↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】ラジオの裏側で  作者: ユズ(『ラジ裏』修正版・順次更新中)
第3章:ラジオの裏側で ― 特番 ―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/41

11゜Happy Birthday!西條と横川ののどかな一日

7月22日。二人の誕生日でもないのに……?


西條と横川の誕生日SSです

タイトル通り、のどかな一日になりました

登録指示書を見ながら、階段を降りていく。


向かうのは先輩のところ……。

じゃなくて、マスタールームだ。


まぁ、そんなに違わないけど。



ガチャっと扉を開けて挨拶をすると、そのままマスタールームへ直行した。



「お疲れ様です。完パケ搬入に来ました」


聞き慣れた声が返ってこないことに首を傾げながらも、かまわず中へ入っていく。



いつもと変わらずオンエアが流れる中に、球場のノイズが混じってる。

あぁ、今日の野球中継の準備か。


奥で、電話の子機を耳に当てている先輩の姿が見えた。


完パケを棚にしまうと、邪魔しないよう、空いてる椅子に座って先輩を待った。



先輩の後ろ姿って、そういえばあんまり見ないな。

なんか、貴重だ。


テキパキと仕事をしてる姿も、やっぱりかっこいい。



「うん?西條、どうした?」


電話を切りながら振り返った先輩と目が合うが、俺の答えを聞く前に、ラックルームの方へ行ってしまう。


口を開きかけたけど、なんとなく『お預け』をくらったワンコのように、しょぼんと肩を落とした。


誕生日のことを相談しようと思ったんだけど……。


去年はちゃんとお祝いできなかったんだよ。

なのに、先輩は俺の誕生日をちゃんと祝ってくれて。

あの日は、ほんと嬉しかったな。


だから、今年こそは。


でも、また……なんだよな。




「そんな大きな溜息ついて、何かあったか?」


上から声が降ってきて顔を上げると、いつの間にか目の前に先輩が立っていた。


俺の方へ先輩の手が伸びてきて、頭でも触られるのかなって思ったら……。


電話の子機を置いただけだった。


なんか、ちょっと期待しちゃっただけに、また溜息が漏れた。



「まぁ、別に話さなくてもいいけど、ここで溜息つくな」


「え?あっ、ごめんなさい。何かあったわけではなくて……」



先輩が呆れたような顔をして椅子に座ると、こっちを見てきた。


どうやら、話は聞いてくれるらしい。



小さく息を吐くと、膝の上に置いていたスマホをギュッと握った。


「あの……。今年も先輩の誕生日は夜まで仕事で……」


「もう、そんな時期か。去年も似たようなこと言ってたな」


笑いながらそう言う先輩に、ぽかんとした顔をしてしまった。

思ってた反応と違いすぎて、拍子抜けしたというか、なんというか……。


「去年、言わなかったか?俺はそういうの気にしないって」


「覚えてます。でも、今年はどうしてもお祝いしたくて。結局、去年はちゃんとできなかったから」


もう、全部話しちゃった方が早いな。


先輩を見ると、なんか笑いを堪えてるんだけど。

……なんで?


まぁ、いいや。


「俺、プレゼントとか、何がいいか思いつかなくて。だから、先輩にご飯を作ってあげたいなって」



「……そうか」



いつもより少しだけ柔らかい声だったけど、それだけ言うと視線を逸らされた……。


自信がなくなって、膝の上のスマホに視線が落ちる。


でも、まだ話終わってないし。


とりあえず最後まで話すか。


「本当なら、俺が全部作りたいんですけど……。料理が得意かって言われると微妙なんで、先輩、一緒に作るのって、ありですか?」


短い沈黙が、すごく長く感じる。

やっぱりダメか……。

そう思った時。


向かいから、小さく息が漏れる音がして顔を上げると、先輩が柔らかく笑ってた。



「じゃあ、休みを合わせないとな」



お互い、スマホでスケジュールを見ていると、ふと視線を感じて顔を上げたら、先輩と目が合った。


「そういえば、西條の誕生日はどうしたいんだ?」


一ヶ月後だろ?と言われ、何も考えてなかったことに気づいた。


でも、俺が先輩にしてもらいたいこと?


「俺は、先輩と一緒に過ごせたら、それでいいですし……」


「……そうか」





先輩に考えておきますって言ったけど、結局、何も浮かばなかった。


じゃあ、お互いの誕生日の真ん中で休みを取って、一緒に祝ったらよくないか?っていう先輩の案で、7月22日に有給を取ることにした。


もう、ほんと楽しみで、カウントダウンアプリまで入れちゃったよ。


あとは、メニュー考えないとな。





「はぁ〜。結構、色々と買いましたね」


キッチンのテーブルに買ってきたものをドサっと置くと、とりあえずケーキだけは冷蔵庫に入れる。


外の暑さと荷物の多さでぐったりしてる俺とは違って、先輩はテキパキと買ってきたものを仕分けている。


俺なんて、もう握力死んでるのにな。

試しにグーパーしてみるけど、上手くできない。



昼前に先輩の家に来て、昼ごはんどうする?ってなったんだよね。


それで、外でよくない?ってなって、買い物する前に済ませた。


で、スーパーやパン屋、ケーキ屋と回ってたら、14時過ぎててびっくりしたよ。



目の前で「カラン」と涼しい音がして、思わず顔を上げた。


「はい。ちょっと休憩したいだろ」


出されたアイスコーヒーを勢いよく飲むと、さっきまでの暑さが一気にどこかへ行った。



このまままったりしそうだけど、今日はここからが本番だ。


先輩にこの後どういう順番で作るか相談しようと思ったら、もうちゃんと考えてあるって。


さすが先輩だな。


最初にとにかく野菜を切って切って切りまくるらしい。


そして、ミネストローネを煮込んでる間に、コブサラダとコロッケの下準備。最後にコロッケを揚げるって順番。


だって、揚げ物は揚げたてを食べたいだろ?って。


確かにってなったよ。




「さて、そろそろ始めるか?」


先輩が空になったグラスを片付けると、エプロンを貸してくれた。


なんか、先輩と並んで料理をする日が来るなんて。

ちょっとくすぐったい感じがする。


でも、こういう時間が……幸せなのかもな。


顔がニヤけるけど、両手で頬をパチンと叩くと、慌てて気を引き締めた。


だって、先輩と一緒に料理したいって言ったのはいいけど……。


俺、料理って、家庭科の調理実習以来だぞ。


まぁ、先輩もいるし、なんとかなるか。



「よし、先輩、始めましょう」




隣からはトントントンと、リズミカルな音が聞こえてくる。


その横で、俺はサラダ用の野菜をひたすら角切りにしているが……。


先輩が見本に切ってくれたものと見比べると、うん、まちまちだ。

まぁ、これも味ってことで。



「そういえば、今回はなんでこのメニューなんだ?」


野菜を切り続けてるのに、こっちを見て話しかける余裕のある先輩と違って、俺の手は止まってしまう。


「野菜をたくさん取りたいのと、コロッケはうちの味なんで、先輩にも食べてもらいたくて」


「……そうか」



時間がゆったりと流れるキッチンに、野菜を切る音だけが響く。



今日作るコロッケは、薄切りのベーコンと挽肉が入ってて、衣が薄くてサックサクなのがほんと好きだったんだよ。

だから、俺の誕生日には母親にねだって作ってもらってた。


その思い出の味を、先輩と一緒に作って食べるって。

俺にはこれ以上ない、最高なプレゼントだ。




だいぶ野菜を切るのにも慣れてきて、思わず鼻歌が漏れる。


隣からクスッと笑い声が聞こえたけど、楽しいんだからいいんだよ。





「え?先輩、トマトジュース使うんですか?飲むのかと思ってました」


野菜を半分ほど切った頃、先輩がミネストローネの鍋にトマトジュースを入れてるのを見て、またしても手が止まった。


「あぁ、これか。この方が旨味が凝縮して、美味しくなるんだよ」


そう言って鍋を火にかけると、今度はじゃがいもを手にしてた。


「コロッケ、とりあえずじゃがいもは粉吹き芋にして潰すんだよな?」


「え?あっ、そうです」


うちの作り方を伝えると「分かった」と一言、じゃがいもの皮剥きを始めた。


俺が野菜を切り終わる頃には、先輩はすでにじゃがいもを入れた鍋に水を入れていた。



チチチチチ……ボフッ


「ガスコンロの火が点く音って、なんとなく懐かしくなりません?」


「そうか?」


先輩には聞き慣れた音なのかもしれないけど、なんか、無性に母親を思い出した。


先輩に母親を思い出したなんて言ったら、怒るかな。


言わないけど。



「先輩、切り終わりました」


「じゃあ、それを盛り付けたら、あとはコロッケだけだな」



二人でサラダを盛り付けてるだけなのに、なんか、心地いい。


先輩もそう思ってくれてたらいいな。


そっと視線だけ先輩の方へ向けるけど、真剣な表情が見えただけだった。




ベーコン、挽肉、玉ねぎを塩胡椒で炒め終わった頃、じゃがいもが茹で上がった。


ペース配分が上手すぎて、さすが先輩ってなったよね。


先輩がじゃがいもを粉吹き芋にするところまでやって、それを俺が潰していく。

母親に書いてもらったメモには、『少しだけ形が残るぐらい』ってある。


なるほど。


「そろそろいいんじゃないか?」


「そうですね」


先輩が炒めた具材を鍋に入れると、俺が混ぜていく。


ここにきて、ようやく一緒に作ってる感じがしてきた。



「あつっ」


しゃもじで混ぜてたら、熱いじゃがいもが手に飛んできた。


反射的にしゃもじを手放して手を振るが、そんなんで冷えるわけもなく、慌てて水で冷やす。


「大丈夫か?ちゃんと冷やさないと」


「少し赤くなっただけなんで」


先輩が心配そうに覗き込むけど、うっすらと赤くなってるだけで、もう、ほとんどなんともない。



「じゃあ、今混ぜたこれを少しずつ手に取って……こんな形にして、できたらこっちのバットに置いてくれるか」


5秒ほどで、先輩の手の中でコロッケのタネがきれいな小判型になった。


思わず見惚れてると、先輩がもう一回やって見せてくれる。


え?熱くないの?


いとも簡単に作業する先輩を見てると、なんか俺もできるかもって思えてきた。


まだ熱の残る鍋から、しゃもじでタネを掬って手に乗せる。


「あつっ」


お手玉をするかのようにタネがポンポンと両手の間を行き来するのを見て、先輩が笑いを堪えてるのが分かった。


「いいですよ、声出して笑っても」


「いや、ごめん。なんか、昔の俺を思い出したな」


どうやら、先輩も料理を始めたばかりの頃は、今の俺みたいだったらしい。


なんだろう……。


なんか、胸の奥がキュッとした。



「先輩。なんか、不格好なのしかできないんですけど……」


バットを見ると、先輩が作ったものは形が揃っていて、綺麗に並んでる。


でも、反対側を見ると……。


大きさもバラバラ、形も不揃いで、なんかいまいち。


大きな溜息を吐きながら、がっくりと肩を落とした。


「別に店をやるわけじゃないんだから。西條が作ったってことが大事なんだよ」


「……先輩」


「ほら、熱いうちに全部やらないと」



静かなキッチンに、作業の音だけが響く。


少しでもきれいに……と思いながらやってると、自然と言葉数が少なくなる。


ようやく鍋が空になった時には、バットいっぱいにコロッケのタネが並んでいた。



「いよいよ、衣つけて揚げるんですよね?」


そう思ってたのに、先輩はバットにラップをかけて冷蔵庫にしまっている。

それを見て、思わず首を傾げてしまった。


「冷やして落ち着かせないと、衣をつけるときに崩れやすいんだよ」


なるほど。

料理って、いろんな手間がかかってるんだ。



「ちょっと休憩だな。コーヒーでも淹れるか?」


「だったら、もう、ケーキ食べちゃいません?」


先輩のきょとんとした顔、珍しすぎる。

って、俺、そんな変なこと言ったか?


「俺、お腹空いちゃって。それに、ご飯食べてお腹いっぱいの時に食べるより、今食べた方が美味しいですって」


「あはは。西條、おまえ、ほんとそういうところ、面白いよな」



先輩がコーヒーを淹れてる間に、ケーキの準備をする。

と言っても、ショートケーキを二つ買っただけだ。

箱から出して皿に乗せるだけなんだけど。


コーヒーの香ばしい匂いがキッチンに広がる。


さっきまでは炒めたベーコンと玉ねぎの匂いだったのに。


コトッと目の前にコーヒーが置かれた。



「先輩、誕生日おめでとうございます」



その瞬間、優しく笑った先輩を見て、なんかうるっとしてしまった。


だって、去年はちゃんと祝えなかった。


でも、今年はちゃんと一緒に過ごすことができた。


それだけで……心があったかくなる。



「西條も、誕生日おめでとう」


「……ありがとうございます」


だめだ、涙腺壊れたかも。

慌てて目を擦るけど……でも、やっぱり、嬉しい。



「ほら、ケーキ食べるぞ」


「はい」





「そろそろいいんじゃないか?」


先輩が冷蔵庫で冷やしたコロッケのタネを触って確かめてる。


あとは揚げるだけ。


ようやくここまできた。


「先輩、衣ってどうするんですか?」


「そうだな、コロッケだし、バッター液でいくか」


バッター液?


無意識に首を傾げてたらしい。

目の前で先輩が笑いを堪えてるのが見えた。


今日だけで、何回先輩に笑われてるんだろう。


俺も少しは料理できるようになろうかな。


そんなことを考えてる俺をよそに、先輩が小麦粉と卵、水を混ぜて、ドロっとした液体を作っていく。

どうやらこれがバッター液らしい。


なるほど。


で、その横にはパン粉が。

さすがにこれは分かる。


「西條はパン粉担当な。俺がバッター液をつけて、パン粉の上に置くから、こうやって上にパン粉をかけて、軽く手で押さえる。そうしたら、余分なパン粉を払って、そっちのバットに並べてくれるか」


先輩は説明しながら、片手でバッター液をつけて、もう片方でパン粉をつけていく。



「わかりました。頑張ります」



二人で分担してるからか、順調に作業が進んでいく。

さっきまではどれが俺の作ったコロッケのタネか一目で分かったのに、衣がつくとそんなに気にならなくなってた。



油の準備をしてる先輩の横で、洗い物をしていく。


さっきまで明るかったキッチンの窓が、いつの間にかオレンジ色に染まっている。


この頃になると、自然と役割分担もできるようになってきた。

作業の音だけが響くキッチンだけど、その静けさが心地いい。


「……そろそろかな」


隣を見ると、なんか長い箸の先を鍋の油に入れてじっと見ているんだけど……。


「うん、大丈夫だな」


ジュワッ。


ジュワッ。


コロッケを油に入れるたびに、大きな音がキッチンに響く。



先輩が時々コロッケを裏返すと、だんだんきれいなきつね色になる。


パチパチとコロッケが揚がる音って、なんかワクワクする。


さっきケーキを食べたのに、お腹が鳴った。



「音が変わってきたから、そろそろいいか」



箸でコロッケを油から上げてバットに置くと、すぐに次のコロッケを油に入れていく。



「きれいな色ですね。美味しそう」


「味見するか?こういうのは、作ってる人の特権だからな」


そう言って、揚げたばかりのコロッケを半分に割って、渡してくれた。


「あふっ。おいひいです!」


「確かに衣が薄くてサクサクだな。うん、美味しい。これが西條んちの味なんだな」





「西條、皿出してもらっていい?」


先輩がミネストローネを温め直してる間に、テーブルをセッティングしていく。


トースターからは、胡桃パンの香ばしい匂いがしてくる。




「全部、並んだな」


山盛りのベーコンポテトコロッケに色鮮やかなコブサラダ、野菜たっぷりのミネストローネ。

そして、先輩おすすめのパン屋で買った胡桃パン。


誕生日のご飯としては、普通なのかもしれないけど……。


でも、俺にとっては特別で、とってもあたたかいご飯。


それを、大好きな先輩と一緒に作って、一緒に食べる。


こんな誕生日の過ごし方も、いいなって思った。



「西條」




「「いただきます」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。