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29 カルマ結晶回収

計画通り、8日目は月の神殿まで進み、召喚堂の回り30mを破壊し更地にした。これは召喚堂の回りをクリアーにし、召喚堂でカルマ結晶を回収する作業班の安全を確保するためにおこなった。

いよいよカルマ結晶の回収作業に入る。まず始めに、カルマ結晶を運び出すのに邪魔なため、召喚堂の屋根を撤去した。次にカルマ結晶を掘り起こす為の治具を組み立てた。


カルマ結晶が作る電磁波黒体の中、直径10m以内には生物、ロボットとドローンは近づくことができない。生物がカルマ結晶の電磁波黒体の中に入ると、しばらくは生きているが、突然死んでしまう。ロボットやドローン、電子、電気部品は動作が止まってしまう。

カルマ結晶が作る電磁波黒体が何なのか、人類同盟の知る物理学でも原理、メカニズムが解っていない。1万年ほど前、人類同盟では似非科学者(エセカガクシャ)によるカルマ結晶の研究が盛んに行われていた。その発端となったのが、2つのカルマ結晶間での超光速通信の発見であった。当時、似非科学者たちはカルマ結晶を「悟りの宝珠」とか「異世界の門」と呼び、幅広く研究していたが、花開いたのは超光速通信だけであった。


カルマ結晶の回収はクルミ二等兵の指揮の元、作業が進められた。治具は全長12mのハシゴ状で、中心に床の大理石を円形にくり抜くカッターが付いている。ハシゴの先端に付けられたモーターからシャフトと歯車で中央のカッターを動かす仕掛けであった。


私「クルミ、上手く行きそうかな」

クルミ「はい。マチネ少尉の設計は完璧です。1時間で半分の深さまでカットできました。後1時間で大理石の床を切断できます」

私「予定より早く終わりそうだな」

クルミ「はい。あの、サニーからエド少尉とキャンプしたと聞きました。私もご一緒したかったです」

私「基地に引き上げたら、3人で岩石台地にキャンプにいこうか」

クルミ「サニーはキャンプを十分楽しんだはずです。今度はエド少尉と2人きりで行きたいです」

私「そ、そうか」

クルミ「キャンプ、楽しみにしています」


床の大理石のカットが終わった。いよいよ、カットした大理石を取り除き、肉眼で確認する時が来た。私、マチネ少尉、サニー三等兵も見学している。治具で円形にカットした大理石を取り除くと、そこには青い光が見えた。肉眼では光っていることしか分からなかった。戦闘支援ヘッドセットの視覚倍率を3倍のマックスにすると青く輝く石が見えた。大きさは1mmほどだろうか。

クルミは上空のドローンの拡大映像を頼りに、治具のピンセットでカルマ結晶を摘まむと、保護容器に入れた。次に保護容器を頑丈な移動容器に入れる。更に移動容器と天井から吊るされた搬送用ロープをフックで結びつけた。後はドローンで筏に運ぶだけだ。


カルマ結晶の回収作業は半日以上早く終わった。マチネ少尉の提案で、予定を繰り上げ、本日中に筏に戻り、基地へ帰還することになった。私達はカルマ結晶を釣り下げたドローンを守るよう隊列を組み、筏に移動した。


筏は西門跡から200m南で、町から一番近い場所に停泊させていた。私達が筏に進んでいると、数十人の奴婢が逃げ出していった。奴婢たちは川で水を汲んでいる。筏を守るドローンには奴婢が筏に近づかなければ攻撃しないよう命令している。突然の帰還で奴婢たちを驚かせてしまったようだ。


私達はその日のうちにドローンを筏に乗せ、筏を再編し、上流の基地に向けて出発した。川を遡るので、動力が必要になる。先頭の筏に汎用B型ドローン2台を乗せ、ドローンに取り付けたスクリューで筏を進ませた。アロキア付近を通過する時刻を夜中になるよう、筏の進む速度を調整した。せっかくアロキアの避難してくれた難民をリンガハンに追い返すようなことはしたくない。


*    *


惑星上のエド少尉たちはカルマ結晶の取得に成功した。私、マチネクは作業AIと作業ドローンに3つの指示を下した。1つ目、超光速通信ステーションの作成を開始させた。超光速通信ステーションの筐体は作成に3年かかる。次の指示は軌道エレベータの軌道側を組み立てることだ。これには2年かかる。最後は軌道エレベータ用ワイヤーフックの作成と垂直削岩ロボット、削岩礫搬出システムの作成だ。これらは軌道エレベータの惑星側の設備や装置だが、地上では準備できないため、輸送船団の設備を集めて作成し、重力カーゴで惑星に送る。これには半年かかる。


さすが、私、マチネクの分体だけはある。マチネ少尉の行動は軍務としては完璧だ。しかし、私は不満だった。私がマチネ少尉に託したもう一つの願いは全く達成されていない。


私はマチネにエド少尉と適合する因子を可能な限り詰め込んだ。まづ、身体はQ103型慰安用女体を用意した。慰安用の身体では最高級品だ。身体の顔や背格好、肉付き、体形、体重、声、表情、仕草もエド少尉に適合するよう微調整してある。微調整の前提として、エド少尉はシスコンだ。彼の付き合った女性は姉の因子を多分に含んでいたことから、明らかである。マチネ少尉の容姿と性格は、エド少尉にとって100%の親和性を発揮するよう頑張ったつもりだ。それだけではない。分体のAIユニットは通常は4基なのだが、マチネのユニット数は32基へ拡張した。この拡張で大型巡洋艦の艦載AIと同等の知識、知能と知性をマチネに与えた。知性だけでなく運動機能も大幅に強化した。基本骨格を強化樹脂製からチタンカーバイト製に置換、エネルギーユニットも高密度、高出力型に置換した。

私の分体だから、大佐級なのだが、大佐だと、少尉であるエド少尉に手を出せない。軍のハラスメント規定に抵触する。そこで、マチネを少尉とした。同階級であれば、ハラスメント規定をクリアできる。全てのお膳立ては完璧だったはずだ。


マチネ少尉を地上に派遣して1年3カ月、膠着状態も限界にきていた。お互い競争相手に勝てない現状では共倒れになる。であれば、カルテルを結ぶしかあるまい。幸い。エド少尉は調査で留守である。基地にはマチネ少尉とクルミの2人だけだ。カルテルを結ぶ絶好の機会だ。


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