同じ一袋ではありません
朝食のあと、セラフィーナは昨日買った穀物を食卓とは別の長机へ並べさせた。
袋は六つ。
中身はいずれも同じ種類の麦で、三種類の計量印が二袋ずつある。
昨日のうちに量った結果は、すでに開いた帳簿へ書き込まれていた。
同じ印が押された二袋は、店が違ってもほとんど同じ重さだった。
違う印の袋は、目で見ても分からない程度ではあるものの、秤へ載せればはっきり差が出る。
若い書記のノアン・ベルクールが、帳簿と袋を交互に見た。
「昨日より安かった店の麦が、重さを揃えて考えると一番安いわけではないのですね」
「ええ」
セラフィーナは椅子へ腰掛けたまま答えた。
昨日、最初に見た値札だけなら、通りの東端にある店が最も安かった。
しかし同じだけの重さを買うものとして計算し直せば、別の店の方がわずかに安い。
商人が量を誤魔化しているわけではない。
東端の店が使っていた袋には、別の印が押されている。
その印の一袋は、他の印の一袋より軽い。
「知らなければ、安いと思って買いますね」
「そうでしょうね」
「悪い売り方なのでしょうか」
セラフィーナはすぐには答えなかった。
机の端に置かれていた一枚の受取証を手に取る。
商品名。
袋数。
価格。
店名。
押印。
必要なことはきちんと書かれている。
重量を隠しているというより、この土地では袋数そのものが取引単位として通用しているらしい。
少なくとも、昨日買った店だけを見て不正だと決める材料はなかった。
「今のところ、そう判断する理由はございませんわ」
「では、問題はないのでしょうか」
「それもまだ分かりません」
ノアンは素直に頷いた。
分からないと言われて安心する者は珍しいが、ノアンはレグリエにいた頃から、セラフィーナが知らないものを知っているふりをしないことを知っている。
ただし、何が分からないのかを本人が分かっている時は、答えが出るまでが異様に短いことも知っていた。
セラフィーナは帳簿を閉じた。
「市場へ参りましょう」
「追加で買うのですか?」
「いいえ。袋はもう十分ですわ」
重さの違いそのものは確認できている。
同じ印なら、店が変わってもほぼ同じ。
違う印なら、一定の差がある。
偶然や店ごとの癖として片づけるには規則的すぎる。
次に見るべきは袋ではなかった。
その袋を、人がどう扱っているかだった。
昨日と同じ市場は、朝の方が騒がしかった。
荷車が何台も入り、倉庫へ向かう荷と、小売りの店先へ下ろされる荷が分かれていく。
アルノー・ベルティエも少し離れてついてきている。
監察対象が市場へ出ること自体に制限はない。
事前に申告している以上、彼も止める理由はない。
セラフィーナは監察官へ声をかけることなく、市場の中央を歩いた。
昨日見た時より、袋の印が多い。
麦だけでも数種類ある。
同じ印がまとまって積まれている店もあれば、複数の印が混ざっている店もあった。
その時、少し先から男の大きな声が聞こえた。
「四十袋持ってきたんだぞ。三十六と少しってのはどういうことだ」
怒鳴っているのは、荷車の横に立つ中年の男だった。
服装から見て、高位の商人ではない。
自分で荷を運んできた生産者か、小規模な仲買人だろう。
向かいにいる商人は怒鳴り返さなかった。
疲れた様子で、帳面を指している。
「袋を減らしたなんて言ってない。あんたのところの四十袋を、ここの基準へ直せばそうなるって話だ」
「袋は四十あるだろうが」
「だから、あるって言ってる」
二人の間に積まれている袋には、昨日セラフィーナが量ったものとはまた違う印が押されていた。
商人の横には市場の計量役らしい男もいる。
詐欺を働く者が役人の前で堂々と袋数を減らしているようには見えない。
セラフィーナは足を止めた。
声を上げていた男が、計量台に載せられた袋を指す。
「向こうじゃこれで一袋なんだ。それで税も払ってる。なんでこっちへ来たら袋が減る」
「減ってない。こっちの一袋がそっちより重いんだ」
「だから同じ一袋だろう!」
そこで話が一周した。
ノアンが小声で言う。
「昨日の袋と同じですね」
「ええ」
セラフィーナには、すでに可能性がいくつか浮かんでいた。
単純な換算規則があるだけなら、ここまで揉める必要はない。
商品の品質が違えば、重量だけ揃えても意味はない。
産地によって袋そのものの重さが違う可能性もある。
あるいは、地方ごとに正式な計量制度があり、移動先の市場ではその土地の制度へ置き換えなければ帳簿へ載せられない。
昨日までに分かっていることが、そのうちいくつかをすでに弱くしていた。
別々の店で買った袋でも、同じ印なら重量はほぼ揃っていた。
袋の作り手や商人の都合だけなら、そこまで綺麗に印と重量が一致する理由が薄い。
残るものの中で、どれが正しいか。
必要なのは長い調査ではなかった。
セラフィーナは揉めている二人へ直接入らず、その横にいた市場の計量役へ声をかけた。
「少し伺ってもよろしいかしら」
計量役が振り向き、一瞬だけ目を見開いた。
淡い銀金の髪と、明らかにこの土地の者ではない衣服。
後ろには王室監察局のアルノーまでいる。
誰なのかまでは知らなくても、普通の買い物客ではないと分かったらしい。
「何でしょう」
「そちらの袋の印は、どなたが保証なさっているものですの?」
計量役は袋を見た。
「向こうの市場です。南寄りの地区から来た印ですね。現地じゃ正式なものですよ」
一つ。
商人が勝手に押した印ではない。
「向こうでは、この袋一つを一袋として税の計算にも使います?」
「穀物の市場税なら、そうです。品種や等級で別の扱いもありますが、この麦なら」
二つ。
単なる商慣習でもない。
公的な数量として制度の中へ入っている。
セラフィーナは、最後の一つを尋ねた。
「では、この荷をここからさらに別の地方へ運ぶ場合、その土地の基準がまた違えば、もう一度量り直しますの?」
計量役は少し怪訝そうな顔をした。
質問の意味ではなく、なぜそんな当たり前のことを外国人が気にするのか分からないのだろう。
「必要なら。向こうがここと同じ基準ならそのままですが、違えば向こうの市場で確認します。証明書を付けても、全部そのまま通るとは限りません」
三つ。
それで十分だった。
セラフィーナは、揉めている二人へ視線を戻した。
四十袋は四十袋のまま。
誰も袋を盗んでいない。
南の市場も嘘をついていない。
この市場も嘘をついていない。
どちらの一袋も、その土地では正式な一袋だった。
だからこそ、境界を越えるたびに同じ商品が別の言葉へ翻訳される。
それも一度ではない。
市場。
倉庫。
次の市場。
売り先によっては、その先でも。
一回の手間は大きくないのだろう。
だから今まで残っている。
だが、大量の商品が何度も地方を跨ぐなら話は変わる。
量り直す人間がいる。
待つ荷車がある。
帳面を書き換える者がいる。
証明を確認する者がいる。
間違いがあれば、また止まる。
その間、商品は一歩も前へ進まない。
セラフィーナはまだ、費用がどれほどになるのか知らない。
グランデル全体で何種類の基準があるのかも知らない。
それぞれがどんな権利と結びついているのかも知らない。
だから、
この制度が国を貧しくしている。
などと決めることはできない。
しかし、少なくとも一つだけは分かった。
問題の候補は、袋の重さそのものではない。
違うものを違うまま扱うために、同じ確認を何度も繰り返していること。
セラフィーナは計量役へ尋ねた。
「こちらで量り直すには、どれくらい待ちますの?」
「今日はまだ早いから、あれで終わりです」
男が指した先には、荷車が五台ほど並んでいた。
「昼前になると、もう少し増えます」
「費用は?」
計量役が金額を答える。
驚くほど高くはない。
一回だけなら、商売を壊すような額でもない。
むしろ、それが興味深かった。
高すぎれば、とっくに誰かが変えようとしただろう。
安いから残る。
一回なら我慢できる。
だが同じ荷が三度、四度と境界を越えれば、そのたびに小さな時間と小さな金が積み上がる。
目立たない損失ほど長生きする。
セラフィーナの口元が、ごくわずかに緩んだ。
面白い。
その感情を、彼女は否定しなかった。
祖国を追われて数日。
グランデルで最初に見つけたのが、誰かの陰謀でも、腐敗した役人でも、悪徳商人でもないことが気に入った。
皆、自分の場所では正しい。
南の市場も正しい。
この市場も正しい。
農家が四十袋持ってきたというのも正しい。
商人が三十六と少しだと言うのも正しい。
そして全員が正しいまま、余計な手間だけが生まれている。
こういうものの方が、誰か一人を罰するよりずっと面白い。
「セラフィーナ様」
ノアンが呼ぶ。
「はい」
「先ほどの三つだけで、もう分かったのですか?」
セラフィーナは少し考えた。
「何が起きているかは、ある程度」
「三つしか聞いていません」
「三つも聞きましたわ」
ノアンが黙る。
セラフィーナは市場の計量台へ目を向けた。
「昨日、同じ印の袋は店が違っても同じ重さでした。なら、店ごとの不正である可能性は低い。今、その印を市場が正式に保証し、税にも使っていると分かりました。なら、地方ごとの制度である可能性が高い。そして別の地方へ行けば、また量り直す」
そこまで口にしてから、セラフィーナは歩き出した。
「今知りたいことには、それで十分ですわ」
「では、もう解決策も?」
「候補はいくつか」
ノアンがまた足を止めかけた。
セラフィーナは振り返らない。
まだ決めてはいない。
単位そのものを揃える方法。
換算表を配る方法。
証明書を共通化する方法。
元の単位を残したまま比較用の数字だけを添える方法。
どれにも利点があり、どれにもまだ見えていない不利益がある。
特に、地方の計量制度が税や市場権と結びついているなら、外国から来たばかりの自分が軽々しく統一を口にする価値はない。
知らないものを壊すのは簡単だった。
壊したあとで必要だったと知るのは、愚か者の仕事だ。
だから次に必要なのは、歴史を全部学ぶことではない。
今ある選択肢のうち、どれが最も安く試せるかを判定するための情報だけでよい。
市場を出る前、セラフィーナはもう一度、計量台の前を見た。
先ほど揉めていた男の荷は、ようやく確認が終わったらしい。
袋は一つも減っていない。
それでも帳簿の上では、四十という数字が別の数字へ書き換えられている。
ノアンがその様子を見ながら言った。
「同じ麦なのに、不思議ですね」
「いいえ」
セラフィーナは静かに答えた。
「麦は同じですわ」
そして、数字の違う二つの帳簿へ目を向ける。
「同じなのは麦だけです」
屋敷へ戻ると、セラフィーナは空白の多い帳簿を開いた。
昨日まで書かれていたのは、店と価格、袋の印、量った重さだけだった。
その下へ新しい欄を一つ作らせる。
まだ名称は付けない。
そこへ何を書くべきかも、正式には決めない。
ただ、地方ごとに異なる一袋を、同じ目で見られる数字が必要になる可能性は高かった。
一列あれば足りるかもしれない。
足りなければ増やせばいい。
役に立たなければ消せばいい。
その程度のものから始める方が、国中の単位を変えようとするより遥かに安い。
セラフィーナはペンを置いた。
レグリエをどうするかは、まだ書かれていない。
ノルディアをどうするかも。
アドリアンに何を失わせるかも。
けれど昨日まで数行しかなかったグランデルについての帳簿には、もう昨日より多くのことが書かれていた。
それで十分だった。
答えを急ぐ必要はない。
必要なのは、答えへ最短で届くことだけだ。




