第三十話『屋敷襲撃②』
ワーリング=ナイトがその剣を振り下ろしてきた途端、修也は左に跳んだ。ズンッ! と言う音が聞こえたが、そんな事には構わずに、修也はワーリング=ナイトの剣を持つ手首に斬りかかった。
腐肉で体が構成されているのが原因か、ワーリング=ナイトの手首はあっさりと切断された。グチャリというグロテスクな音がしたが、聞かなかったことにする。
ワーリング=ナイトの手首を斬り落とした後は、その腕を狙って剣を振り下ろす。またグロテスクな音を立てて、ワーリング=ナイトの腕が切断された。
そのまま跳んで首を斬り落とそうとしたが、奇妙なことが起きた。
斬り落としたはずの腕と手首が視界の端で繋がり、その剣で修也を貫こうとしていたのだ。
「ッ!」
ガンッ! と音を立てて、修也は突き刺されようとした剣を弾く。腕は剣を持ったままワーリング=ナイトに繋がって、元に戻った。
「……やべぇな」
腐肉でその体が構成されているからか、斬り落としてもあっさり繋がって元に戻る。
「再生能力、ね」
これはもう、ワーリング=ナイトを焼き払うしか無いだろう。もしくは、その体を消滅させるしかない。問題は、そんなことは出来ないということなのだが。
《魔力物質化》を使うのも一つの手だろうが、あの光の剣を出しても、ワーリング=ナイトを消失させる事ができるとは思えなかった。
唾を飲み込んで、修也は剣に魔力を込める。
「…………」
ワーリング=ナイトは、全身を騎士たちの身につけていた武具で覆っている。用は胴体を鎧が守り、頭を兜で守り、剣を装備している訳だ。
だから、先程は手首の関節部分と腕の関節部分を斬り落とした。硬い鎧で守られていても、そこだけは鎧がないから。
あれを普通のモンスターと考えるのは良くない。領主の錬金術で作られたというのなら、あれはもはや人造人間とも言うべきだろう。
先程ワーリング=ナイトの構成される現場を見た時は、大きな魔石を起点としてその体を作っているようだった。なら、狙うべきはその魔石。魔石が心臓部にあるのは確認済みだ。
「ッ!」
修也は青白い光の剣を出すと、ワーリング=ナイトを右肩から左脇腹までを斬り裂こうとした。だが、心臓部に剣が当たる直前、剣が止まった。
―――硬っ!
心臓部が異常に硬かったのだ。今まで数々のモンスターを斬った光の剣が、その刃を通さないほどに。
修也が驚いたのもつかの間、ワーリング=ナイトはその手に持つ剣を振り下ろす。慌てて避けると、剣があたった地面が深く抉れた。
「さて……どうする」
たった一つの弱点を守っている装甲をどうにかして破壊出来れば良いのだが、そんな手段を思いつくほど、修也の頭は良くない。
ワーリング=ナイトは、続けてその剣を振り回す。避けるたびに風圧と空を切る音が修也に届き、その剣に当たれば一環の終わりだということが分かる。
時々剣が修也に当たりそうになれば、修也の持つ剣でそれを弾くしかない。体を切断しても意味が無いし、ワーリング=ナイトを倒す方法も全く思いつかない。
魔石が弱点、というのも、思考の幅が狭いのだ。もっと全体を見ないと――。
「ッ!」
目の前を、ワーリング=ナイトの剣が通った。不用意に近づくのは危険だ。
鎧で全身を守り、関節部分を斬っても再生し、肝心の弱点は装甲で守られている……。
「……どうしろっていうんだよ!」
ヤケクソになって、修也は思わず叫んだ。
『だから帰れと言ったのだ! 今ならまだ間に合うぞ!』
そんな領主の声が聞こえ、修也は一考する。
確かに、今帰れば、生きて帰ることができるだろう。それは間違いないし、この状況では最善のはずだ。体制を立て直す、という意味で帰るのならいいだろう。
だが、この状況で帰るということは、道具屋の人の思いを踏みにじる事になるし、もしそうなれば、修也は二度とこの屋敷に来ることはできないだろう。
ああ、間違いない。この状況で帰るのは最悪だ。
最終的にそんな事を思い、修也は叫ぶ。
「うるせぇ! 誰が帰るか!」
『愚かな! ならさっさと死ねェ!!』
ワーリング=ナイトの動きが、唐突に早くなる。あの領主が何かしたのだろう。修也はますます追い込まれていく。
ワーリング=ナイトが剣を振り上げると、修也は剣でそれを弾いて、手首を切断した。攻撃手段が無くなった隙に、修也はその場から跳んで、ワーリング=ナイトに剣を振り下ろした。
ギンッ! と音を立てて、ワーリング=ナイトの兜が凹んだ。ワーリング=ナイトの肩を足場にして、今度は剣に魔力を込め、その兜に剣を振り下ろす。
グシャリと音を立てて、ワーリング=ナイトの頭部が露わになる。その頭部は、元いた世界で、ゲームや映画で見たゾンビによく似ていた。
あの液体からよくこんな造形ができたな……。と思ったのもつかの間、修也は剣に込めた魔力を光の剣に変えて剣を逆手に持ち、その頭部に光の剣を突き刺した。
だが、また装甲に剣が阻まれる。今度は多少装甲を貫くことができたが、またせき止められた。
ここで一つ分かったのは、剣を押しとどめているのは、装甲ではなく周りの筋肉だということ。ワーリング=ナイトが力んで、光の剣を押しとどめているのだ。
装甲は、そこまで固くない。
「オォォォォォォッ!!」
ワーリング=ナイトは頭を光の剣で貫かれているのにも関わらず、その口から声を上げて、修也を肩から振り下ろそうとする。
「うおっ!」
剣は離さなかったものの、修也はワーリング=ナイトの肩から振り落とされてしまった。慌てて受け身をとって衝撃を軽減すると、視界の端でワーリング=ナイトの手首が腕と繋がって元に戻っている光景が見えた。
「…………」
ワーリング=ナイトは、少しの間動きを止めていた。先程頭に光の剣を刺したのが効いているのだろう。修也は周囲から魔力を取り込みながら、ワーリング=ナイトの倒し方を考える。
ワーリング=ナイトを倒すのに邪魔な物は二つ。鎧と筋肉だ。あれをどうにかすれば心臓部である魔石を壊すことができるかもしれない。
一か八かの賭けでもあるが、ワーリング=ナイトをどうにかしないと、屋敷の中に入れないし、仕方ないだろう。
「なんで俺、絶望的な状況に挑む主人公みたいなことをしようとしてるんだ?」
そんな事を呟いて、修也は顔をしかめた。
この場で、修也はあまりに場違いだ。なんせ、たまたま異世界に転移してきて、ここで仲良くなった友人を助けるためにここに来ている《だけ》。
エドワードのように、生き別れの妹を助けるために戦うのではなく、あくまで友達として、エレノアを助けようとしている修也は、何というか動機が《軽い》のだ。何より、修也は物語の主人公のような行動が性に合わない。
なぜ、こんな事をしているのか。
「ったく、何考えてんだよ」
友達を、エレノアを助ける。
物語の主人公のような行動をする理由なんて……。
「それだけで十分だろ!!」
心の中で決意を固め、修也は剣に魔力を込めた。
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