22話 血にまみれた幕開け
領主代理を務めるのは『ヘブンナイツ』と言うクランのリーダーだそうだ。
元々は複数のクランで連合を組んでいたらしいのだが、領主代理を選ぶ際に合併されたのだとか。
俺が精霊を連れてる事に、周囲の目が突き刺さる様に痛いのだが、どうしたものだろうか。
ヘレンとレイラは特に王都では面が割れているので、どこか居心地が悪い。
この人達に俺が精霊と契約している理由を、どう説明したらいいのか。
「作戦はごく単純だ! 玉座までの一本道で悪魔をぶっ叩く! それだけだ。レベルの低い順に前へ出てもらうが、後ろへ漏れる事を恐れるな! とにかく目の前の悪魔を確殺する事だけを考えてくれ。以上!」
確かに作戦と呼ぶには単純だが、領主代理の髭面オッサンが言うのだからそれでいいのだろう。
ちなみにこのオッサンはゴンサロと言う。
見た感じではそれなりの装備に身を包んでいるが、果たしてどれほどの実力なのだろうか。
はじまりの街であった街門クエストと同様に三回のウェーブに別れて悪魔は攻めて来る。
ただし、領地戦は各ウェーブにおいて、責める側に大将が設定されている。
この大将さえ倒せばクリアする事が出来る。
逆に言うと、大将が恐ろしく強かった場合が厄介なのだ。
「よし、各部隊の指揮官は俺にフレンドの申請をしてくれ。レベルを見て持ち場を決定するぞ」
きっと俺もレッチも最前線だろう。
二人ともまだレベル20にも達していないのだから。
それはそうと、俺は例の白ローブがいないか周囲を探ってみる。
今のところこの場にはいなさそうだが、もし彼らが参加してくれれば頼もしい事この上ない。
正直、共闘なんてしたくないけど、ここは一時休戦だな。
「次っ! ケイはいるか?」
ボーっと考えてたら、急に呼ばれた。
「はい! ここです」
「貴様の隣にいるのは聖騎士と竜騎士で間違いないか?」
うーん。どうしたものか。
周りの反応を見る限り、ゴンサロの確認はただ言質をとる作業でしかなさそうだ。
嘘をつこうにも、この場で周りを納得させられそうなものは浮かばない。
かと言って本当の事を言ったって信じてくれそうもない。いや、理解できないだろうな。
「そうです」
結局、聞かれた事に答えるだけだった。
周囲の指揮官と戦士達から軽くどよめきが起こる。
「俄かには信じられんし、どうしてレベル17の小僧が契約出来たのかはわからんが、戦力にはなりそうだな」
「ええ、ちょっと色々と訳ありなんですよ……あははは」
すると、どこからともなくゴンサロへ向けた報告が飛んできた。
「そこの精霊持ちはつい先日の街門クエストで1位だった奴だぞ!」
集まった面々がその声の方に振り向くと同時に、あからさまな敵意の様な視線に変わる。
そこにいたのは白いローブの集団だった。
数は15。単純に三部隊からなる集まりの様だ。
白ローブを見ると俺も反射的に身構えてしまうのだが、周りのこの反応を見る限り歓迎されているような感じではなさそうだ。
更に白ローブ、ヴァイスの背後からは、聞きなれた口調で怒鳴り声を上げながらアデルスの部隊が到着した。
「おらおらそこをどきなっ! なんでヴァイスなんかが領地戦に顔を出してるんだい? さっさと消えな、この裏切者が!」
随分とヴァイスに対して敵対心を持った台詞だ。
しかもそれに合わせるように「そうだそうだ!」とヴァイスへの怒号が飛び交う。
そんな中、忘れもしないアイツがこっちに近寄ってきた。
ガーゴイルとの戦いの最中に俺に斬りかかってきた薙刀野郎だ。
「久しぶり……でもないか。貴様も参戦とは奇遇だな小僧」
こいつの態度はこれから一緒に戦おうって感じではない。
相変わらずフードで顔半分が隠れているが、口が厭らしく吊りあげられて笑っている様にしか見えない。
すかさず、俺と薙刀男の間にヘレンが割って入った。
「あなたの目的はなんなのです! ケイ様には指一本触れさません!」
男はヘレンを見るなり、フードの奥にある目が妖しい光を放ったように見えた。
「俺を覚えているか聖騎士よ」
きっとこの男もレイドダンジョンに挑んでヘレンに敵わなかったうちの一人なのだろう。
「いえ、覚えておりません。あの頃はひっきりなしに部隊がやってきてましたから」
「そうか、覚えていないか。今この場で思い出させてやってもいいのだがな」
まさに一触即発な雰囲気だった。
男は背中から薙刀を前にとり出して、刃を地面に突き立てた。
そこへ見かねたゴンサロがやってくる。
「いい加減にしないと領地戦への出入りを禁止するぞジェロン」
覚えたぞ。
こいつの名前はジェロンだな。絶対に忘れない名前になりそうだ。
俺とジェロンの間に割って入ったヘレンの前に体を入れて、ゴンサロはジェロンの薙刀を掴んだ。
「さすがに領主代理様が持つ権限は怖いもんだ。こっちとしても領地戦のこのフィールドに出入り出来なくなるのは困るのでな。それよりもその手を離してくれないか? 領主代理さん」
まただ。
またジェロンのフードの奥で妖しい光が見えた気がした。
「ふんっ! この緊急時に騒ぎを起こすな! 次はないぞ、今度こそ出禁になると思え!」
「ああ、すまなかったなゴンサロ。何せここに出入り出来なくなるとこっちの計画も台無しになっちまうんでな」
そう言って、ゴンサロが薙刀から手を離す。
「ゴンサロぉ逃げなぁぁぁ!」
突然アデルスが叫んだと思ったら、次の瞬間にはジェロンの薙刀が振り下ろされていた。
一体何が起こったんだ。
俺を含めて、アデルス以外は呆然と立ち尽くしている。
ゴンサロは左の肩から、右の下腹部までを一刀のもとに切裂かれていた。
一斉に真っ赤な血が噴き出すと、瞬時に血だまりが拡がっていく。
「が、がはっ!」
今度は口から盛大に血しぶきが舞った。
それと同時に、領地戦の開始を告げる鐘が鳴り響く。
こいつ何しやがるんだ!
しかも領地戦が始まっちまった。
まずいぞこれ。
こんな状態で攻め込まれたら、リーダーを失くした防衛側は混乱に陥るのが目に見えている。
「さあどうする、愚かな人間どもめ!」
ジェロンが白ローブを引き連れて城門へと走り去ると、リーダーを斬られたヘブンナイツのメンバーが一斉に後を追う。
もしかしてこれが奴の狙いなのか?
まさか人間が悪魔に加担してるって言うのかよ。
最悪の状況で領地戦の幕が開かれてしまった。




