表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅人剣士の異世界冒険記   作者: うみの ふかひれ
第一章 冒険の始まり
34/100

第三十三話『エドワード=エステル②』

 エドワードの攻撃によって、剣が折られた。その事実に、修也は唖然とするしかなかった。


「ッ!」


 エドワードは続けざまに剣を振るう。その速さに修也は圧倒された。先程とは違い、防御する為の剣はない。そもそも、折られることすら想定していなかった。自分の計画性の無さには失望する。


「くっ……」


「さあ! どうする!」


 ウルゴーンがそんな事を言って、再び笑っていた。何か言葉の一つでも返せればよかったのだが、エドワードの猛攻が激しすぎる。剣を避けることに精一杯で、息をつく暇もない。


 どうする。剣を折られてしまった以上、こちらの攻撃手段はない。撤退するしかないのか。


 そう思って出口を見たが、驚くことに、その扉は閉まっていた。


「な……」


 修也がそれに驚いていると、ウルゴーンは自慢げに話しかけてくる。


「その扉は、中に入った時点で、外からしか開けられないようになっているのさ」


「な……なら、お前もこの中に閉じ込められるはずだ!」


「いや? その扉の術式を組んだのは私だ。私だけなら、いつでも出ることができる」


 なんてデタラメな……。


 いや、もういい、分かった。この状況はどうしようもないくらい最悪だ。


「ッ!」


 今のエドワードの斬撃で、髪が少し持っていかれた。修也が疲れてきている証拠だ。ワーリング=ナイトにエドワード。度重なる戦闘に修也は疲れている。


 せめてもの抵抗にと、修也は柄に魔力を込めて、短い光の剣を出した。これで五分は持つ。


「おおッ!」


 振り下ろされる禍々しい剣を、修也は光の剣で弾いた。そのまま剣を持つ手首を斬り落とそうとしたが、その前にエドワードのもう一本の剣が修也に迫ってくる。


 剣の柄で何とかそれを弾くと、なぜかエドワードは動きを止めた。何事かと様子を見ていると、ウルゴーンが話しかけてきた。


「その光の剣……《魔力物質化》か。さっさと斬られれば良いものを」

        

 そう言って、ウルゴーンはため息をついた。修也が言い返そうとした、その時――エドワードが斬りかかってくる。


「ッ!」


 斬撃を弾いて、修也はエドワードに剣を振り下ろす。だが、あっさりと受けられた後、修也の脇腹に鋭い突きを放ってくる。

 

 後ろに跳んでそれを避けようとしたが、剣先が脇腹に当たった。だがなぜか傷はない。鎖帷子でその突きが受け止められたようだ。

   

「…………」


 服の下に鎖帷子を着ていたのをすっかり忘れていた。感じられる重量が少なかったからだ。ここで一つ分かったのは多少無茶をしても、クルトの作った鎖帷子が攻撃を受け止めるということ。


「……ふぅ」


 そして、鎖帷子は着ているシャツと同じく長袖だ。上半身の防御は保障されている。


「エドワードの攻撃を見切って、右手首を斬り落とすか」


 とりあえずは、それを目標にしていこう。禍々しい剣を折るのは無理だ。諦めた。少し心が痛むが、仕方ないだろう。


 修也はエドワードに向って走り出した。


「ッ!」


 二人の剣が高速でぶつかり合う。

 

 先程と違うのは、上半身への攻撃に無頓着になったことだ。何度も斬撃を受けているが、鎖帷子が修也への攻撃を受け止めている。

 

 何度も、何度も、エドワードの手首を斬り落とそうとしているが、斬撃が全て受け止められるか避けられる。修也自身の魔力も残り少なく、この状況がまずいことを告げていた。

 

 ギンッ! と音が鳴り、エドワードの剣を受け止める。その後、エドワードの右手を掴み、腕ごと切断しようとするも、その場から蹴り飛ばされて、修也は壁に激突してしまう。


「カハッ」


 肺の息が全て出される。エドワードは蹴りの姿勢で固まっていたので、周囲から魔力を取り込んで、少しだけ体内の魔力を増やす。


 一息ついた直後、エドワードが数歩で距離を詰めてくる。その速さは修也の強化した目でぎりぎり捉えられるほどで、その剣が振り下ろされた時、修也は右に跳んでその斬撃を躱した。

 

「ッ!」


 足に力を込めて、その場から跳躍、エドワードに向かって光の剣を振り上げる。光の剣は避けられ、腕に少し掠った。


 追撃しようとしたが、すぐに踏みとどまる。エドワードが二本の剣を振り下ろしてきたからだ。目の前を二本の剣が通り、思わず鳥肌が立つ。

   

 その場から跳躍して、一旦エドワードから離れる。体制を立て直すと、周囲の魔力を取り込んで、少しだけ体内の魔力を増やした。


「はぁ……」


 この状況、割とジリ貧だ。こちらの魔力は、常に光の剣を作り出さないといけない都合上減り続けるし、エドワードは疲れを見せないが、修也は別だ。この世界に来て、多少体力は上がったものの、先程の戦闘と今の戦闘で疲れが溜まっている。


 それに、斬撃を何度も受けていることも問題だ。鎖帷子で斬撃の勢いはほとんど殺されているが、衝撃は受ける。防弾チョッキで銃弾を受けても、その衝撃がかなり伝わることと同じことだ。


 未だに切り傷は負っていないが、剣の衝撃はどうしても受けなければならないので、痛みがじわじわと溜まってきている。


「……どうするよ」


 修也がそう呟いた直後、エドワードが再び距離を詰めてくる。振り下ろされる剣を何とか受けると、二本目の剣が修也の胴体を襲った。


「ぐっ……」


 鎖帷子を着ているので、傷はない。ないが、衝撃が凄まじい。


 再び後ろに跳んで、修也は息を整える。剣が当たった箇所を手で抑え、顔をしかめた。


 すると、ウルゴーンが話しかけてくる。


「降参なんて、できると思うなよ?」


「……誰が、降参なんてするかよ」


 修也は柄を強く握りしめて、再びエドワードの攻撃に備えた。もうどうにもならないが、何もしないで死ぬよりは、せめて全力で足掻いて死んだほうがマシだ。


 足に力を込めて、再び突撃しようとした――その時。


 バンッ! と音を立てて、出口の扉が開かれる。



「シュウヤ! これを使え!!」


 

 そこに居たのは――アカゲラの村にいるはずの、クルトだった。


 ★★★


 何かが飛んでくる。恐らく、クルトによって投げられた物だろう。その方向を見ずに、修也は視界の端に飛び込んできた何かを、掴んだ。


 それを見ずに、修也は驚きのあまりクルトに話しかける。


「クルト、なんで、お前……」


「それは後で話す! それより、早くそいつを倒せ!」


 クルトにそう言われて我に返った。今は戦闘中だ。エドワードがいつ来るかも分からない。


 修也は手に掴んているものを見る。


 それは、剣の鞘だった。修也の強化された身体能力でも、その剣は重く、存在感を放っていた。これなら、エドワードの持つ禍々しい剣を打ち砕く事ができるだろう。


「何をしている! 早くそいつを殺せ!」


 ウルゴーンの、そんな焦った声が聞こえる。それに反応して、エドワードはその場から走り出す。


「…………」


 鞘から、剣を抜く。そこから剣を振り抜くまでの間、時間がゆっくり流れていくかのような錯覚を味わった。

 

 その剣はロングソードだった。幅は広く、その刃の色は青みがかった黒。刀身には、この世界の文字が刻まれている。


 《錬剣クルシュ》


 それが、この剣の名前だった。


「おおおおおおッ!」


 修也は気合を上げ、振り下ろされる禍々しい剣を迎え撃ち――砕いた。


 

 


 


 




読んでくださって誠にありがとうございます。良ければ感想、ブックマーク、ポイント等を入れてくれると嬉しいです。作者のモチベーションになるので……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ