16話・サクラが消えた?!
そして例の日が来た。その日はノルベールがソワソワしていた。これは一度だけと陛下からもぎ取ってきたチャンスで、これを逃すとフィルマンはサクラに会えなくなる。
向こうの世界で彼女への問いかけが始まった時点でノルベールは異世界召喚の術を展開させることになっていた。彼女の手元のゲームには、
『ペアーフィールドにご案内します。
▽行く?
▽行かない?』
と、表示が現れ、「行く」を選択してくれたなら、すぐに彼女を召喚出来るようになっていた。私もノルもフィルマンも彼女の訪れを待っていた。
「成功だ──! 異世界召喚は成功した」
喜べユノと、喜び勇んで帰ってきたノルベールだったのに、翌日には暗い顔をしていた。
「サクラが消えた……」
彼の背を撫でて慰め、詳しい事を聞くと、フィルマンの前に「サクラ」は現れたがどうも偽者だったらしい。異世界召喚は成功したはずなのに、どうして偽者が現れたのか意味が分からない。と、ノルベールは頭を抱えていた。
「あいつの望む唯一を……、あいつがこれでやっと幸せになれると……。くそぉ」
私もがっかりした。これで漫画のストーリー通りに彼女がこちらの世界へやって来て、相思相愛のフィルマンと会えば──と、思っていたのに、現実はそう甘くないってこと?
それともやっぱり私がちゃんと、自分がするべく役割を果たしてないからなの? と、思いたくなる。
でも、ちょっと待って。なぜ、偽者が現れたの? ノルベール達は、異世界召喚は公には出来ないから密かに勧めたはずなのに?
誰かが計画のことを、盗み聞きしない限り分からないはずよね?
「ノル。陛下はこの話をご存じだけど、王妃さまには?」
「王妃は知らないはずだ。陛下も話してないからな」
フィルマンと交流のある私達は、棚ぼた式に王位についた陛下をあまり良く思って無い。それでも陛下は王宮魔術師の仕事には興味がないらしく「良きにはからえ」と、ノルベールに丸投げで口出しもしてこない。そのおかげでノルベールは、好き勝手に魔道具を開発出来ているので、その辺りは大変有り難い存在かも知れなかった。
その結果、テレビ電話もどきの魔道具鏡や、水道、電気、水洗トイレなどだ。前世の記憶がある私から見れば、向こうの世界の便利なものが丸パクりだけど、ノルベールの話では、魔石で何でも出来てしまうらしい。
その魔道具の一番の愛好者が陛下なので、ノルベールのやりたがることを邪魔はしたくないらしい。
逆にノルベールのことを胡散臭く思っているのが王妃さまで、何やかんやといちゃもんを付けてきて、ノルベールは煩いと言っていた。
「どうして? お二人は仲が良いと思ったけど?」
ここだけの話な。と、ノルベールは前置きして話した。
「人前では仲の良さそうな振りをしているだけだよ。二人はそれぞれの思惑で結びついただけだからな。王妃は何が何でも王妃になりたくて、陛下は王座に就くために王妃の実家の後ろ盾が欲しかった」
「嘘。知らなかった」
公式行事や、夜会などでは両陛下は仲の良さを皆の前で見せ付けていたし、15年前のフィルマンの婚約解消事件は、後に弟王子が許婚と相思相愛なのを見抜き、自ら身を引いたとまで噂されるぐらいになっていたというのに?
それが演技なの? 本当に?




