20話 思い上がりの末に
結局ヴァイスについて知ることが出来たのは、アデルスよりも強いって事だけだった。
本当に俺にはこの世界を救う力があるのだろうか。
オネスティに乗せられているだけじゃないのか?
陽も沈み、空は闇が覆っている。
今夜もアデルス達は夜の街へと繰り出していった。
俺はと言うと昼過ぎからずっと一人でふさぎ込んでいるザマだ。
ある意味で俺は自分の力を過信していただけなのかもしれない。
テラスでアデルスと交わした会話からは、そう思えるだけの失望感を湧き起こさせた。
「どうなさいましたかケイ様?」
ベッドに寝そべり人並みに落ち込んでいたのだ、そりゃ俺の一挙手一投足を見逃さないヘレンに見透かされたって当然だろう。
ずっと見守っていただけだったが、さすがにこれ以上は放っておけなかったのかもしれない。
「俺って弱いのかな」
そう言うと、大の字で寝る俺の隣にヘレンが寄り添う。
「そんな事はございません。我らのご主人様が弱いはずがございませんもの」
「だけど、俺は……」
この世界にきて初めての挫折と言っていいのかもしれない。
この程度で落ち込むなんて、自意識過剰にも程がある。
はじまりの街で英雄だとはやし立てられて調子に乗っていただけだったのだ。
弱気な自分が顔を出し、ヘレンの優しさについ甘えてしまいたくなる。
思えば、聖騎士ヘレンに会いたいが一心でこの世界に足を踏み入れたのだ。
今この時ですら俺は至福の時間であるはずだった。
柔らかくきめ細かい肌をした手でヘレンは俺の手を優しく包み込む。
「それなのに……」
「ケイ様はまだこの世界へきたばかりなのです。いくら強大な能力をお持ちでいらしても指揮官としての戦闘はまだまだ向上の余地がございます」
それって結局、まだまだ弱いってことだよな。
「逆に言うと、それでも中級のレアガーゴイルを手玉にとったのですから、やはり末恐ろしい才覚をお持ちなのですよ?」
それは俺が金にものを言わせて揃えた装備やアイテムがあったからだ。
それがなかったらきっと手も足も出なかったに違いない。
「何よりあなた様は精霊を愛する心をお持ちです。それだけであなた様の力は無限大にも広がるのですから」
愛する心だって?
それがそんなに大事な事なのか?
「あなたはこの世界に来る前からずっとわたくし達を愛してくださっておりました。だからこそ精霊神オネスティも我々もあなたが英雄である事に一点の曇りもなく信じております」
どうしてだろうか。
俺にはその言葉の根拠なんて微塵も思いつかない。
だけど不思議とヘレンの言ってる事が真実なのだと思えるんだ。
確かに、愛してるのはヘレンだけじゃない。
レイラだって、他の精霊達だって大切に思っている。
でもそれはゲームのキャラだったからであって、俺の自己満足でしかないはずだ。
「今夜はわたくしを、聖騎士ヘレンを愛してください。あなたの慰みになるのなら本望でございます」
そんな甘美な言葉につられたのか。隣にいるヘレンはいつにもまして妖艶に見えた。
「ヘレン……」
「はい、ケイ様」
こんなんでいいのか?
こんな状態でヘレンを抱いていいのだろうか?
思った以上に自分が強くなかっただけで、ヘレンにこんな事を言わせ、更には慰み者にしようとしているんだ。
「さあ、抱いてくださいケイ様。そして一緒に克服しましょう」
違う!
違うんだ!
俺は、こんな気持ちでヘレンと一つになんてなりたくない。
そんな気持ちに反して手が伸びてしまう。
愛してやまないヘレンがいつもより官能的で、俺はそこに逃げたくなって……。
ヘレンの肩に触れた時だった。
「なにぶん、不慣れでございますが、懸命に尽くしますので」
真っ白な柔肌が小刻みに震えている。
きっと無理を強いてしまっていたのだろう。
俺はなんて馬鹿な事を……。
「ごめんよヘレン。俺みたいな弱い奴が指揮官で」
「弱くなんかありませんっ! ですからどうかお気の済むまで抱いてください!」
ヘレンの顔を覗き込むと、真っ直ぐで澄んだ両目から雫がこぼれおちていた。
「ありがとうヘレン」
そう言って俺はきつくヘレンを抱きしめた。
「ケイ様……」
「今日はこのまま一緒にいてくれるだけでいいからさ……だから、ごめん……」
いつだってそうだ。
この世界にきて、ヘレンと出会い、まだ短い時間しか共にしていないけど、君はいつも俺の事ばかり。
無意識の内に俺は甘えていたんだと思う。
強大な武器に、有能な精霊達を従えて、悪魔を打倒した。そして勝手に一人でその力に溺れていたんだ。
そのくせヴァイスと戦ってもいないのに怖気づき塞ぎこむ始末だ。
きっとヘレンに与えた動揺は俺なんかが測れない程だっただろう。
それからしばらくヘレンの涙は止まらなかった。
この涙は俺のせいだ。
もうこんな思いしてたまるか。
ヘレンが安心して眠れるように強くなってやるさ!
異世界だとか、ヴァイスだとか関係ない。
俺はヘレンや他の精霊達に悲しい思いをさせたくない。
ただそれだけでいいだろ!




