第二十四話『迷宮からの帰還』
修也はうめき声を上げて、誰かの背中で目を覚ました。鎧のゴツゴツとした感触が修也に伝わっている。この人物は誰だろうか。先程のファイアリー=リザード、もといレクスとの会話のせいか、記憶が曖昧だ。
背負っている人物に、声をかける。
「おい、何で俺は背負われてるんだ?」
その瞬間、鎧の人物はこちらを振り返り、言った。
「そりゃあな、お前が気絶したからだ――みんな! シュウヤが目ェ覚ましたぞ!」
大声でそんなことを言った鎧の人物――テラルは、周りにいる五人にそう言った。すると、五人の中の一人、リリーが修也に話しかけてくる。
「大丈夫!?」
「ああ、大丈夫。そっか、俺は迷宮で気絶したのか」
リリーに話しかけられた事で、気絶する前に何があったのかを思い出した。赤い光が修也の中に入ってきて、そして話しかけてきた。ファイアリー=リザードの中身だとか何とか。
ここまで考えたことで、気づく。ここは一体どこなのか。首だけを動かして、周りを見渡してみると、ここはロクターン公国の街だった。
とうやら、迷宮で気絶した修也は、その後テラルに背負われてここまで来たようだ。テラルに対する申し訳なさが胸中からこみ上げてきてしまう。
「ごめん、テラル。わざわざ背負ってここまで連れてきてもらって……」
「気にするな。最後にファイアリー=リザードにとどめを刺したのはお前だろ?」
そう言われて、修也は安堵した。息を吐くと、ゾーンが話しかけてくる。
「所でシュウヤ、いつまでテラルに背負われているつもりだ?周りの視線を感じないのか」
「え……あ」
ゾーンにそう言われて、ようやく修也は気づいた。周りの人たちが、修也に好機の視線を向けてきている。ヒソヒソと、何事かを話しているようだった。
「何があったのかしらねぇ」
「さあ、わざわざ仲間に背負われて、迷惑をかけて。だらしないわ」
そんな声が聞こえた瞬間、修也は叫んだ。
「テラル! もういいから下ろしてくれ!」
★★★
そして、体内時計で、数十分後。
修也は、テラル、ゾーン、エンジュ、キサイが四人で止まっている宿屋に来ていた。二階建てになっていて、修也、ヘリヤ、リリーは、一階にあるテーブルの椅子に座っている。
「さて、今回の探索で分かった事だが」
そう話し始めるのはテラル。彼が気絶した修也に、ファイアリー=リザードを倒した後に起こった出来事について話してくれるらしい。
「どうやら、魔の力ってのは、本当に存在するらしいって事だな。エンジュ、シュウヤに説明してやってくれ」
「ええ」
エンジュは、修也の方に体を向けて話し始める。
「まずはこれを見てほしいんだけど」
そう言って修也に何枚もの紙を渡してきた。その紙には魔法文字が書かれていて、魔法図書館にあった『初歩的な魔法の使い方』という本には書かれていなかった配列で魔法文字が書かれていた。
「あなた、魔法文字が分かる?」
「分かる。一応うろ覚えだけど、魔法文字の意味は全部覚えてるよ」
「そう、なら、これの異常性が分かるわね?」
「ああ。俺の知っている配列じゃないな。本職じゃないから分からないけど、エンジュはこれの意味が分かるか?」
修也がそう言うと、エンジュは机の上にばら撒かれた紙をつなぎ合わせ始めた。やがてそれは一つの魔法陣としての形を取り始める。全て繋ぐと、そこにあったのは巨大な魔法陣。
驚きのあまり、修也は言葉を失った。その間にも、エンジュは話を続ける。
「これは、奥にあった扉の先の部屋に描かれていた魔法陣よ。この魔法陣は、何かの力を別の所に移動させる役割があるらしいの」
「……魔法使いのエンジュが言うなら、そうなんだろうけど……なんでそんな物が迷宮に?」
「分からない。けどこれを見る限り、五大迷宮の最深部には、これと同じような魔法陣がある可能性が高いわ」
すると、ゾーンが会話に割り込んでくる。
「で、その魔法陣でどこかに行った力というのが、例の魔の力というわけだ」
七人の間に、静寂が訪れる。
その間に、修也は今得た情報を吟味した。
謎の魔法陣は、何かの力をどこかに移動させる役割があり、その何かの力というのが、魔の力だという。
「…………」
五大迷宮には、何かがある。ファイアリー=リザードが言葉を発して、しかもその魂らしきものが言うには、ファイアリー=リザードは元は人間で、レクスという名前だと言ったことから、それは明らかだ。
何よりも謎なのは、レクスによって見せられた、ユリアという少女の記憶。そして、修也の見たファイアリー=リザードが最後に発した言葉。
「あの子を助けてやってくれ、か」
誰にも聞こえないように、そっと呟く。
すると、ヘリヤは言った。
「それで、この後どうする。ロクターンの五大迷宮を攻略して、魔の力について調べるか? それとも、謎を残したまま攻略を止めるか?」
そう言った直後、テラルは机をバンッ! と叩いて、
「魔の力について調べるに決まってんだろ!」
そう叫び、全員の顔を見回した。
「みんな、気になるよな? 魔の力の正体! その力がどこに行ったのかを調べて、その力の正体を知りたいって、そう思うよな!?」
最初に言葉を発したのは、キサイだった。
「うん、気になる。あわよくば、その力を使って何が出来るのか知りたいよね」
次に口を開いたのはリリー。
「私は元々、危険を犯してまで魔の力を手に入れたかった。その魔の力の正体が分かるチャンスを、みすみす逃したくはないわね」
リリーの次に話したのは、ゾーンだった。
「そもそも、僕らの目的は、ロクターンの五大迷宮を攻略することだろう? それが結果的に魔の力を得ることに繋がるなら、実践するべきだ」
ゾーンの次に口を開いたのはエンジュだ。
「ロクターンの五大迷宮を攻略して、魔の力を得る。面白いじゃない。私もテラルと同じく、魔の力の正体を知りたいわね」
エンジュの次は、修也が話し始める。
「魔の力に興味はないけど、俺はロクターンの五大迷宮について知りたいな。冒険がしたい」
最後に、ヘリヤはテラルに言う。
「満場一致、だな。そういう訳だから、私もロクターンの五大迷宮を攻略して、魔の力の正体を知りたいと思う」
ヘリヤがそう言うと、テラルはもう一度全員の顔を眺めた後、椅子から立ち上がった。そしてその場から跳んで机の上に立つと、周りの視線を受けながら、テラルは言った。
「この七人で、五大迷宮を攻略するぞ!」
六人は、無言で頷いた。
★★★
あの後七人はファイアリー=リザードの魔石を売った金を分配し、その後各々が泊まっている宿屋に戻っていた。
外の時刻は、昼を少し過ぎた頃だった。普通なら迷宮探索に行くのだろうが、七人はマルタの迷宮を攻略したことで疲れていたのだ。
明日の朝、ロクターンの五大迷宮の一つ、カールの迷宮がある方向の門に集合ということを思い出した後に、修也は部屋のベッドに寝そべった。装備は外している。
「…………」
そしてそのまま、目を閉じた。
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