第四十七話『不老不死の二人』
――ユリアは、前と同じ展開の戦いに飽き飽きしていた。
自分の意志で操作している髪の毛を、この世で最も嫌いな男に――カミュ=ロクターンに放って殺そうとしても、彼の魔法の技術のせいで上手く行かない。
別に思い通りの展開にならないから苛ついているわけではない。今では力のほとんどを取り戻しているが、記憶は別だ。五つに分けられた記憶の内、二つしか取り戻していないので、目の前のカミュが持っている記憶を返してもらいたいのだ。
「ねぇ! いい加減諦めてよ! 往生際悪いよ!」
「淑女の言う言葉じゃないな! 精神年齢が低いから、そういう言葉が出てくるのかな!!」
「なにを〜バーカ! バーカバーカ!」
「煽りのレベルが低いね、君は!」
言い争いをしながら、ユリアとカミュは戦いを続けていた。飛んでくる魔法を髪の毛を用いた斬撃で弾き、壊し、切断している。
周りの城の壁がだんだんと剥がれ、砕けていく。月明かりが壁に入ったヒビから漏れ出て、幻想的な光景が作り出されていた。
こちらの主観なのでよく分からないが、多分幻想的なのだろう。
風の魔法がこちらに放たれる。見えない刃が向かってくるが、髪の毛を振るい、あっさりと消し去った後に、ユリアは髪の毛でカミュを攻撃した。
だが、結界であっさりと弾かれる。前の経験から、この結界が固くないのはとっくに分かっていた。カミュの使っている結界は、硬いから砕けないのではなく、外部からの衝撃を弾くのだ。
あれは、探索者の《魔力物質化》すら弾く強力な反発力がある。故に厄介であり、全盛期でも破れなかった脅威である。
髪の毛を操ることによる疲れは一切感じないが、その代わりに苛立ちが募っていく。前の自分は、苛立ちに身を任せて突撃したから袋叩きにされたのだ。記憶を消された後の記憶は持っているので、鮮明に覚えていた。
だから、苛立ちながらも決して冷静さは失わない。戦闘経験は数えるほどしかないが、ユリアにはそんな芯が備わっている。
「…………」
一つ、気になることがあった。
それは、先程から視界の端にチラチラ映る六人の人たち。立ち振る舞いと、彼らから感じる気配からしてモンスターではない。紛れもない人間である。
彼らはここに一体なにをしに来たのだろうか。カミュの使用人がモンスターだったことを考えると、彼らの目的は迷宮攻略か? いや違う。なら、なぜ最初に彼らは机の前の椅子に座っていたのだろう。何かしらの交渉があったと考えるのが妥当ではないか。
「……もう」
ユリアは、カミュの猛攻で思考を中止せざるを得なくなった。火の魔法、風の魔法、水の魔法、氷の魔法、土の魔法、操る魔法の種類が多いカミュは、その選択肢の多さが厄介だ。
宙に浮いているため、地盤を崩すなどの土の魔法は使えないし、拘束魔法も、ユリアには通じない。逆にユリアの洗脳の異能もカミュには通じない。
お互いに弱点がなく、それ故に戦いが長引くのだ。二人の戦いは。どちらか一方が多対一の戦法をとれば、この均衡はあっさり崩れ去る。
前のカミュは、多対一の戦法を用いた為に戦いに勝利し、自分の力のほとんどを奪った。それはいい。自分も錯乱して、世界を滅ぼそうなんて馬鹿な事をしようとしていた。
家族に会いたい。全ての記憶を取り戻せば家族に会える。それはきっと素晴らしいことで、幸せなことで、喜ばしい事なんだと思う。
会いたくて、会いたくて、仕方ない。父親はどういう人なのだろうか。やはり自分と同じような白髪で、それでいて自分と同じく可愛らしそうな見た目をしているのか。
母親はどういう人なのだろうか。優しくて、面白くて、綺麗な人というのが理想像だ。会うことができたら抱きつきたい。仲良くしたい。再開を喜び合いたい。
「……ふふっ」
カミュとの凄まじい攻防の中で、ユリアは笑った。
ユリアの表情を見て、カミュは化け物でも見るような目でこちらを凝視している。
「――油断したね」
なぜかユリアの声がこの部屋に響き渡った瞬間――カミュの左腕が、切断されたた。
「杖を用いない魔法使いって、要は想像力と記憶力が優れているって事だけど、言い換えれば、杖を用いた魔法使いは杖の先に魔法陣を展開して、杖を用いない魔法使いは、掌に魔法陣を展開することが多いわけじゃない? だから、腕を切断すれば、あなたはもう、二個同時に魔法を使えない」
そう言った後、ユリアはカミュに髪の毛を振るった。カミュに避ける術は無い。彼は今、腕を切断された事に動揺しているはずで……。
「そんなことはないさ」
すると、カミュは再生した左腕の掌から魔法陣を展開して、ユリアの攻撃を弾いた。
「え?」
ユリアは、それを見て困惑した。たった今斬り飛ばしたはずの左腕が再生している。前に戦った時にはそんなものは見られなかったのに。
「君さぁ、疑問に思わなかったのかい? なんで200年前と同じ姿を保っているのか」
「…………え? 200年前?」
「ああ、君は知らなかったんだっけ。教えてあげよう。君があのクリスタルに封印されて、かつての僕の城の地下に閉じ込めてから、もう200年が経過してるんだ」
「そ、そんなわけない! おかしいじゃない、それじゃあなんでカミュが生きてるのかが分からないし!」
「それは、僕が不老不死だからさ。昔、ロクターン公国に伝説のエルフがやってきてね。当時の、まだ国じゃなくて街だった頃のロクターン公が困っていたエルフを助けたんだ。その時のお礼として、当時子供だった僕に不死の理を授けてくれた」
「不死って、そんなの……」
「覚えていないのかい? 君も不老不死なんだよ。だから君の力を五つに分けて封印せざるを得なかった。殺すことができなかったんだ」
「…………」
ユリアの動きが、止まった。
今のカミュの話が真実なら、ユリアは不死ということになるが、そもそもそんな事を自覚できるような出来事はなかった。自分はいつ不死になったのか?
いや、待て。
不死だと言った。だからユリアとカミュは200年経っても生きていると、そう言った。
待て、待て。
じゃあ、お父さんとお母さんは? 家族は……。
「カミュ、お父さんとお母さんは? どこにいるの?」
「さぁ、どこだろうな。ユリア、君は死後の世界という物を信じるかい?」
「……………」
思考が停止した。
次の瞬間、
「嘘、うそうそウソ、うそだ!」
そう叫んだ後に、ユリアは髪の毛をカミュに振るった。
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