第四十九話『記憶の返還①』
今日は五話連続投稿ということで、次は2時に投稿します。
「――よいしょ、よいしょ」
幼い少女は、その手に井戸水の入った木製のバケツを持って、家に戻ろうとしている。
その黒の髪を揺らして、精一杯の力でバケツを持ち、歩いている少女の姿を見ているのは、少女の父親だった。
「手伝おうか? ユリア」
「大……丈夫!」
少女――ユリアは、元気そうに言った。実際に、後少しなのだ。井戸から家の裏口まで、後少し。頑張ってと、自分を鼓舞して、ユリアは歩く。
そして、遂に家の裏口につくと、父親にバケツを持たれた。「無理はするな」と言って頭をポンポンと撫でてきたので、ユリアは父親に反抗する。
「持てるもん!」
そう言って父親からバケツを奪おうとしても、彼はバケツを持ち上げてしまった。背の高さの問題で奪えない。すると、ユリアは頬を膨らませて父親を睨む。彼は困ったような顔をして、母親に助けを求めた。
「アナ、ユリアを休憩させてくれ」
父親がそう言うと、窓の所に顔が出てくる。母親のアナだった。
「はいはい。ユリア? 昼食の時間だよ〜」
母親がそう言うと、ユリヤは途端に父親を睨むのを止めた。その顔に笑顔を浮かべて、ユリヤは扉を開けて家の中に戻る。すると、香ばしい匂いがユリヤの鼻の中に入ってきた。
ユリアが椅子に座って机の上に乗っている料理を見ると、彼女の好物であるミートパイがそこにあった。目をキラキラとさせて、ユリアはスプーンを手に取る。
ミートパイを食べようとした時、母親親が話しかけてきた。
「まだ食べちゃ駄目よ? パパが井戸水を持ってくるまで待って」
「……はーい」
ユリアは沈んだ声を出した後に、足をブラブラとさせて、父親が井戸水を持ってくるまで待つ。
「よっ……と。待たせたな、じゃあコップに水を汲め」
「私、今はお水いらない」
「そう言うなよ。疲れたろ? 水分補給は大事だって、誰かが言ってたし、な?」
「……分かった」
ユリアは父親に従って、テーブルに置いてあったコップを持って、父親が持ってきたバケツから水を汲むと、再び机に座った。
すると、母親は言う。
「もう食べていいわよ」
それを聞くと、ユリアは万編の笑みを浮かべた。
「うん!」
机にあるスプーンを手にとって、ユリアはミートパイを口にする。口の中にソースの味と肉の食感、その他様々な味が広がっていく。それを堪能していると、ユリアの耳に父親と母親との会話が聞こえる。
「ロクターンの街に来てから、随分生活が楽になったよな、アナ」
「そうね、ロクターン公がエルフの知識を得たお陰で、私たちはこんなに楽な生活を送れる。この時代に生まれてきて良かったわ、私」
「そりゃあ、俺も同じだ。所でよ、あの噂を知ってるか?」
「あの噂って、なに?」
「この街でも一部の奴しか知らないらしいんだけどよ」
その後の父が話した内容は、まだ六歳のユリアには理解できなかった。
「ロクターン公の住んでいる家の近くに、どでかい研究施設があるらしいんだ」
「えぇ? なにそれ、私そんなの見たことないんだけど」
「あるんだよ、実際に。ロクターン公の家の近くにな。俺は見たんだよ」
「ふーん。私も買い物帰りに見に行こうかしら」
そこで、二人の会話は途切れた。
よく分からなかったものの、一つ分かるのは、ロクターン公の家の近くには、凄い所があるということ。ユリアの好奇心は、その研究施設とやらに向けられる。
「研究施設……ロクターン公……」
そんな事を呟いた後に、ユリアはミートパイを食べ進めた。
――ミートパイを食べ終えたユリアは、母親に言う。
「遊びに行ってもいい?」
「ええ、いいわよ。けど、暗くなる前に帰ってきてね?」
「はーい」
ザザ……。
頭の中に、ノイズが走る。
「……お父さん、お母さん」
この光景を見ていたユリアは、再び目を閉じた。
★★★
目を開けると、先程までの景色は無く、代わりに暗闇が目の前に広がっていた。
「……ここは」
ユリアがそう呟いた途端、何者かの気配を感じて、ユリアは正面を見た。そこにはあの青年がいて、真っ直ぐにユリアの事を見つめている。
青年は、口を開いた。
「――いや、今まで記憶を受け取る側だったから分からなかったけど、実際に記憶を渡すのってこんな感じなんだな」
「あの、あなたは誰? なんでここにいるの? なんで、私の記憶を持ってるの?」
青年は頭を掻いた後、自分の名前を言う。
「俺は早川修也。お前は?」
「私は、ユリア。名前だけしか覚えてない」
「……そっか。俺はお前の記憶の一部を持ってるからな。今のお前の状況には同情するよ」
「い、いきなり言われても、こちらとしては返答に困るというか……」
「それもそっか。ごめんな、こっちはお前の人生の軌跡を一方的に知ってるだけだし……これからの時間で、少しずつお互いを知っていこうか」
「え?」
「だって、俺はまだお前の記憶を持ってるし、この空間に来るのも、一度や二度じゃないし……」
「あ、ああ。そういうこと。ごめんなさい」
変な間が空いた後、シュウヤが再び話しかけてきた。
「この際だから聞くけどさ。ユリア、お前なんで世界を滅ぼそうとか思ったの?」
「200年前の事? あの時はまあ、記憶を奪われたばかりで錯乱してたし、つい衝動的に……」
「衝動的って……なんか凄いな。そこまで錯乱することなんてあるか? 普通にこえぇよ、お前のその考え。怒ったら手がつけられなくなるんじゃないか?」
「否定できない……まあそれはいいので、さっさと次に進みましょうか」
「まあ、そうだな。次の記憶は……ちょっと場面が飛んで、ユリアが初代ロクターン公に捕まった時の所だな」
すると、水面から浮かび上がるような浮遊感がユリアを襲う。
シュウヤの姿がだんだんと離れていき――やがて、見えなくなった。
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