兵器が轟音を鳴らす。
清水優子、瀬田七海、火道寛政の三人は、アストラルツリー付近にある無人と化したショッピングモール手前にて、戦時中と錯覚しそうな量の『兵器』の軍勢と戦っていた。
「くっそ、なんだこの『六枚羽』! 危なっかしいにもほどがある!」
自立式機動ロボットの間を、豪炎を纏った状態ですり抜けていく火道。
彼を的確に追う『六枚羽』。速度はほぼ同じだが、『六枚羽』はフライングボードのように空を自在に飛べる上、六枚の羽は観葉植物を容易に引き裂く刃でできている。人体で触れることができなければ、近接戦闘オンリーの火道には対処のしようがなかった。
「伏せてカン君!」
伏せた火道の頭上を通過するビーム砲が、的確に『六枚羽』を撃ち落とした。火道が近距離専門ならば、瀬田七海は《電磁射撃》という超能力上、遠距離戦を得意としている。空中を移動する物体でも、わずか十メートル程度の距離なら撃ち抜くことは静止した的を射ぬくのと同等なほどに容易かった。
まして今回は、火道を追うという軌道がわかっていたのだ。当人からすれば超人芸でもなんでもない。
「悪い、助かった七海」
「お礼を言う暇があったら他の連中片付けなさい――と言いたいところだけど、」
七海はあえて言葉を途中で止め、黒髪をなびかせた清水優子へ視線を向ける。
集団戦だろうと個人戦だろうと、圧倒的力量差を見せ付ける超能力。
「重力強化――緊急事態だ。問答無用に行かせてもらおうか!」
《静動重力》によって増加された重力が、高さ五メートル以上ある機動ロボットをことごとく押し潰す。ある限界値まで潰れたところで内部機械や火薬が破損し、大きな爆発音とともに自滅していった。
ランクⅩ【使徒】の能力は隊列一つを制圧できると言われているが、まさにその通りだ。
「たぶんこれで、戦闘終了よね」
「だろうな。俺たちにできるのは、会長のお手伝い程度ってとこだな」
「ふむ――戦闘中だから黙って聞いていたが、七海も火道も容赦ない言い草だな。お前たちが敵の注意をひきつけたり、あるいは『芽潰し』をしてくれたりするからこそ私は大規模な重力増加が行なえているんだ。手柄はお前たちだよ」
「そう上からフォローできる時点で、手柄がどうの言ってるあたしたちより格上なのよ」
呆れたように肩をすくめる七海に同情するように火道も頷く。当人、優子はいまいち理解できていないせいか、ほんの少し首をかしげ――
「二人とも跳べッ!」
突如、叫んだ。
優子の声に従い地面を蹴り飛ばす七海と火道。その方向は真上。地面へ手をかざした優子の能力干渉範囲は、自分を中心とした半径五メートル。
「重力変動――この場の重力を『十分の一』へ!」
重力が書き換えられ、一時的に重力が月以下まで低下。火道と七海、そして同じく飛び上がった優子の体は地球上とは思えない、ビル三階に相当する高い跳躍を見せる。
そこまで上がったところで、黒煙を引き裂き、カブトムシに似たフォルムの機動体が飛び出してきた。胴体に繋がる六本足。砲弾のような軌道を描いて、つい先ほどまで三人が立っていた箇所へ着地する。
ドリフトするように急旋回し、羽の付け根からバシュッ! と数本のワイヤーが射出された。その先端には黒曜石。上昇を続ける優子達へと接近し、
ある瞬間を経て。
黒曜石が、一気に爆発した。
「ぐっ……」「きゃっ!?」「ちっ!」
中空で無防備となっていた三人に爆風が吹きつけ、体がショッピングモールの壁まで吹き飛ぶ。火道は器用に体勢を立て直したものの、女子二人は思いっきり背中から打ちつけた。
「大丈夫か二人とも!?」
「あ、ああ。この程度どうってことない。それより火道、追撃来るぞ!」
爆煙を突きぬけ、ワイヤーと黒曜石が飛来。豪炎を纏った火道は壁がめり込むほどの威力で蹴り飛ばし、あえて黒曜石へ突っ込んだ。
交差するタイミングで黒曜石がオレンジ色に輝き、爆発。超高熱の衝撃が火道の体を乱暴に殴る――かと思われたが、
「生憎、そう同じ手を何度も喰らうほど甘く生きてきたつもりはないんでね!」
爆発が起こる瞬間、火道は足を発射源として炎のジェットを放ち、強引に加速を図っていたのだ。背中に吹き付けた爆風は火道をさらに加速させる結果に繋がり、通常の人間では出せるはずもない威力のとび蹴りがカブトムシの装甲に直撃する。
その脚は緋炎を纏っている。その辺の金属なら溶かし尽くすこともできるのだが――
「無傷、かよ……!」
逆の脚でカブトムシの機体を蹴り飛ばし、後方へ飛び退く火道。彼に入れ替わるように、荷電粒子砲が爆煙を引き裂いて飛来した。
それをまるで予期していたかのように、カブトムシは真横へ移動して回避。火道へ目もくれず、優子と七海へ接近をしかける。
同時に優子が動く。制服のポケットより護符を取り出した。
「頼むぞ――契約執行!《レジェンドキー・雪女》!」
『任せてなのよ~!』
護符が水色の輝きを放ち、冷気を纏った白い美女、《雪女》が顕現する。
【太陽七家・水野家】伝統の魔術。水野雪奈の付き人も務めている優子は、その異能の会得者だ。
言葉を交わさず優子の指示を理解した《雪女》が吹雪を放ち、黒煙を視界から晴らす。
ついでカブトムシの動きの制限も試みるが、カブトムシの表面が凍結する気配は一切ない。また凍り付いていく地面を苦ともせず、むしろ滑って加速を手伝っているかのようだ。
「なるほど、こいつは手ごわいな!」
「台詞に似合わない笑顔で言わないでよ優子! ちったあ焦りなさい!」
怒鳴りながら七海は荷電粒子砲を連射しカブトムシの進路となる地面を焼き切るが、カブトムシは手前で脚をスプリングさせ、大きく跳躍した。
その瞬間を狙い、優子が重力増加をかける。
カブトムシから黒曜石が放たれたのは、ほぼ同タイミングだった。
ワイヤーごと黒曜石が地面に突き落とされ、カブトムシもまたひび割れた地面へ身を落とす。機動ロボットや直立戦車と違って機体がへし折れないだけ強度はあるのだろう。
だが、動きは制御した。
多少の苦戦を一瞬で終わらせる、理不尽なほどの【使徒】と一般世界の力量差。
雪女に「ご苦労だったな」と声をかけながら、優子はカブトムシへ接近する。
「私たちはこれ以上の交戦を望んでいない。投降の意志を示してくれれば、あなたを生かしたまま【ウラヌス】へ送りたいのだが――」
言葉の途中で、カブトムシの内部よりスピーカーを通じて声が届く。
優子は重力増加を解いた。
カブトムシのハッチが開き、操縦席の中が露わとなった――が、優子、七海、火道はそれぞれ、その内部を覗き込むなり眉をひそめることとなった。
「……そのお体は、一体……」
一旦深呼吸を挟んでから問いかける優子。中でカブトムシを操縦していた『女性』がわずかに頬を緩めた――気がした。
「サイボーグ、なんて学生のあなた達に説明しても、何も始まりませんよね。ともかく、私はこれで降参です。ランクⅩの実力にはさすがに敵いそうもありません」
「…………参考までに聞きたい。お名前は?」
「黒羽美里。昔【ウラヌス】に所属していました」
――が、ある事件で全身を死の寸前まで傷つけ、再起不能とまで言われていた。
しかし彼女は命を救われた。サイボーグとなり、脳を除いたほぼ全身の器官を機械制御に任せることで、かろうじて生き延びている。
操縦していたカブトムシこと【黒曜装甲】は美里のサイボーグ体に特化して設計されたパワードスーツだ。機動力、超能力使用環境は共に、サイボーグ化以前をはるかに凌ぐものとなった。
代償に、彼女はある十字架を背負った。
この場では語らない。語られるべきものではない。
黒羽美里は静かに瞳を閉じ、【ウラヌス】による身柄確保の時を待つことにした。
そして、【ウラヌス】到着を待つ優子達の前に。
「よォNo.6! ちょっと俺とゲームしねェか?」
金髪灼眼の悪魔が、間髪いれずに現れる。
☆ ☆ ☆
――アストラルツリー。
真っ直ぐに宇宙へと突き進むエレベーターに、波瑠と無機は乗り込んでいた。
「この塔の中に桜はいる――だけど、どこにいるかはわかってない」
「ええ。そこが、私たちにとって一番の課題ね。」
無機の返答に、波瑠は素直に顔をしかめる。
アストラルツリー内に桜は閉じ込められている。この中に桜がいる。ここまではまだいいだろう。しかし、この軌道エレベーターは地上と天空を繋ぐ世界最大の建造物である。一フロアごとの広さは確かにたいしたこと無いかもしれない。だが、常識離れしたフロア数を誇るこの塔内で一人の少女を探すというのは、砂漠の中に落とした宝石論並みの難易度を誇る。
それでも一つだけ、彼女たちは捜索にあたって、指針を決めていた。
無機は【神山システム】管制室へ向かい、波瑠が単独で桜本人を探す。
無機のプランに乗っ取って桜を解放するには【神山システム】の掌握が必須条件だ。
波瑠は彼女に、それを最優先で行ってもらうことにした。
波瑠が単独で全フロアを探すというのも無茶苦茶な話だが、【神山システム】を先に手に入れれば、探す時間を省ける確率だって出てくる。
「……無機さん、絶対桜を見つけて、救い出そうね」
「もちろん。」
ふっと目を細める無機。幾分か表情が柔らかくなったように感じる。
釣られて笑顔になりながら、波瑠はガラス張りのエレベーターの外を眺めていた。
真っ暗闇。雪雲が天空を覆っているということもあるが、すでに時刻は夜。太陽の明かりを完全に失って、地上から夜空へ放つ明かりのほうが眩しくなっている。
科学の街が生み出す、地上に輝く無数の星々。
あそこへ、帰るために。
エレベーターは、静かに宇宙へ進み続ける。
☆ ☆ ☆
高くそびえ立つ企業ビルが次々と倒壊されていく――漆黒の波動によって。
「おいおい、いつまでも俺から逃げられると思うなよ、三下共!」
集結が口角を上げ、両手を大きく薙ぐ。
彼の足元より闇色の波動が刃を成して、唸る龍のごとく虚空を一直線に翔ける。
その標的である火道寛政は、ビルの壁を蹴り飛ばして大きく方向転換。清水優子の生み出す重力場を借りて別のビルへと飛び移った。
《静動重力》で地面から傾斜九十度のビル壁に重力場を設置することで、忍者のごとく壁に着地することができるのだ。
「悪い会長、助かった!」
「礼など構わん――くるぞ!」
優子と火道は同時にビルを蹴り飛ばす。直後、闇の波動が中央より建造物を叩き割った。一つが切断されれば、集結の波動は優子達の飛び移る新たなビルへすぐさま方向転換。三次元的に逃げ回る彼女たちを逃すことは許さない。
「クソッ、俺の能力じゃ集結とは相性が悪すぎる! 悪い会長、逃げることしかできなくて!」
「それは私だって同じことだ! ヤツに超能力で攻撃しようとすれば、超能力の素となる波動にヤツが干渉し、すべてを根こそぎ奪われてしまう! 能力による攻撃はどの道通じない! だから実弾ならなんとかなると思ったのだが――」
優子はすでに弾切れとなったレディースのハンドガンを忌々しげに見つめる。
常人には目測不能の実弾を放っても、集結は周囲に取り巻く闇の波動で銃弾を消し飛ばしてしまう。しいて言うなら注意を逸らす程度にしか役に立たなかった。
だが、あくまでこれは拳銃の速度の話。
「スナイパーライフル並みの速度なら、流石の集結様でも防げないんじゃないかしら!」
優子や火道がひきつけている間に距離150メートル離れたビルの屋上まで移動した瀬田七海は、スコープを通じて集結の姿を捉える。
照準は眉間。能力演算領域のある脳を直接撃ち――――一瞬で殺す。
集結の注意は一切こちらに向いていない。
スナイパーライフルの引き金が引かれた。
銀色の弾丸が虚空を突き抜ける。
しかし――いや、やはりというべきか。
地中より噴出された漆黒の波動が鞭となり、白銀の銃弾を弾き飛ばした。
「やっぱ無理よね! わかってたけど!」
ライフルを放置しすぐさまビルを後にしようと駆け出す七海。
だが、次の瞬間。
150メートルの距離を越えて、黒が大砲のように爆裂した。
七海のいるビルの中央階層が完膚なきまでに破壊され、足場がひびを走らせ崩れ落ちる。
(え、ちょっと嘘でしょ!? 150メートル先まで波動を届かせられるなんて、聞いてない――)
自由落下を開始する七海の体。着地箇所など見当もつかない。とにかくバランスを取り、最善の位置取りを試みようと下方へ視線を向け、
絶望を悟った。
闇色の翼を生やした集結がほんの五秒足らずの間に真下まで移動し、七海を捕食するために待ち構えていた。
「いやァ見事なスナイパーだ。150メートルのロングレンジ、移動しているこの俺の眉間を的確に貫きやがった。その技術が失われるのは惜しい。実に惜しいなァ」
「惜しいなら、生存ルートってのはなくって?」
「ねェよバーカ」
トン、と集結がつま先で軽く地面を蹴る。
刹那、闇の波動が集結を中心点とし、竜巻を噴き上げた。唸る漆黒の柱は一瞬で七海の体を包み込み、彼女の波動を完膚なきまでに食い尽くす。
闇の波動が止む。
力を失った七海の体が落下し、運悪く体は鉄骨に突き刺さる――落下のエネルギーで、尖ってもいない物体に腹部を貫かれ、真っ赤な血が弾けた。すでに死んでいて痛みを感じないだけ幸いかもしれないが……その光景は、二名の者の怒りを生んだ。
「クッソおおおおおおおおおお!」
「ッ、アァ!?」
闇の波動が集結の防衛本能と呼応して噴き上がる。
波動が受け止めたのは、紅の上気を滾らせた回し蹴りを放った、火道寛政だった。
一か八かの体術、しかし集結には届かない。人間離れした強さを持つ集結に攻撃が届く者はいない。
「っ……」
「ま、相性が悪かった。人生今までオツカレサン」
集結の不健康な手のひらが握り締められる。
包み込んだ脚から火道の波動が問答無用に吸収され――だれん、と力なく四肢を垂れ下げた。
「それ以上、好き勝手やらせてたまるか」
集結が火道の波動を吸収し終えた瞬間、静かなる怒りと共にドライアイスの豪雨が飛来。
脱力しきった火道を取り払い、波動は津波もかくなんという莫大な量でドライアイス弾を制圧。集結は波動の嵐の中、興味深げに目を細めた。
「コイツが噂の《レジェンドキー》っつー異能か。面白ェじゃん」
「それほどでもな――伊達に盟星学園の頂点に立っているわけではないのだということを見せてやる!《レジェンドキー》契約融合! 雪女×清水優子!」
水色の粒子が拳銃よりあふれ出し、優子の中へと流れ込んでいく。優子の髪が水色へと染まり、体の周囲に漂う冷気。腕や脚に氷の装飾品がつけられ、二丁の氷塊拳銃が握られた。
雪女と融合した優子は、先ほどまでとは比にならない速度で跳躍する。
ゴッ、と空気が震える。彼女が足を着いた場は、冷気で大きな氷塊へと変貌していた。
「ハッ、また追いかけっこでも仕掛けようってか。いいぜ、どこまでも付き合ってやるよ!」
闇の翼を開き、集結が飛翔する。
ダイヤモンドダストを散らす優子の後を車両並の速度で突き抜ける。
両手の氷塊拳銃を並べて構えた優子。引き金が引かれ、水色に輝く冷凍ビームが撃ち出された。雪原に浮かぶ粉雪を巻き込み、格段の威力で集結を襲う。
集結は左手をかざした。一旦球状に収束された波動が投擲され――冷凍ビームと直撃するなり爆発。積雪を巻き上げる莫大な衝撃波を散らした。
「ハッハー! その程度で終わりとかつまんねェこと言うなよ! やっぱランクⅩは歯ごたえが違ェ! もっともっと、この俺を楽しませやがれ!」
狂ったような笑い声が響く。
その間にも黒一色の波動は優子を叩き潰さんと虚空を薙ぎ、周囲の建造物を叩き潰しては破壊を繰り返す。重力場を作っては足場を変え、その建物は一秒後には瓦礫の山と化す。
一瞬の油断も許されない激戦の刹那、地面を裂くほどの衝撃波を散らし、集結が弾丸に迫る勢いで跳んだ。
両者が道路を挟み、一直線に並ぶ。
闇の波動と水色の輝きがぶつかり合い、余波が窓ガラスを粉々に砕く。
二人が一歩を跳躍するたびに地面が割れ、波動がぶつかり合うたびに大気が震えた。
優子の波動が《集結》されないのには、一つの戦術がある。
単純に言えばヒット&アウェイ。
《集結》の名の通り、波動を徴税できることがこの能力の一番恐ろしい点だろう。あの闇の波動に触れ、集結が認知した時点より波動が徴税され始め――長くとも三秒で死を迎える。超能力者という枠組みでは足りない――波動を有する生物すべてが集結に敵わない。
しかし、そいつを逆手にとれば死なずに戦える。
ある一定の距離を保ち、あの波動に触れなければいい。
雪女との融合で身体機能は飛躍的に上昇。それだけでない。『力』の操作によって自身の体を軽く動かすことが可能な優子の動きは限りなく速い。いくら集結であろうと、速度面の問題であれば、彼女に触れることは難しいはずだ。
現に、集結を相手に数分間、優子は波動を徴税されることなく立ち回っている。
勝率は零パーセントでも、死ぬ可能性は百パーセントではない。
そう、信じていた。
何度目の攻防だろうか、氷の刃を集結の波動で破壊され、すぐさま体を引き戻そうとした、その瞬間。
「あー……飽きた。やっぱ飽きた。雑魚狩りがここまで続くとさすがに面倒くせェな。じゃ、一撃で終わらせるか……」
突然、集結の顔から狂気の笑みが消えた。
不審に思いながらも拳銃を構えた優子の足元から、唐突に。
黒の槍が突きあがった。
「っ!?」
咄嗟に地面を蹴り飛ばし、重力を軽減して浮上する優子。巨大な鉛筆のように先を尖らせた幾本もの波動の柱が飛び上がる彼女を捕捉した。
手近なビルに力場を張り、ぐいんと跳躍の軌道を曲げて追跡を逃れようと試みる――しかし、波動の柱は龍のようにうねり、優子の跳ぶ軌道上を的確に追尾。すでに集結との距離は五十メートルを超えようかというにもかかわらず、逃れることができない。
(っ、速い――)
そして。
鮮血が雪原に弾ける。
一本が腹を貫き、加速を止めた身体に二本、三本と波動の槍が突き刺さる。
彼女から降り注ぐ鮮明な赤に、集結は不敵に口角を上げた。
「徴税終了――ォ! これで残すはあと四人――そうすりゃ、この計画もやっと終焉だ。やっと俺は、『絶対』を手に入れられる! アハッ………………アハハハハハハハハハハハハハハハハッ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
悪魔のように高笑いする集結。
その声は、優子にはすでに届いていない。
波動を徴税され、人形となった体が雪原に落ちた。
氷塊と瓦礫の散る荒廃した地獄。
灼眼が、海上都市中央に聳え立つ塔を捉えた。




