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55話・払い落とされた花束


 朝食の時間まで時間があったので、庭に出るとゲッカが来ていた。


「おはよう、ゲッカ。久しぶりね。お身内の方に不幸があって実家に帰っていたと聞いたけど?」


「そうなんだよ。妹が亡くなってね」


「妹さんが? 何歳だったの?」


「16歳だよ」


「まあ、まだ若いのに。病気だったの?」


「突然死さ。食いしん坊だったから、毒を含む植物とは気が付かずに食べてね」


「そうだったの」



 実妹を亡くしたと言うのに、悲壮な感じは見受けられなかった。どこか他人事のように話す彼に違和感を覚えた。



「人間さ、いつコロリと逝くものか分からないものだね。昨日まで元気だった者が、何かの拍子で亡くなってしまう」


「そうね」


「この時間に庭に出てくるなんてどうしたの? 用があった?」


「うん? 早く支度が済んでしまって時間が余ったから、外に出ただけよ」


「そうか。じゃあ、この花をあげるよ。寝室にでも飾って」



 ゲッカが差し出して来たのは、レースの白いリボンの付いた小さな花束だった。何本かまとめた青紫色の花に、水玉のような水色の小さな花が添えられている。陽気な彼にしては、暗い配色で意外なものを感じたが、見た目には悪くない。



「いいの? 綺麗な花束。誰かに贈る予定でもあったんじゃないの?」


「いいや。手持ち無沙汰に作ってみただけだから。気に入らないなら捨ててよ」


「これあなたが作ったの? そんな捨てるだなんて勿体ない。頂くわ」


「気に入ってくれて良かったよ」



 そう言うゲッカの顔に、陰りが見えた気がした時だった。その時、横から手を払われた。花束が地面に落ちる。



「ミュゲ!」


「ベネベッタさま」



 急に何をするのかと批難しようとしたら、ベネベッタ王太后陛下は、荒い息を吐いていた。その後をアージアが、ぜーぜー言いながら追ってきた。



「あら、ごめんなさい。蜂がその花に付いていたような気がしたものだから。払い落としてしまったわ」


「こちらの御方は?」


「ベネベッタさまよ。ヴィオラ夫人のご友人で、しばらくこちらに滞在されることになったの。ごめんなさい。花束を落としてしまって……」



 突然、二人の間に割り込む形となった王太后陛下の登場に、ゲッカは面食らったようだ。

ベネベッタ王太后陛下の素性は、防衛上明かさないことが決まった。顎髭護衛の強い勧めがあったせいだ。突然の来訪に加え、ヴィオラ夫人がベネベッタ王太后陛下相手に遠慮のない物言いをするせいもあり、屋敷の皆は気心知れた関係なのだろうと、相手の素性を疑う事無く、受け入れていた。


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