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第20話 ブルー

 王国西部、ウェス・デキャンタ高原。西部最大級の都市パラディーゾから二十キロほど離れた場所に私達は陣を構えた。

 それが三日前。


「……敵が来ないと、暇ね」


 天幕の下、木製のテーブルに私は座っていた。


 シルフィは情報収集のため王都に残しているため、ここには別のメイドと来ている。

 ここに来るまでの五日間と、来てからの三日間。一応はビジネスのアイディアをまとめたりしようとしたものの、グランドレスに乗って戦うことを考えると気が乗らない。


「巨大魔獣を倒したらまた馬車に乗って王都に戻るの、ゾッとしませんわね」


 赤髪縦ロールのミンがなぜか私の天幕に来て座っている。


「あんた自分の天幕に従者連れてきてるでしょ。なんでここにいるのよ」


「いいじゃありませんの。暇なんですもの。ライバル同士親睦を深めましょう。んー、いい香り」


 私のメイドがしずしずとミンに紅茶を淹れる。


 暇なのは私達だけで、今回のミラージュ討伐軍盟主である第二王子ジャンは製法の貴族たちと天幕にこもりずっと軍議を行っている。


「ガリア様も誘ったけど来てくれませんでしたのよ、残念」


「当たり前でしょ。ガリア王太子とジャン王子はどちらも王国の跡継ぎ。基本的に王都以外で一つ所に一緒にいることはないの」


「ああ、そういうことでしたのね。もっとも、ガリア様とわたくしは赤い糸でむすばれていますから、ちょっとやそっとの距離はなんの隔たりにもならないですわ」


「で、ミン・クロードナイト辺境泊令嬢がわざわざ私の天幕に来たのは格付け(マウンティング)の為かしら?」


「それもありますけど……ちょっと聞きたいことがあって」


 ミンは不意にしおらしく視線を落とした。


「ロボットに乗って巨大魔獣と戦うって……どんな気分?」


「はあ?」


 唐突かと思ったが、今はミラージュ討伐西方陣のただなか。そう突拍子のない質問というわけでもないか。


「えーっとそうだな……私はグランドレスに乗るのは今回で四度目。正直言って技術的にはかなりおぼつかない部分もあるし、私よりうまい人がいるんじゃないかって思いもずっとある。痛いし、怖いし、魔獣の咆哮を聞くだけで身がすくむ……でも、これは前にあんたも言ってたけど、私は自分で選んでここにいる。グランドレスに乗って戦うって決めた。そう決めた以上、どんな魔獣が来ようと、叩き潰す。伝説の魔獣? 何百年か前にドレスが勝てなかった? 関係ない。どんな敵相手でも、必ず勝つ。そのつもりでいる……お気に召して?」


「ほっ、ほっ、ほっ」


 鳥が鳴いたと思ったが、鳴いているのは目の前の辺境令嬢だった。


「おーっほっほっほ。礼を言うわアリアさん。わたくしとしたことが少々弱気になっていたようね」


「あっそう。ま、悩みがなくなったのならなにより」


「この紅茶おかわりしますわ。あと茶葉の産地を教えてくださる?」


 完全にお別れする空気だったのに、まだ居残るとは。やはりこの女一筋縄では行かない。


「ところでー、あなた来月の女侯爵のパーティー呼ばれまして? どんなドレス着て行かれます? それと、うちの領地で開発中の香水今日持ってきたんですけど、これって王都でも通用すると思います?」


 少なくとも、香水の趣味が合わないのは間違いない。



 事態が動き出したのはミンが自分の天幕に帰ってからさらに二時間後。登り切った太陽が少し傾き始めた頃だった。


 焦った顔の伝令が各天幕に声を掛け、主要な面々を本陣へ集める。

 広い豪勢な天幕の下、ジャンと地域の有力貴族が苦い顔で西部の地図に向かっていた。


「かんばしくない状況です」


 第二王子は切り出した。


「過去二例の巨大魔獣の発生に合わせ、我々は各地に物見やぐらを立てて魔獣が来ないか見張っていました。動きはなかったのですが、なさすぎる。この村です」


 剣ダコのできた手が陣営から五キロほどの小さな村を指した。


「三日間、この村でいっさいの人の出入りがなく、斥候の報告では昨日今日と農地、村内に人影が見られないとのことでした」


「それはつまり?」


 本来ならば女が口を開く場ではないかもしれないが、私の質問に異を唱える者は誰もいない。ジャンは真剣な顔でこちらを向く。


「今までと違うパターンの巨大魔獣かもしれない。……行ってもらえるだろうか」


「もちろん」


 それこそが、私がここにいる意味なのだ。


「グランドレス起動。アリア・サファリナ、エンゲージ!」


 視界が木々よりも高く、遠くの山稜とほぼ水平になる。

 動きを確認するように手を握った。

 先ほどミンに言ったように恐怖を感じる一方で、戦いに向かう高揚感もある。これが兵士たちの感覚なのだろうか。


 モニターにニーファの顔と美しい銀髪が映った。 


「よろしくお願いします」


「ねえニーア。一つお願いがあるのだけど」


「何でしょうか、アリアさん?」


「戦闘中に長々と敬語を使われると情報の伝達が遅いの。子爵の娘が伯爵令嬢に敬語を使わないわけには行かないっていうのは分かるんだけど、急ぎの時は敬語なしにしてくれない?」


『それ、は……分かりました。急ぎの指示は敬語無しでいかせてもらいます』


「ええよろしく、ニーファ」


『わたくしもそれで結構ですわー!!』


 突如としてモニターに二枚目の窓が開いた。さきほど私の天幕に来た赤髪縦ロール、ミン・クロードナイトその人だった。


 狩猟用の服を着て、なにやらレバーやスイッチ、吊り紐がゴテゴテと設置された狭い場所にいる。というかこれ、コックピットか。


『おーっほっほっ、これこそが辺境泊の財力と王家の権力の結晶。人造起動重鎧、ブルーですわ。これでもう、アリアさんにばかり大きな顔はさせませんわ』


 ミンがスイッチをひねり、吊り紐のいくつかを引いた。

 グランドレスの視界で、ミンの馬車が走り出したのが見える。その前と後ろにも荷台にごつごつした巨大な金属の箱を積んだ馬が走っている。


「起動合体! ゴー、ブルー!」


 ミンの馬車が、跳んだ。その瞬間、前後の箱が展開。ミンの乗る馬車のキャビン型コックピットと合体、青い人型ロボットに変形した。

 足下に重荷を降ろした馬が三匹。よく訓練されており、誰も指示を出していないのに天幕の方へ走っていった。


ご愛読ありがとうございます。


これからも本作をよろしくお願いします。


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