第三十三話『エドワード=エステル②』
エドワードの攻撃によって、剣が折られた。その事実に、修也は唖然とするしかなかった。
「ッ!」
エドワードは続けざまに剣を振るう。その速さに修也は圧倒された。先程とは違い、防御する為の剣はない。そもそも、折られることすら想定していなかった。自分の計画性の無さには失望する。
「くっ……」
「さあ! どうする!」
ウルゴーンがそんな事を言って、再び笑っていた。何か言葉の一つでも返せればよかったのだが、エドワードの猛攻が激しすぎる。剣を避けることに精一杯で、息をつく暇もない。
どうする。剣を折られてしまった以上、こちらの攻撃手段はない。撤退するしかないのか。
そう思って出口を見たが、驚くことに、その扉は閉まっていた。
「な……」
修也がそれに驚いていると、ウルゴーンは自慢げに話しかけてくる。
「その扉は、中に入った時点で、外からしか開けられないようになっているのさ」
「な……なら、お前もこの中に閉じ込められるはずだ!」
「いや? その扉の術式を組んだのは私だ。私だけなら、いつでも出ることができる」
なんてデタラメな……。
いや、もういい、分かった。この状況はどうしようもないくらい最悪だ。
「ッ!」
今のエドワードの斬撃で、髪が少し持っていかれた。修也が疲れてきている証拠だ。ワーリング=ナイトにエドワード。度重なる戦闘に修也は疲れている。
せめてもの抵抗にと、修也は柄に魔力を込めて、短い光の剣を出した。これで五分は持つ。
「おおッ!」
振り下ろされる禍々しい剣を、修也は光の剣で弾いた。そのまま剣を持つ手首を斬り落とそうとしたが、その前にエドワードのもう一本の剣が修也に迫ってくる。
剣の柄で何とかそれを弾くと、なぜかエドワードは動きを止めた。何事かと様子を見ていると、ウルゴーンが話しかけてきた。
「その光の剣……《魔力物質化》か。さっさと斬られれば良いものを」
そう言って、ウルゴーンはため息をついた。修也が言い返そうとした、その時――エドワードが斬りかかってくる。
「ッ!」
斬撃を弾いて、修也はエドワードに剣を振り下ろす。だが、あっさりと受けられた後、修也の脇腹に鋭い突きを放ってくる。
後ろに跳んでそれを避けようとしたが、剣先が脇腹に当たった。だがなぜか傷はない。鎖帷子でその突きが受け止められたようだ。
「…………」
服の下に鎖帷子を着ていたのをすっかり忘れていた。感じられる重量が少なかったからだ。ここで一つ分かったのは多少無茶をしても、クルトの作った鎖帷子が攻撃を受け止めるということ。
「……ふぅ」
そして、鎖帷子は着ているシャツと同じく長袖だ。上半身の防御は保障されている。
「エドワードの攻撃を見切って、右手首を斬り落とすか」
とりあえずは、それを目標にしていこう。禍々しい剣を折るのは無理だ。諦めた。少し心が痛むが、仕方ないだろう。
修也はエドワードに向って走り出した。
「ッ!」
二人の剣が高速でぶつかり合う。
先程と違うのは、上半身への攻撃に無頓着になったことだ。何度も斬撃を受けているが、鎖帷子が修也への攻撃を受け止めている。
何度も、何度も、エドワードの手首を斬り落とそうとしているが、斬撃が全て受け止められるか避けられる。修也自身の魔力も残り少なく、この状況がまずいことを告げていた。
ギンッ! と音が鳴り、エドワードの剣を受け止める。その後、エドワードの右手を掴み、腕ごと切断しようとするも、その場から蹴り飛ばされて、修也は壁に激突してしまう。
「カハッ」
肺の息が全て出される。エドワードは蹴りの姿勢で固まっていたので、周囲から魔力を取り込んで、少しだけ体内の魔力を増やす。
一息ついた直後、エドワードが数歩で距離を詰めてくる。その速さは修也の強化した目でぎりぎり捉えられるほどで、その剣が振り下ろされた時、修也は右に跳んでその斬撃を躱した。
「ッ!」
足に力を込めて、その場から跳躍、エドワードに向かって光の剣を振り上げる。光の剣は避けられ、腕に少し掠った。
追撃しようとしたが、すぐに踏みとどまる。エドワードが二本の剣を振り下ろしてきたからだ。目の前を二本の剣が通り、思わず鳥肌が立つ。
その場から跳躍して、一旦エドワードから離れる。体制を立て直すと、周囲の魔力を取り込んで、少しだけ体内の魔力を増やした。
「はぁ……」
この状況、割とジリ貧だ。こちらの魔力は、常に光の剣を作り出さないといけない都合上減り続けるし、エドワードは疲れを見せないが、修也は別だ。この世界に来て、多少体力は上がったものの、先程の戦闘と今の戦闘で疲れが溜まっている。
それに、斬撃を何度も受けていることも問題だ。鎖帷子で斬撃の勢いはほとんど殺されているが、衝撃は受ける。防弾チョッキで銃弾を受けても、その衝撃がかなり伝わることと同じことだ。
未だに切り傷は負っていないが、剣の衝撃はどうしても受けなければならないので、痛みがじわじわと溜まってきている。
「……どうするよ」
修也がそう呟いた直後、エドワードが再び距離を詰めてくる。振り下ろされる剣を何とか受けると、二本目の剣が修也の胴体を襲った。
「ぐっ……」
鎖帷子を着ているので、傷はない。ないが、衝撃が凄まじい。
再び後ろに跳んで、修也は息を整える。剣が当たった箇所を手で抑え、顔をしかめた。
すると、ウルゴーンが話しかけてくる。
「降参なんて、できると思うなよ?」
「……誰が、降参なんてするかよ」
修也は柄を強く握りしめて、再びエドワードの攻撃に備えた。もうどうにもならないが、何もしないで死ぬよりは、せめて全力で足掻いて死んだほうがマシだ。
足に力を込めて、再び突撃しようとした――その時。
バンッ! と音を立てて、出口の扉が開かれる。
「シュウヤ! これを使え!!」
そこに居たのは――アカゲラの村にいるはずの、クルトだった。
★★★
何かが飛んでくる。恐らく、クルトによって投げられた物だろう。その方向を見ずに、修也は視界の端に飛び込んできた何かを、掴んだ。
それを見ずに、修也は驚きのあまりクルトに話しかける。
「クルト、なんで、お前……」
「それは後で話す! それより、早くそいつを倒せ!」
クルトにそう言われて我に返った。今は戦闘中だ。エドワードがいつ来るかも分からない。
修也は手に掴んているものを見る。
それは、剣の鞘だった。修也の強化された身体能力でも、その剣は重く、存在感を放っていた。これなら、エドワードの持つ禍々しい剣を打ち砕く事ができるだろう。
「何をしている! 早くそいつを殺せ!」
ウルゴーンの、そんな焦った声が聞こえる。それに反応して、エドワードはその場から走り出す。
「…………」
鞘から、剣を抜く。そこから剣を振り抜くまでの間、時間がゆっくり流れていくかのような錯覚を味わった。
その剣はロングソードだった。幅は広く、その刃の色は青みがかった黒。刀身には、この世界の文字が刻まれている。
《錬剣クルシュ》
それが、この剣の名前だった。
「おおおおおおッ!」
修也は気合を上げ、振り下ろされる禍々しい剣を迎え撃ち――砕いた。
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