21話 突然の宣戦布告 領地戦を前に
王都へ来て今日で三日目。
やっと全員そろって朝食を迎えることが出来た。
「ねえねえ、ケイくん。今日はレイラも一緒に寝てもいいよねー?」
「ゲフっ! ごほっごほっ!」
あまりにも唐突なレイラの言葉に、飲んでいたスープが気管に入った。
「駄目に決まってるでしょレイラ。あなたが隣にいてはケイ様が休めません」
「えぇ~、ヘレンばっかずるいよー」
「毎晩飲み歩いてるあなたが言うセリフではないわね」
食卓が賑やかになるのはいいが、その議題を延々と続けるのは勘弁願いたい。
「あなた毎晩ヘレンさんと一緒に寝てたの?」
横からレッチもそれに便乗する。だけならまだいいが、そこにアデルスまで加わってきた。
「そりゃ~ケイは聖騎士にベタ惚れだからね~。ただやっぱり男ならここにいる全員を抱いてやるくらいの気概が欲しいもんだねぇ」
「ちょ、ちょっとアデルスさん、それはわたしも含まれてるの?」
「な~に~? あんた男と一つ屋根の下にいるのに抱かれる覚悟もないのかい?」
何と言うか、俺を取り巻く女性陣はレッチを除いて積極的と言うか、奔放と言うか。
そんな会話に割って入る様に、王都に鐘の音が響いた。
「あん? まだ時報の鐘にゃ早くないかい?」
「まさかこれって」
はじまりの街で聞いた、街門防衛クエストを報せる鐘と同じ様な間隔で鳴らされている。
しかし、それは少ししたら止まったようだ。
代わりに王都に設置されてある巨大な拡声器から声が流れる。
『本日12時より領地戦を開始します。悪魔の軍勢より宣戦布告がありました。指揮官は12時に王城へ集合してください。繰り返します……』
アデルスの顔が一瞬で険しくなる。
「遂に来やがったね悪魔達め。ちょっとあたしはアジトに戻るからあんた達も12時前には王城へ向かいなよ、いいね?」
そう言うや否や、アデルスは部屋を飛び出していった。
領地戦か。
現実ではこんな風に始まるんだな。
ゲームの時もほぼ同様の流れだったが、現実でこのアナウンスが聞こえてくるとやはり重みが違う。
この都はアデルスの故郷であるし、彼女の住む近所には仲の良い住民だっているのだ。
しかも人類に残された領地はここが最後。
この領地戦に負ければ世界は悪魔のものになってしまう。
「ケイ様なら大丈夫です」
「そうそうレイラ達だっているんだしねー」
そうだ。俺には力強い精霊がついてる。
やれるだけの事を精一杯やるしかないんだ。
「あの、わたしはどうしたらいいのかしら……」
そうだった。
レッチには編入する戦士が一人もいない。
領地戦は部隊での参加が義務付けられている。
「そう言えば、この世界の指揮官はどうやって戦士を募集してるんだ?」
「そうね、指揮官ギルドで募集するのが一般的なんだけど……領地戦には間に合わなさそう」
王都にいる部隊がどれほどの実力があるかは分からない。でもレッチだってあの杖があればかなりの戦力になるはずなのだ。
しばらく部屋には沈黙が訪れるが、それを破ったのはレイラだった。
「ねえねえ、ケイくんがまだ編入してない精霊をレッチに貸し出すってのはできないのー?」
「え? い、いやそんな事できるの?」
確かにゲーム内には戦士のトレード機能が存在した。
しかし、今ここにいる精霊達は飽くまでも俺に仕える為に存在しているのではなかったか?
「たぶんですけど、ケイ様が指示をくだされば我ら精霊にそれを断る者などいないと思います」
「なるほど。俺もまだヘレンとレイラを編入するのが精一杯だから、一度トレード機能を試してみようか」
「そんな、わたしなんかがいいのかしら?」
「とにかく試してみよう」
まずは、レッチの戦闘スタイルに合う精霊を吟味する。
レッチ自身が遠距離からの魔法攻撃であるから、戦士も同様に遠距離からの攻撃を得意とする精霊がいいと言う結論になった。
「よし、トレードいくぞ」
「うん、お願い」
すると呆気なく俺の手元にあった精霊がレッチのインベントリに移動する。
「よしこれで編入出来ればレッチも参加出来るよな」
さっそくレッチはウィンドウを操作して俺から貸し出した精霊を部隊へと編入した。
12時までにはまだ少し時間があったが、俺達は既に王城の陣営を訪れていた。
どうにも俺はレッチへ貸し出した精霊のキャラをすっかり忘れていた。
今では少し後悔している。
「この僕が来たからには我が盟主レッチ様とケイ様には指一本触れさせない事は決定だよ。ふっはっはっはっはっ!」
美男子なのだが、キザな台詞がいちいちウザったい精霊だった。画面で見るのと現実とでは三割増しくらいでウザったい。
だけど、こんなのでもゲームの時そのままで現れたのだから感動はする。
「聖騎士ヘレン! 竜騎士レイラ! この僕と同じ戦地に立てる事を誇りに思うがいい!」
真っ直ぐに伸びた薄紫の長髪を手で翻す。
そして言葉の最後には必ずレッチ目線になり白い歯を見せている。
「ちょっとヘスター、もう少し静かにしてくれないかしら?」
「おっと、これは失礼しました。我が盟主レッチ様のご命令とあらばこの魔銃士ヘスターしばし沈黙を貫きましょう!」
まあ性格はアレだけど、きっとこいつとレッチの相性は抜群のはずだ。
魔銃士は、魔力を弾丸にして銃撃するスタイルで戦う。
俺と似た戦い方ではあるが、その射程距離と命中精度は比べ物にならない。
レッチと共に後方支援で力を発揮してくれる事だろう。
ちなみに、ヘレンもレイラもここまで一度としてヘスターに喋りかけないのだが、他の精霊達からも同じような扱いを受けているのだろうか。
なんか放っておけばずっと一人で喋っていそうな男だ。
ひとまず落ち着いたので周囲に目を向けてみる。
さすがに王都と言うだけあって、かなりレア度の高そうな装備を身に着けている者ばかりだ。
そうは言っても、星4か精々星5が現界だと思う。
それでもそんな猛者たちがかなりの人数ここに集まっているのだから、はじまりの街であった防衛クエストの時とは比べ物にならない。
やがて、王城の奥から一際オーラを放つ指揮官が現れる。
ローゼン王国は最初から人類の本拠地として設定されているので、この地の領主は必然的に国王になっている。
代わりに領主代理を立てるのだが、今現れた男がそれのようだ。
「作戦会議を始めるぞ! ここだけは死守しなければならないから皆気合を入れろ!」
その言葉に、集まった戦士たちが「おおおお!」と雄たけびを上げる。
ひりつくような雰囲気の中、作戦会議が始まった。




