表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅人剣士の異世界冒険記   作者: うみの ふかひれ
第二章 魔法の国ロクターン
64/100

第二十五話『カーナの迷宮①』

 次の日の朝、修也はカールの迷宮がある門に来ていた。そこにはすでにヘリヤとリリーがいて、今は二人と話している所だ。


 ヘリヤを中心に話題が広がっていく。


「私は、今まで起きる時間が決まっていて、農業に勤しんでいたな。幼少期は剣の修行なんて、できはしなかった」


「へぇ、ヘリヤさんって農家の家庭に生まれたんですね」


 修也は感心したような声を上げる。ヘリヤは自分の事を騎士と自称していたので、てっきり騎士の家庭に生まれたものだと思っていたのだ。


 それはリリーも同じようで、修也と同じように驚いている。そのままリリーはヘリヤに質問した。


「じゃあ、なんでノトス帝国の騎士になったの?」


「強くなりたかったから、ですね。昔、私の住んでいた村に山賊共が来まして、両親が私を庇って山賊に殺された時に、そう思いました」

 

 ヘリヤからそれを聞くと、リリーは表情に陰りができる。心なしか、申し訳なさそうだった。公女なのに驚きだ。もっとも、姫様が優しい心を持っていないというのは、修也の勝手な思い込みなのかもしれないが。


 リリーが黙ってしまったので、今度は修也がヘリヤに話しかける。


「でも、そんな過去があったからこそ、こうして強くなって僕らにであったんですから、決して悪いことばかりではないと思いますよ、僕は」


「……そうだな。私も、そう思うよ。修也と決闘することも、あの出来事がなければ、なかっただろうからな」

  

 すると、リリーが二人の会話に入ってきた。

 

「前から気になってたけど、二人ってそもそもどういう関係なの? 恋人とか? それとも師弟? 決闘したとか言うし」


 その質問には、修也が答える。


「僕とヘリヤさんが初めて出会ったのは、アカゲラの村っていう所にある迷宮の中なんですよ。一人で迷宮の中を探索してたら、次の層に行くための階段前でヘリヤが、僕に決闘を挑んできたんです」


「階段前で決闘!? ヘリヤってそんな事をしたの!?」


 リリーがそう言うと、ヘリヤは笑いながら言った。


「朝なのに大きな声を出せるとは、元気が良いですね、リリー様。シュウヤの言った通り、私はシュウヤに決闘を挑みました。お互いに一撃食らったら負け、というルールでね」


 ヘリヤはそう言って修也を見る。笑顔でこちらを見てきたのと、朝なので油断していたのが災いして、修也はその顔に思わず目惚れてしまった。


 頭を振り、修也はヘリヤに言葉を返す。


「あの時は焦ったな〜。なんせヘリヤさんに手加減して貰ったとはいえ、何度も負けそうになりましたからね」


「私が手加減していた事に気づいていたのか?」 


 ヘリヤは、驚いたような声を上げる。それを聞いた後、修也はヘリヤの顔を見て無言で頷いた。修也は言葉を紡ぐ。  


「だって、明らかに僕が勝てる相手じゃありませんでしたし、僕が勝った後にもアドバイスまでしてくださって……」


「ははっ、それでどうだ。私のアドバイスは役にたったか、シュウヤ」


「はい、それはもう。多少は改善されたと思いますよ、僕の構えは」


「それは良かった」


 ヘリヤと修也どの会話を聞いたリリーは、一言呟く。


「いいなぁ……」


 その言葉を聞いた修也は、リリーに質問する。


「何がですか? リリー様」


「……二人とも、気安く話してるじゃない。私とは違って」


「そりゃあ、僕らとリリー様じゃあ身分が違いますからね。気安くなんて話せないですよ。なんつーか、恐れ多いです」


「何それ、身分差なんて気にしなくても良いのに……二人して共通の話題まで作って、私を仲間外れにしてぇ」


 リリーはそう言って、地面をつま先で突き始めたその所作から、いじけているのだと判断した修也は、どうにかリリーの機嫌を治そうとする。


 二人が黙っていると、ヘリヤが口を開いた。


「ではリリー様、今から私たちは『リリー様』ではなく、『リリーさん』と呼びます――それでいいな? シュウヤ」


「そこで会話俺に振ります? まあ、いいんじゃないですかね」


「二人共……」


 ほんの僅かな変化に、リリーは驚いているようだった。それを見て、修也はリリーに言う。


「では改めて……リリーさん。これからもよろしくお願いします」


「よろしくお願いします、リリーさん」


「よ、よろしく、シュウヤ、ヘリヤ」


 三人がそういった途端――向う側から声が聞こえた。


「お、もう集まってるのか。おーい! 昨日ぶりだなァお前ら!」


 そんなテラルの声が聞こえて、三人はその方向を向いた。見ると、そこには昨日の四人が横に並んで歩いていて、それぞれが迷宮探索の準備をしている。


 やがてこちらの目の前にたどり着いた四人の中の一人、エンジュは修也たちに言う。


「じゃあ、行きましょうか。カーナの迷宮に」


 その場にいる七人は、無言で頷いた後にロクターン公国を出た。


 ★★★


 七人が道を歩いていると、リリーは六人に向かって言った。


「みんな、今からカーナの迷宮に行くわけだけど、カーナの迷宮がどんな所だか分かってる?」


 七人の間に、静寂が訪れる。それを見たリリーはため息をついた後に言う。


「全く、迷宮がどんな所だか知らずに、行き当たりばったりで挑もうとするなんて、正気を疑うわ。今から説明するから、歩きながら聞きなさい」


 その後、リリーはカーナの迷宮についての説明を始める。


「カーナの迷宮は、この先にある谷の事を言うわ。別名、風の谷。カーナの迷宮には常に強い風が吹いていて、迷宮に挑もうとする探索者の足枷となる……らしいんだけど、行ってみないと分からないわね」


 それを聞いて、修也は首を傾げた。この國に来る前に立ち寄った村で聞いた話と違う。ロクターンの五大迷宮は、全て遺跡のような所ではなかったのか。


 あの村人が嘘をついているのか、はたまたリリーの知識が間違っているのか。そんなことを考えていると、リリーは再び話し始める。


「要は、一本道を歩くだけなのよ。奥には魔の力があるとかいう噂があるんだけど……」


 そこでリリーは一拍おいて、


「なんで、今まで攻略されなかったか、分かる?」


 そんな事を言って、全員の顔を眺めた。誰も言葉を発さないのを見ると、リリーはため息を吐いた後に言う。


「道がとんでもなく長くて険しい上に、そこのモンスターと、常に吹いている風が厄介すぎるのよ。いわば自然の罠が多いってわけ」


 それを聞くと、キサイはリリーに質問する。


「あの、その道ってどれくらい長いんですか?」


「実際に見たことが無いから、なんとも言えないわね。ただ、強い風で進行が遅くなるっていう話もあるから、案外そこまで長くはないのかも」


 今度は、ゾーンが質問した。


「その風というのは、どれくらい強いんですか?」


「私も話に聞いただけだから、よく分からない。ただ、迷宮と外部との境界線っていうのがあって、風がこっちに来るのは、迷宮に入った時だけらしいわよ」


 その後、七人の間に会話はなくなった。修也はその間に思考する。


 カーナの迷宮の風は、一体どれほど強いのだろうか。台風の日に外に出た時の風か? 首をかしげて、修也はカーナの迷宮に吹いているという風の強さを考えた。

 

 まあ、それほど大したことはないだろう。


 この時の修也は、そんなことを思っていた。



 

読んでくださって誠にありがとうございます。良ければ感想、ブックマーク、ポイント等を入れてくれると嬉しいです。作者のモチベーションになるので……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ