第21話 ツタカブリ①
『さあニーファ。わたくしにも指示をお出しなさい』
『は、はい。では二人とも十分に距離をとり、エンドポイントの村へ向かってくだ……向かって。道中兵士たちの物見やぐらや移動経路はモニターにデータを送っているので、踏みつぶさないように留意』
『「了解」』
伯爵令嬢二人に敬語を禁止される下級貴族というのも珍しい。
いや、それよりも。
「ミン、あなたそれ」
『格好いいでしょう。王家と我が辺境伯爵領が以前より共同開発していた優れものですわ』
「戦えるの?」
「もちのろん、ですわ」
ドシン、ガシンという地響きが周囲に響く。
グランドレスと、ブルーのものだ。
ミンの機体は私のよりも頭一つ小さく、シュッとしている。
「なんだかなあ、そういうのあったら絶対にガリア王太子が乗りたいって言うと思ってたのに」
『わたくしもそう思っていたんですけど、国王陛下がわたくしに乗るようにって。ガリア様は少々反発されたご様子でしたけど、陛下が何事か耳打ちしたら納得しましたわ』
耳打ち、何をだろう。あのガリアが一言二言で了承するとは思えないが。
『二人とも、私語はその辺りで。目標まで二十』
ニーファが言う。
背の高いグランの視界は農村をすでにとらえていた。
報告の通り、人影がない。
奇妙だった。
刈り取りが途中の小麦。農具を首につないだ牛が草をはむ。戸が開け放たれた納屋。
そのいずれにも、乱れた様子がない。
『寒気がするような光景ですわね』
ミンの意見に賛成だ。
『アリアさん……可能であればでいいんだけど、生存者がいないか……調べてもらえないでしょうか?』とニーファ。
「それはもちろんいいけど」
モニターの向こうで銀髪のニーファは視線を外し、わずかに言い淀んだ
『その村は……私の故郷なんです』
「へ?」
『あら、でもニーファさんはグリム子爵のお子さんでいらっしゃったと思うけれど?』
『養女なんです。この村で生まれ育って、幸いに文武の才能があったとみなされて取り立ててもらって』
この時代、貴族が養子を迎えることは珍しくない。庶民から取り立てられるとは、かなりの苦労もあっただろうが、今や王国騎士団の副団長だ。グリム子爵の判断は正しかったと言えよう。
『でも、無理はしないで。作戦が第一です』
「OK。じゃあそのつもりで動くね。ブルーは村の外で待機、私が先行して村に入る」
村の中も周囲と同様、一見するとのどかであった。
干しかけの洗濯物。出しっぱなしの屋台。
ふと、民家の窓越しに家の中で何か動いた気がした。
「生存者!?」
私が注視したことでグランドレスの視界が家の窓をズームする。
何もいない。
今度は家と家の間の狭い通路を何かが走り抜ける。
正面の家では窓に影が伸びたように見えたが、改めて見るとそこにはなにもない。
気のせい?
いや、確かに私の目は何かを捉えた。そして、戦場においては気の所為は徹底的に潰しておくに限る。
「ニーファ……あの家の屋根、開けても?」
『ええ、もちろん』
返答の直後、背中からハルバードを展開し、横になぎ払った。民家の屋根が吹き飛ぶ。屋根は隣の民家の壁に当たって地に落ちた。パラパラと木片が宙を舞う。
「これ、は……」
家の中には、緑のツタがうごめいていた。
リビングからトイレまでまるで血管のように隅々まで張り巡らされ、蛇溜まりの蛇の様にウゾウゾと休むことなく波打つ。
屋根を吹き飛ばしたことで陽光が降り注ぐと、ツタは敏感に反応し、伸ばした手を引っ込めるように消えていった。
地下に。
「ミン、来るな! この村そのものが、敵だ!!」
『へっ?』
ドドドドドッ!!
クヌギやシイの木の幹よりも太い巨大なツタが村の広場から、道路の土の中から、民家の屋根を突き破って、いくつも立ち上る。
数える暇こそあれ、ツタはグランドレスを打ち据えようと振り下ろされる。
とっさに横に避けた。
まだ次のツタが迫る。
『ツタは全部で七本。それと足下にもう一本。回避して!』
ニーファの指示に従い高く跳躍する。
そのまま家の屋根を踏みつけにしてターンすると、足下に伸びるツタをハルバードで両断した。
切り落とされたツタはうねうねとしていたが、すぐに黒ずんで動かなくなった。
今度は三本のツタが同時に迫る。
ギリギリで見切ってかわす。一本が機体の腕をかすめた。
自身の腕の軽いしびれとしてそれを認識する。
ツタはよく見るとボコボコとコブが隆起している。おぞましい。
再び足元に来た植物の腕を、今度は避けずにグランドレスの足で踏みつけにした。ハルバードで両断する。
『お見事。機体の損傷は?』
「なし。まだまだいける」
私はハルバードを構えた。なかなかにぶった切りでのある敵だこと。
『あ~~れ~~』
視界の端ではミンの乗るブルーが村の入り口でツタに足をつり上げられていた。
「カバーする」
『待ちなさい』
ニーファが私を制止した。
「グランドレスはその場でツタの切除。ブルーは武器を展開してツタを切り離して」
モニターの中でミンがレバーを引きつつ紐を引っ張ると、ブルーが逆さ吊りのまま両手首から細長い棒を取り出した。
二つの棒の尻の部分はねじになっていてブルーが胸の前でそれを合わせると、一本の槍になった。
『ヒートランス、オンですわ!』
ミンがそう叫ぶと、槍の穂先が赤熱化していく。槍を動かして足を拘束するツタを焼き切ると、ブルーはそのまま地面に落ちた。
『ぎゃんっ』
令嬢らしからぬ声をミンは発した。




