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今週分から毎週火曜日と金曜日の2回更新になります!
今回は少しだけ長めです。
R15で大丈夫なのかな…と…
いつの間にか年が明け、街中から正月飾りが姿を消していた。
正月三が日は“春の海”を多用していた各番組もいつもの通常編成に戻っている。
局内も年末年始の特別体制が終わり通常業務に戻ると、忙しかった反動なのかのんびりとした空気だ。
そのせいか、年末に久保に言われた事もすっかり忘れていたのだが、横川から飲みに行かないか?とメッセージが来て思い出した。
「久保さんにあの事を確かめないと…」
実はあの騒動以降、西條は年末年始の休みに入ったため局内で久保と顔を合わせることがなかった。
あの時は事故未遂のバタバタで冷静に考えることが出来なかったが、久保は横川の幼馴染だ。
西條のこれまでの横川への態度を見ていれば気付くのかもしれない…。
でも、「懐いている」と思うのが普通だとは思うが、久保は「好きだろ」と言ってきた。
しかもかなり確信を持っている感じで。
近づくのは危険だと思うが、理由を聞いて内容次第では口止めを頼まないといけない。
面倒くさい事になったと、思わず大きなため息を吐いてしまった…。
会社近くにある居酒屋で待ち合わせをすると横川はすでに来ていた。
この居酒屋は個室が大半を占めているためか少し単価は高いが、隣同士の声があまり聞こえない作りになっているのでよく打ち合わせでも利用している。
放送事故の話なんて外で大きな声で話せるものでもないのでこういう時はとても助かる。
「お疲れ様です、遅くなってしまってすみません」
そう言って横川の向かいに座った。
「局を出る時にメッセージ送ってくれたから飲み物は頼んでおいた。食べたいものは適当に頼んでくれていいぞ。俺はなんでも良いから」
何品か注文をした後に飲み物が運ばれてきたのでとりあえず乾杯することに。
「お疲れ様」
お互いグラスを軽くぶつけてから、とりあえず今日の疲れを流し込むようにビールを流し込んだ。
「で、どうだ?あれから復活したか?」
早速、横川が少し意地悪そうな顔をして話を振ってきた。
「先輩、いきなりその話題ですか…。まぁ、一応復活しましたよ。いつまでも引き摺ってるとまたミスしますから。年も明けましたしね」
ちょっと不貞腐れたような顔をして言うと横川は残念だという顔をした。
「なんだ、まだ引き摺ってたら優しく慰めてやろうと思ったのに」
「じゃあ、まだ引き摺ってるので優しく慰めてください」
即座に返すと横川は「頑張ったな〜」と笑いながら頭をクシャクシャっとしてきた。
「先輩、それセクハラですよ」
冗談っぽく返すと「人の好意をなんだと思って…」と言われ笑われたが、同時に心が軽くなった気がして嬉しかった。
こんな何気ないことでも嬉しくなる自分は単純だなと思いつつも、これが自分だけに向けられたらと思ってしまう心のモヤモヤがやっぱり好きなんだなって自覚させられる。
と同時に久保に言われたことを思い出した。
「だっておまえ、優斗のこと好きだろ」
久保に確かめなくてはと思いながらもせっかく横川と飲んでるのだから…と今は頭の片隅に追いやることにした。
それからは少しだけこの前の事故未遂の話をしたものの、ほとんどは大学の頃の話で盛り上がった。
お酒は好きだが、就職して1人暮らしをするようになってからは誰かと飲むことがなかったので久しぶりだった。
だからか気付いた時にはかなりの量を飲んでいた。
「…ここ、どこ?」
目が覚めて意識がぼんやりとしてる中、目に入ってきたのは見知らぬ部屋の天井だった。
どうやらベッドの上だというのは分かったが二日酔いで頭が痛く、まともに思考が働かない。
なんとか体を起こして辺りを見渡すが、やっぱり知らない部屋だ。
それに、カーテンの隙間から差し込む光がかなり明るいから長時間寝てたんだろう。
とりあえず部屋を出るとリビングらしき場所に出た。
ソファーの上に俺の鞄が置いてあるのに気付き、近付くとその横にメモが置いてあった。
『西條へ
昨日は泥酔してたのでうちに連れて来た。
出社しないといけないから何度か起こしたんだが、起きなかったからそのままにしておいた。
部屋のドアはオートロックだからそのまま帰って。
あと、冷蔵庫に飲み物が入ってるから自由に飲んでもらって構わない』
やっちゃった…。
確かに昨日は久しぶりに楽しいお酒で飲み過ぎた自覚はある。もう少し押さえておくべきだったと今頃反省しても遅いが、とりあえず謝罪メッセージだけでもしておこうと思いスマホを取り出した。
最近全然横川に会えない…そう思っていたら、どうやら新聞社や警察所など、局外にあるブースの機材メンテや会議など社外での用事が立て込んでいたそう。
直接会って謝りたかったのに思うようにいかない。そんな気持ちが出ていたのか思わず溜息が出た。
「何かあった?」
「なんでもないですよ」
どうやら西條の溜息は隣の今井が心配して声をかける程だったらしい。
こんな状態ではまた事故に繋がるミスをしかねない。
自分で両頬を軽く叩き気合いを入れ、打ち合わせに顔を出すべくスタジオへ向かった。
14時から始まる番組の打ち合わせに顔を出し、その際に来週の空いていたゲスト枠が埋まったことを伝えた。
急遽決まったゲストが営業物件だったため多少文句は言われたがそれはしょうがない。
ディレクターからしたら早めに原稿を上げて先方に確認してもらって修正箇所があれば修正してまた提出…と面倒だからだ。
その後は特に問題なく最後まで番組の立ち会いをした。
番組が終わって編成部に戻る途中で久保とすれ違った。この前の事…と思った時には久保の腕を掴んでいて、掴まれた本人はびっくりした顔をしていた。
「久保さん、ちょっと聞きたいことがあるんですけどこの後少し時間ありますか?」
「…いいけど?」
聞きたい気持ちが先走り、思わず久保に顔を近づけていた。
どうやら久保には心当たりが全くないといった感じだ。
「ちょっとここでは…」
「じゃあ…編集室にでも行くか。あそこなら誰にも聞かれない」
久保はそう言って先に歩き出したので慌てて後を追う。
久保がドアを開け、編集室に向かって顎を動かした。どうやら先に入れってことらしい。
編集室は1人で使用することを想定しているので広さは2畳ほどしかなく、そのうちの半分は機材が置かれている。
先に入ると後から入ってきた久保が防音扉のハンドルを回しロックをすると外の音が完全に遮断された。
男2人では狭く感じるが、外に音が漏れないため聞かれたくない話をするにはピッタリの場所だと改めて思った。
「さっき聞きたいことがあるって言ってたけど?わざわざこんな所で話すんだから仕事以外のことだよな。優斗のことか?」
久保は腕を組んでドアにもたれ掛かり、ニヤッと笑った。
なんか嫌な予感がする。久保と2人きりになるのは早まったかも…。
手をぎゅっと握りしめ、気合を入れるように久保を睨みつけた。
そうでもしないと何も聞かずに逃げ出してしまいそう。そんな空気が編集室に流れていた。
それに出口は久保に塞がれているのだから、話が終わるまでは出してもらえないだろう。
だったら早く聞きたいことを聞いて終わらせた方がいい。
この前のことをなぜ気付いたのか聞きたいのも事実だし。
「年末に俺に言ったこと覚えてますか?」
「年末…?」
久保は想定していた質問と違ったのか、ぽかんとした顔をしてしばらく考えていたが、どうやら思い当たったらしい。
「それがどうかしたか?俺は西條が優斗のことを好きなんじゃないかと思ったから言ってみたんだけど、こうやって問い詰めてくるってことはやっぱりそうか」
「鎌をかけたってことですか…」
「そんなつもりは無いけどな。見てればわかるし。それに、西條に優斗は無理だ」
「…それはどうしてですか?」
久保がなぜそう言うのか分からず心意を測ろうと思い口を開けかけた時…
「そもそもどうして優斗がいいんだ?まぁ、優斗の外側しか見ていないからだろうけど」
思わず睨んだ西條に対して言いたいことだけ言い、さらにニヤッと笑う久保を前に全身にゾワっとしたものを感じた。
話を蒸し返さず、スルーして忘れたことにしておけばよかったと後悔してももう遅い。
久保が距離を詰めて来るので後ずさったがすぐに壁にぶつかった。西條の目の前まで来ると耳元に顔を近づけて
「もう1度言うけどお前に優斗は無理だ。代わりに俺にしといたら?」
「え?」と思ったときには久保にキスをされていた。
唇に軽く触れるだけのキスだったが、あまりに一瞬で何をされたのか分からなかった。
しかし、唇に残っていている感触が確実にキスをされたのだといっている。
睨みつけ文句を言おうと口を開いたときだった。
それを待っていたと言わんばかりに、再度久保にキスをされた。
今度はさっきみたいな軽いものではない。
文句を言おうと口を開いていたため、簡単に久保の舌が入り込んできた。
舌が歯列をなぞり口中を貪られた後、舌を絡め取られて強く吸われた。
あまりにも激しく貪られ、飲み込めない唾液が口の端から垂れる。
「んっ…」
思わず漏れ出た自分の声にハッとして抵抗するが、久保に抱きしめられ、さらに頭の後ろに手を回されると逃げられない。
それでも体を捩って抵抗するが、体格差があるため簡単には離れてくれない。
しばらくして満足したのか久保の唇が離れていくのを焦点の合わない目でぼーっと見ていた。
「この続きがしたかったらいつでも誘って。嫌がってるフリをしても体は正直だからな」
久保に耳元で囁かれるのと同時に下半身を触られハッとした。
多分、ギュッと抱きしめられていたから気づいたのだろう。
久保は「ククッ」と笑いながら編集室を出て行った。
身体中の力が抜け、編集室の扉が閉まると同時に壁を背にズルズルと崩れ落ちた。
どれぐらいそこにいたのだろう。さっき起こったことを考えられるだけの落ち着きが戻ってきた。
でも、考えられるのと理解できるのとでは全く違う。なんであんな事されないといけないのか全く心当たりがない。
「…くそッ」
イライラして握りしめた拳を壁に叩きつけた。
編集室って黙々と作業するのにほんと向いてるんですけど、こんな使い方しませんよ…もちろん。
防音扉って普通のドアと違って知らない方は開閉に戸惑いますよね。