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振り返り 【第一章 奇跡の少女編】

お待たせしました。『これが奇跡の零能力者』、連載再開です。


今日から三回は振り返りということで、第一章~第六章までのごくごく簡単なあらすじを。

8月17日からは【第七章 東亜の影編】の更新をしていきます。たぶん毎日更新です。

そんなわけで、よろしくお願いいたします!!!


 さあ、今こそ開戦の時だ。


 零能力者VS全世界。


 勝率・零。


 世界で最も愚かな戦争を、始めよう。




【episode-01


  奇跡の少女編】




「わ、わわ! 助けてえええええ!!」


「女の子が空から降ってきた――――――ッ!?」


 中学三年生の天堂(てんどう)佑真(ゆうま)は、夏休み始まりの日に「ハル」と名乗る少女と出会った。




 彼女はなぜかパワードスーツに追われていたが、佑真は機転を利かせてパワードスーツを撃退。疲弊したハルを、自身が住む学生寮へ連れ帰る。


「都営自然公園名物・毎時〇分と三十分に起こる噴水タイムだぜ。

 パワードスーツってのは、形や目的はどうあれ『スーツ』だ。つまり人間が装着してるんだろ? 逃亡のチャンスを作るなら、外側じゃなくて中にいる人に対応したほうがいいと思ったんだ」




 学生寮で寮長を交えてハルから事情を聴いていく最中、佑真はハルが不思議な力を持っていることを知った。


「《神上の光(ゴッドブレス)》は生死を司る。

 死んだ人を蘇らせることができるんだ」




 ハルが世界中の人々からその身を狙われていると知ったが、佑真は超能力を使えない『零能力者』。ハルに手を差し伸べられない己の無力さを悔しく思う。


 しかしその時、学生寮にとある男が来訪。


 オベロン・ガリタと名乗った大剣使いは、ハルの四肢をその大剣で切り刻んだ。


「なるほど。つまり少年。貴様はその少女を俺から逃がし、なんとか回復させようと」


「あ、ああそうだよ。ハルは特別な力を持っているらしいけど、そのことが、ハル自身が傷つけられる理由であっちゃいけないだろ。それに」


 そして佑真は、死を覚悟してハルのために『時間稼ぎ』に臨む。


「この娘は全世界から逃げているんだろ。だったらテメェはハルの敵だ。テメェにハルを渡すワケにはいかねぇよ」


「言ってくれるが貴様、俺に勝てると思っているのか?」






 超能力は、たった十数年前まではフィクションの中でのみ扱われる『単語』だった。


【SET】の登場に伴い、現在は誰もが発動することのできる『実物』となった。


 それはスポーツと同様、才能によって大きな差こそ開いてしまうが、万人が共有できる『常識』の一部として、切り離すことのできない存在となった。




 だが、その力が世界に豊かさを齎したかといえば――それは一概に肯定できない。


 結局、世に溢れるフィクションと使い道は大差ない。


 超能力が世界に登場した時期は史上最悪の争乱、第三次世界大戦中。


 即ち。


 他者を殺戮(さつりく)するために生み出された凶器だったのだ――――――。




 傷ついたハルを連れだした寮長は、彼女の指示に従って地面に魔法陣を描く。


《神上の光(ゴッドブレス)》――生と死を覆す魔法で自分の身体を癒したハルは、学生寮で戦い続ける佑真の下へ急ぐ。


(これが魔法、《神上の光(ゴッドブレス)》か……心底恐ろしいのう)




 佑真は大剣使い・オベロンと戦い続けるが、彼の《発火能力(パイロキネシス)》の前になす術無く敗れてしまう。


 壁際まで追い詰められたその時、エレベーターで助けに来たハルの超能力がオベロンを拘束した。




 佑真がエアバイクを取ってくる間、ハルは寮長から佑真の過去を聞いた。


「あやつは……天堂佑真はな、記憶喪失者なのじゃ」


 超能力が使えない『零能力者』として虐(しいた)げられ、荒れていた過去。


 そして『知り合いでもない誰か達』に救われたことで、自分も彼らのように誰かを救える『正義の味方(ヒーロー)』になりたいと願うようになったことを。


(私が困っている――たったそれだけで手を差しのべてくれたんだ。すごいんだね、あなたは。すごい、強いんだね)




 ハルの《神上の光(ゴッドブレス)》で傷を癒された佑真は、ハルが現在、超能力をまともに使えないと改めて告げられる。彼女の逃亡を手伝いたいと申し出るが、ハルは「関係ない人を巻き込みたくない」と拒否。


 そんな二人の前に、キャリバン・ハーシェルという少女が立ちはだかる。


「だったら敵の強さを知れば、彼も諦めてくれるんじゃないですかぁ?」




 キャリバンの猛攻になす術無くやられる佑真達。


 無防備になったハルと寮長に攻撃を届かせないよう、佑真は自らの背中を盾としてキャリバンの《風力操作(エアロキネシス)》から二人を守り続ける。


「だったら、オレがすべきことは一つ……お前を、庇うこと、だ」


 キャリバンの口から語られる――ハルが昔、国家防衛軍【ウラヌス】に所属していた脱走兵だという事実。


 しかし佑真は、今所属することを望んでいないハルの想いを尊重。彼女を守りたいと願ったのは寮長も同じだった。


「これ以上やられると佑真が死にそうだからの、わしも参戦しよう。もっとも、大気を操る能力者のおんしには最も戦いにくい相手になるかもしれんがの」


 寮長は《真空斬り(エアカッター)》でキャリバンを足止め。その間に、佑真はハルを連れてエアバイクで逃亡を開始する。




 路地裏に逃げた佑真は、ハルから《神上の光(ゴッドブレス)》について詳しく教えられる。


《神上(ゴッドブレス)》とは、神様が持っているような奇跡を起こす『魔法』であること。


 わずか十歳の時に魔法陣を背中に焼き付けられ、それから国防軍【ウラヌス】で無数の死者を生き返らせてきたこと。


 後に脱走し、十文字(じゅうもんじ)直覇(すぐは)という女子高生と出会ったが――ハルのせいで直覇を死なせてしまったこと。


「それ以来決めたんだ。『できるだけ《神上の光(ゴッドブレス)》は使わない。できる限り他人と関わらない。もし関わったとしてもすぐに別れる。どれだけ冷たいことを言っても』。そうすればもう、少なくとも、関係ない人が死んじゃうことないからね」




 ハルが真実を語る中で、【ウラヌス】のステファノ・マケービワという青年が突如介入する。


《空間移動(エリアテレポート)》という超能力を持つ彼は、佑真に向けてハルの正体を明かした。


「お嬢様の本名は天皇波瑠。

 彼女は《神上》を生み出した【天皇家】の血を継ぐ、生まれながらの天才(現人神)。

 超能力ランクⅩの才能を有していたので《神上》に選ばれたのですよ」




 天才的な超能力者であり、日本を代表する【太陽七家】という血筋も持っている。


 そんな少女を『世界最弱』の佑真が守っているのはどういう気分だろうか? ――と煽(あお)るステファノに対し、佑真は真正面から拒否反応を示す。


「悪いが、アンタの挑発はオレに届かねえよ」


「そうですか。残念です」




 佑真はステファノの投げナイフを受け止めて尚、波瑠を連れてエアバイクで逃亡を続行。


 佑真にとって大事なのは、経歴でも能力でもない。今彼女が助けを求めているか否か。


 そう宣言する佑真に、波瑠は心を突き動かされていく。


「信じて頼ると書いて『信頼』な。もう少しだけでいいからさ、他の人を信じて、頼ってみろよ。お前くらい可愛い女の子に頼られりゃあさ、大抵の男子は普段の何十倍にでも頑張れる。…………少なくとも、オレはそうだから」




 エアバイクは高速道路へ突入する。


 すると、【ウラヌス】の追っ手であるパワードスーツ、そしてエアカーを使いオベロン・ガリタとキャリバン・ハーシェルも追走してきた。


 超能力を構えるキャリバンの心には、自らの憎い過去が蘇る。




 国防軍【ウラヌス】に特殊な事情で十歳から所属していたキャリバンは、《神上の光(ゴッドブレス)》を焼き付けられた波瑠が従軍させられる際、同い年だったために同室が割り当てられる。


 最初は乏しい人付き合いから、彼女とうまく交流できなかったキャリバンだったが、彼女と交流を深めるうちに友達の暖かさを知ったキャリバン。


 死んだ兵士を生き返らせる、という過酷な運命を背負った波瑠の支えになりたいと願い続けていたが――波瑠を助ける前に、彼女は脱走。


 キャリバンの部屋には、ありがとう、と書かれた手紙のみが残されていた。




 高速道路で、キャリバンの《風力操作(エアロキネシス)》が佑真達を追い詰める。


 もういいよ、と叫ぶ波瑠に対して、絶対に諦めない、と告げる佑真。


 苦渋の想いに挟まれる波瑠に、旧友としてキャリバンが語り掛けてくる。


「アナタなら……この状況を打破することが、できるんじゃないですか?」




 ランクⅩ――最強の超能力者としての実力を使えば、現状を打開することも不可能ではないはず。そう挑発するキャリバンは、竜巻を構えていた。


 ――――波瑠を護る為に鍛えた力で、波瑠がもう逃げられないほど傷つけることで、波瑠を護る。


 大きな矛盾を孕んだ一撃、波瑠も佑真も斬殺する竜巻が振り降ろされる。


「アタシはハルを護る為に、全身全霊でハルを殺します。

 だからアナタはアナタの護りたい者のために超能力を使ってください、ハル」




 キャリバンの『波瑠を救いたい』という綺麗な気持ちを守るため。


 そして、ここまで自分のために身を張ってくれた佑真を守るため。


 波瑠は自身の超能力――《霧幻焔華(コールドシャンデリア)》を発動する。


「佑真くんが何時間も頑張ってくれたおかげで、だいぶ波動量が戻ってる。だから、この場だけは私も頑張るから。佑真くん、一緒に生き延びて、逃げ切ろうよ。ね?」




 キャリバンの竜巻を防いだのもつかの間、高速道路にマグマでできた火炎龍が登場。


【ウラヌス】のアリエル・スクエアも介入し、超高速での戦闘が幕を開ける。マグマを操るアリエル、風を使うキャリバンの攻撃を圧倒し、封殺する波瑠。


 波瑠の超能力《霧幻焔華(コールドシャンデリア)》は『エネルギー変換能力』。熱エネルギーや電気エネルギーを支配下に置き、自由自在に変換する最優の力が【ウラヌス】の大技と激突。


 発声した衝撃波によって、佑真と波瑠は大きく海へ吹っ飛ばされた。




 海に不時着した佑真は、息絶え絶えになってしまった波瑠を見て、彼女が無茶をして超能力を使ったのだと知覚する。


 もはや一人で立つこともできなくなった波瑠に、なぜそこまで無茶をしたのか、と問い詰める佑真。


「私が今、ここで、こうして生きているのは……佑真くんのおかげなの。佑真くんが、助けてくれなかったら……もっと早くに、私の物語は終わっていた。だから」


 波瑠は、本当なら夕方の時点で終わっていた自分の人生を、無茶をし続けて引き延ばしてくれた佑真への感謝を告げる。


「ありがとう、佑真くん」




 波瑠をおぶって移動していた佑真は、洞窟の奥深くに温泉を見つける。


 足湯をしている間に、ついに疲れて眠ってしまう波瑠。その間に、【ウラヌス】のステファノ・マケービワが温泉の中から現れる。


「それより天堂佑真、あなたはお嬢様に《神上の光(ゴッドブレス)》を焼き付けられた理由を、知りたくありませんか?」




 今から五年前。


 資質ある子供達を集めて『the next children』という《神上》の魔法陣を焼き付ける計画が実行に移された。


「不可能とされてきた数多の異能を実現させてきた《超能力》でも、このような『超・超常現象』は起こせません。

 故に、人間から神(、)の領域へ上(、)り詰めた者。

 神の力の一部を引き出す《魔法》というカテゴライズが生まれました」


 神の奇跡を宿した十二人の子供達は、しかし米軍の襲撃の際に日本中に散り散りになってしまった。【ウラヌス】に残された波瑠は死んだ兵士を生き返らせる仕事に就(つ)くが、やがて脱走した――そんな経緯を聞かされる。




 ステファノが帰った後、佑真は波瑠自身の口から真実を聞いた。


【ウラヌス】は国家防衛軍。実際に現場で戦う彼らを見ていた波瑠は、【ウラヌス】が日本国民の生活を守る『正義の味方(ヒーロー)』だったのだと知る。


 そんな彼らを生き返らせることに、波瑠は抵抗が無かった。


 何度も何度も死者を生き返らせる――つまり『死体を見る』波瑠を、【ウラヌス】の人達は優しくいたわってくれた。親しくなるにつれて仲間としての絆を感じていたが、やがて《神上の光(ゴッドブレス)》の存在に気づいた全世界が、波瑠を欲して行動を仕掛けるようになった。


【ウラヌス】は波瑠を護る為に戦争を続けたが、ある日、波瑠は気づく。


「でもね、気づいたんだよ。【ウラヌス】の皆が死んじゃうのは、私が【ウラヌス】に所属して、皆に守られていたからだって」


 キッカケは、【ウラヌス】の兵士達に異変が起こり始めたことだった。


「みんなは死ぬたびに死の痛みを経験している。それでも、生き返らせる度にみんな立ち上がって、戦場へと戻っていく。一見すごい戦法だけどさ、こんな無茶苦茶なことを繰り返して、皆はどうなったと思う?

 心の方が、壊れ始めたんだ。

 笑わなくなった。感情が顔から消えていった。喜びも、怒りも、死に対する恐怖までもが失われた。……【ウラヌス】のみんなを殺していたのは、私の方だったんだと気付いて……そうしたら、怖くなった。みんなが完全に壊れる瞬間を見たくなかった」


 全世界の標的になる――それをわかっていながら波瑠は【ウラヌス】から逃げ出して、わずか十歳の身で逃亡生活を開始した。


「それ以来、私は誰とも関わらないって決めた。私を守るために追ってくる【ウラヌス】の皆も拒絶してきたけど……結局私には何もできていなかった。


【ウラヌス】の皆に『敵』を演じさせて、キャリバンをぐちゃぐちゃに傷つけて……関わる人の善意をも踏みにじって、殺してしまう。


 だから私はね、佑真くん。


 誰かを不幸にしてきた、最低な人間なんだよ」




 重すぎる十字架を背負う彼女に対し、佑真は「ふざけんなよ」と激昂する。


「そりゃ完全に幸せなんて言えなかったろうさ。けどそいつらは、何百回何千回殺されても、波瑠の側にいてくれたんじゃないのか。たとえ死の苦しみを経験しようと、それ以上に波瑠のそばにいることを望んでくれたんじゃないのか!」


 好きな人達を守るために、十歳から五年もの間、たった一人で世界中の強敵を相手取ってきた。


 そんな彼女が長い間言えなかった一言を、佑真は説得の末に引っ張り出した。


「もうやだよ……誰か、誰でもいいから、私のことを助けてよ!」




 佑真は誓う。


「お前の願いを叶えるには、オレは弱すぎるかもしれない。だけどお前を守るためなら、奇跡だって起こしてみせる。世界の誰よりも強くなって、地獄の底から救い出してみせるから」




 海岸にいた佑真のもとに、【ウラヌス】のアリエル・スクエアが現れる。波瑠を出せと要求する彼女に対し、佑真は拒絶。戦闘が幕を開ける。


 マグマを操るアリエルの《豪炎地獄(ヘルファイア)》に苦戦し、右腕を失う大ダメージを受けるが、佑真は『トドメを刺せる場面でも殺されない』ことに違和感を覚え、アリエルを問い詰める。


 アリエルの口から、その理由が語られる。


「改造人間(サイボーグ)……!?」


「その通りです、『零能力者』。


 第三次世界大戦にて、戦力の足りなかった日本が緊急に実行した人体改造による兵力増強――『強化兵創造計画(プログレッシブ)』。【天皇家】の回収した戦争孤児のほとんどは、この計画の生贄となりました」




 元々戦争孤児だったアリエル達は、日本が第三次世界大戦・休戦前後で行った『強化兵創造計画(プログレッシブ)』の実験台にされていた。


 その成功例として肉体の一部を機会に挿《す》げ替えられたアリエル達は、【ウラヌス】に所属させられる。戦争孤児として迫害されていた頃よりはマシだ――と思いながらも、周囲からの差別の視線に傷ついていたアリエル達。


 そんな彼女達は、波瑠とキャリバンの二人と出会い人生を変えられる。


 子供故に差別的な想いを抱かず、しかも傷ついた自分達もちゃんと『人間』として癒してくれる波瑠への好意。そして人懐っこい波瑠の性格が橋渡しの役割を果たし、周囲の人々との溝も埋まっていく。


 波瑠のために、アリエル達は強くなろうと誓った。


 波瑠を護ることが、波瑠への最高の恩返しだから。




 しかし波瑠は脱走し、アリエル達には『《神上の光(ゴッドブレス)》の回収』という任務が与えられた。言葉での説得が通じず、武力行使を強要される。拒否すれば改造人間のアリエル達は処分されるだろうし――そうなれば波瑠は悲しむだろう。


 波瑠を傷つけたくないのに、波瑠を傷つけなければいけない。


 そして波瑠は、自分の運命に巻き込みたくない、という願いから【ウラヌス】と一緒にいられない。


 どうしようもない板挟みになってしまった彼女達は、もう限界を迎えていた。


 だからこそ、佑真は助けを求める彼女に宣言した。


「やってやる! 波瑠を救い出すって約束したんだ! この約束だけは踏みにじらせない。誰もが笑って終われるハッピーエンドってやつを、意地でも掴み取ってやる。その為だったらテメェらだって救い出してやるよ、アリエル!!!」




 翌日――アリエルとの交戦を経て気絶していた佑真は、波瑠の膝枕で目を覚ます。


 多少は動けるようになった波瑠を背負い、移動を開始する佑真。


 長い長い海岸線を歩く中で、佑真は波瑠に『オレの中学校に来ないか』と提案する。


 なんでもない日常を、一緒に過ごそうよ、と。




「ねえ、佑真くん」


「ん? 何?」


「ずっと一緒にいても、いいですか?」


「当たり前だろ」




 しかし彼らの前に、【ウラヌス】のオベロン、キャリバン、アリエル、ステファノが立ちはだかる。


 佑真は必死に波瑠を護ろうとするが、所詮佑真は『零能力者』。超能力者達の猛攻の前になす術無く、つい昨日に結んだ約束を嘲笑うかのように海へと沈められた。


 放っておいたら佑真が死んでしまう――その事実が、波瑠のトラウマである『死者を見たくない』という感情を呼び起こす。キャリバンはその感情をも利用すべく、波瑠を脅す。


「天堂佑真を助けてほしければ、【ウラヌス】に戻ってきてください」




「わかったから! なんでもするから、早く佑真くんを助けて!」


 ――即答する波瑠の表情を見て、キャリバンは今更のように後悔の念に駆られる。


 唯一の友達に刃を向ける覚悟をしたのは、もう五年も前のはずなのに。


 なのに、どうしてここまで心が痛む。


 自分のことなんてどうでもいい。


 大切な人を救うためなら、自分がどうなってもいい。


 そんな波瑠の『優しさ』を利用し、傷つけたことを――今更、後悔しているのか?


 彼女自身が動けなくなるまで追い詰めてしまったことを、後悔してしまうのか?


(………………、アタシは今まで……何を、やってたんですか……ッッッ!)




 月が赤く染まっていく――今宵は皆既月食。


 そして、人の姿をしていながら人では非ざる人外――《神上》を生み出したすべての元凶が顕(あらわ)れる。


「お嬢様、この方こそ【太陽七家】を統べる者――第三次世界大戦を休戦まで導いた『英雄(ヒーロー)』にして【天皇家】の当主。天皇(てんのう)劫一籠(ごういちろう)氏ですよ」




 天皇劫一籠の手によって、心臓を貫かれるキャリバン。


 佑真とキャリバンの死を目の当たりにして、五年間こらえ続けた波瑠の心はようやく折れる。


 感情を爆発させる波瑠。《神上の光(ゴッドブレス)》が波瑠の感情に呼応し、純白の粒子――『天使の力(テレズマ)』と呼ばれる特殊な粒子を放出し始める。


『天使の力(テレズマ)』は波瑠の肉体を器にして、六対十二の翼を持つ『何か』へと変貌。


 いわば人工の神様――《神上の力(GOD KNOWS)》が降臨する。


「通常時、人間界では抱えきれない量の『天使の力(テレズマ)』を《四代元素大天空魔法陣(エレメンタルコード)》で安定させることにより、完全な『神の奇跡(ゴッドブレス)』を喚んだのだ。

 今の状態であれば、生者を殺すことも、死者を生き返らせることも、時を操ることも、空間を制御することも。

 世界を創り替えることも、可能となるだろう」




 海に沈んでいく佑真に、語り掛ける声があった。


 声の主は十文字直覇。彼女と言葉を交わし、佑真は波瑠と結んだ約束を、ずっと一緒にいるという約束を思い出す。


 もう、波瑠をひとりぼっちで悲しませないために。


『――それじゃあ、いってらっしゃい天堂佑真。ボクには救いきれなかった可愛い可愛い女の子を救い出してくれ』




《神上の力(GOD KNOWS)》が日本大陸を破壊しよう放った光線を、受け止め、消去する〝雷撃〟があった。


「今すぐ波瑠を返してもらうぞ、クソッタレ!」


「天堂……佑真……!」


 零能力者、佑真の体内から激しく放出される〝雷撃〟は『異能の力を消す』特性を持つ。なぜ超能力が使えないはずの佑真が〝雷撃〟という不思議な力を使えるようになったのか、その答えは佑真自身でさえもわからなかったが――使い方だけはわかる。


 波瑠を救うために使う。


 この場面で目覚めた力は、そう使う以外の選択肢を持たないはずだ、と。




 天皇劫一籠の策略と《神上の力(GOD KNOWS)》の文字通り次元が違う力によって、異能を消す〝雷撃〟を以(もっ)てしても死(し)に体(たい)となる佑真。


 しかし、どれだけ傷つこうとも佑真は諦めない。


「なぜだ……なぜ、貴様は勝ち目が無いのに立ち上がる? この圧倒的力量差。《神上の力》を相手にして、貴様の勝ち目は『零』に等しいというのに」


「……オレは、諦めが悪ィのだけが長所なんでね」




 佑真は〝雷撃〟を駆使し、キャリバンを蘇らせる。


 生を死へ『還元』し、肉体を『創造』したと告げる佑真。《神上》に匹敵する理不尽な異能を使いこなす佑真を、天皇劫一籠は人間ではないらしいと蔑視する。


 キャリバンを交えて戦い続けようとする佑真だったが、しかしやはり《神上の力(GOD KNOWS)》の猛攻になす術無く苦戦を強いられる。


 ステファノは語り掛ける。もう勝ち目が見えない以上、撤退した方がいいのではないか、と。しかし佑真は、波瑠が苦しんでいるから、という一点で拒絶。


「鍛えた力は何のためだ。築いた信頼は何のためだ!? そんなところで突っ立ってねぇでさっさとここまで来いよ、『正義の味方(ヒーロー)』ッッッ!!!」




 アリエル・スクエアは火炎龍を使役して《神上の力(GOD KNOWS)》への道を切り開く。


 オベロン・ガリタは大剣を振るって天皇劫一籠を足止めする。


 キャリバン・ハーシェルは佑真を襲う《神上の力(GOD KNOWS)》の攻撃を防ごうと協力する。


 ステファノ・マケービワは《神上の力(GOD KNOWS)》を分析し、佑真に食い止めるヒントを与える。


 波瑠を救いたいという強い重いが、佑真を突き動かす。波瑠を救おうと手を伸ばした――その時。




 天皇劫一籠が動く。


 この忌々しい世界を――愚かなる人間界をリセットし、新世界を創り出すために。


 彼のかつて愛した者達を取り戻し――幸福に溢れた世界を創造するために。


「諦めてなるものか! 我が悲願を実現するのに、これ以上の邪魔立ては許さん!」


 天皇劫一籠は《黄金の槍》を作り出す。すべてを貫通する無敵の槍を。


 その鏃は、佑真の背中を捕捉する。




 波瑠を救うまでに必要な距離は、あと一歩。


 佑真はたったその一歩を詰めるために、《黄金の槍》が心臓に突き刺さるのもお構いなしに手を伸ばした。




 波瑠の肉体を支配していた『天使の力(テレズマ)』が〝雷撃〟によって消え去り、佑真の心臓を貫いた《黄金の槍》もまた〝雷撃〟が消し去り。


「…………ゆうまくん……」


「大丈夫だ。終わらせてくるから、もうちょっとだけ、待っててくれ」


 そして佑真の左拳が、天皇劫一籠の肉体を殴りつけた。




 死の寸前まで傷ついた佑真達を、波瑠の《神上の光(ゴッドブレス)》が回復させた。




 数日後。


 佑真には『三秒間触れ続けることで、異能をかき消す異能(※ただし直で触れるため怪我不可避)』という超中途半端な能力が残り、波瑠は佑真の暮らす学生寮で暮らすことが決定した。


 波瑠は【ウラヌス】に戻るのではなく、佑真の傍にいることを選んだ。


 それはつまり、佑真が波瑠を守り続ける立場についた、ということだ。


 佑真は命を懸けて波瑠の傍にいると誓うと同時に――


「もっとずっと――いつまでも、私と一緒にいてください」


「………………バーカ」


「むう、なんでバカって――きゃっ」


「もう手放さねえよ。ずっと一緒だ」




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