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ラジオの裏側で(完結済)  作者: ユズ
ラジオの裏側で
10/43

8゜

やっとイベントが終わったけど、落ち着いてはいられないみたいです…。

イベントが終わり3月が目前に迫ってきた局は改編、野球の開幕に向けて慌ただしくなる。

ここ最近、寝るためだけに家に帰る…というような状態だ。もちろん横川にも会えてない。


「あー、なんか息抜きしたい…」


「気持ちはわからなくも無いけど、とりあえず目の前の仕事片付けようね。外に発注していた素材のデータは全部届いた?」


横から今井の返事が聞こえてビックリしていると、「今日それを片付けておかないと、明日また残業することになるわよ」と言われ慌てて仕事に戻った。どうやら心の声が漏れていたらしい。


メーラーを確認すると素材発注先からメールが届いており、ファイル転送サービスのアドレスとパスワードが本文に記載されていた。


「データ、全部届いてました。これってどうしたらいいんですか?」


「それ、全部検聴して問題なかったらPON出しの共有フォルダ内に新たに年度と“JINGLE SW”って名前でフォルダを作って、その中に全部入れておいて。終わったらフォルダの場所と名前、使用開始日を制作、Pに一斉メールしておいて」


「この量全部か…了解です」


今は何も考えずに仕事しろってことだな…。ちょっとうんざりした顔をして返事をした。


西條が編成に配属になったのが10月の改編後からなので、改編作業や3月末から始まる野球編成がどういうものなのかいまいちよく分かってない。


ただ、西條の仕事で4月から大きく変わるのは土曜夜の番組のみなので多少は気が楽なはずなのだがPとAPが入れ替わり西條がメインとなる。

元々土曜の番組にもAPとして付いていて流れはわかるのだが、Pとなると責任も発生してくる。今井から、APとして付くが余程のことが無い限り口を出さないと言われているので今まで以上に気を引き締めないといけない。


あと、土曜の夜は試合終わりの時間で番組のスタート時間が変わってくるからその辺りのことを覚えないと…。


せめてもの救いは、横川のことを考える暇もないということだけ。


4月までもつのかな…俺の身体…



怒涛の3月が終わり改編を迎え、無事に番組が1周した。どの番組も小さな変更箇所などは出てきたものの、大きなものは無く局全体に安堵感が広がっていた。


スマートウォッチが震えてメッセージが来たことを教えてくれた。確認すると久保からだったので開いてみると


「今、優斗と飲んでるから来るか?1人で来る勇気がないなら瀬田連れて来い。局にいるはずだから」


行きたいと思ったが、あんな事があった後で平然と久保と横川の所に1人で行くなんて勇気はない。

瀬田には悪いが道連れにしよう。そう思いメッセージを送ると編成フロアにいるとのことだったので合流して向かうことに。


居酒屋に着くと瀬田は迷わず奥へ入って行った。


「お疲れ様です」


瀬田が久保の横に座ったので、西條は横川の隣に座ることに。ずっと顔を見ないといけない向かい側よりはマシだと自分に言い聞かせたが、かなり動きがぎこちなかった。


向かいでは久保が笑いを堪えているのが見え、むかついたので机の下の足を蹴ってやった。


「いたっ」


痛くなるほど蹴ってはいないから反射的に声が出たんだろう。

瀬田も何が起こったのかがわかったみたいで笑いを噛み殺していた。


「横川さん、急に合流してすみません」


「気にしなくていいよ、こいつの顔を見て飲むのは飽きてるから」


今起きたことがなかったかのように瀬田が横川に話しかけているが、ほんとそういう切り替え…というか機転の速さは流石だなと思う。


「ひどい言われようだな」


「事実だろ。しょっちゅう家にも泊まりに来るし。本当にどこが自分の家なんだか…実際のところ、どのぐらい自分の家に帰ってるんだ?」


横川は眉間に皺を寄せ久保を見た。


「月に…7日…ぐらい?」


久保が指を折って数えてるのを隣の瀬田が呆れた顔をして見ていた。


「え?」


思わず反応してしまったが、どうやらビックリしたのは西條だけだった。


「それ、家賃もったいなくないですか?」


「うーん、荷物とか置いておく所がいるから部屋はいるだろ」


「そういうもんですか…」


西條はやっぱり久保の事は理解できないと思った。



お酒が入ると気分もほぐれて、隣に横川がいても気にならなくなってきた。


そんな時、横川のスマホが鳴った。


「柏木部長からだ。ちょっと出てくる」


「この前のお詫びと思って今日呼んだんだけど、迷惑だったか?」


出ていく横川の背中をぼーっと見ていた西條は急に久保に話しかけられて「ふへ?」と変な声を出してしまった。


あの後帰り道で散々怒られたんだよ…って苦笑いしながら言う久保と、当たり前だと少し怒った顔をしている瀬田、どっちが年上なんだかって思うと可笑しくなってきて気付いたら笑っていた。


あいつのプライベートな事だから詳しくは話せないけど…と前置きして久保が話してくれた。


「あいつは昔あった事のせいで心の一部が欠けてるんだよ。仕事中は人当たりよくて優しく見えるけど、実はそうじゃない。でも、最近の優斗を見てると西條なら大丈夫なんじゃないかと思う。だから、あいつの事諦めないでやってくれ。」


少し辛そうな表情で話す久保は、本当に横川のことが心配でしょうがないんだという事が伝わってきた。


久保になんと返したらいいのか分からず、口を開きかけては閉じる…と言うことを繰り返してるうちに横川が戻ってきた。


「柏木部長なんだって?」


「いや、特に急ぎの用でも無かった。週末出張だから緊急時の電話対応お願いって」


「確かに明日でもいいのにな。きっと忘れるといけないから思い出した時にって思ったんだろ」


「だろうな」


そういえば…と急に思い出したのか、横川が話題を振ってきた。


「瀬田くん、最近また陸也に迷惑でもかけられた?さっき、この頃、俺への当たりが冷たいってボヤいてたから…何かあったら…」


瀬田が目の前でそれ以上ダメとでも言うように左右に首を振ってる。


「あっ…」


横川が一瞬、マズった…というような顔をしたが、西條には何のことだかさっぱり分からなかった。

ぽかーんとして横川を見ても、もういつもと変わらなかったのでますます訳がわからなくなった。


何気なくスマホを見た瀬田が22時を回っているのに気付き、慌てて残っていたビールを飲み干した。


「すみません、今日中にまだ書かないといけない原稿があるのでそろそろ失礼します」


「じゃあ俺もそろそろ帰るか」


久保もそう言って帰る準備を始めたので、今日はこれで解散する流れに。


横川がまとめて会計している時に久保が近寄ってきた。


「ちゃんと優斗と話をしろよ。そのために瀬田はありもしない原稿の話をして切り上げたんだからな」


と西條にしか聞こえないぐらいの声でそう言った。


え?っと思い瀬田を見ると、目が合い笑って頷いてくれた。



「優斗と西條は途中まで方向一緒だろ?俺と瀬田は反対方向だから」


そう言って久保と瀬田は「お疲れ様」と言ってもう歩き出していた。


それを見て横川は「お疲れ様」と言って1人で帰りかけたので慌てて呼び止めた。


「先輩、お願いですからもう一度だけ話をさせてください」


横川は立ち止まってくれたが、その背中は拒絶してるようだった。


「先輩、お願いですから…」


再度のお願いは泣きそうな声だった。


「分かった」


それだけ言って歩き出した横川の後を黙って着いて行った。

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