15話 戦闘狂の女アデルス
俺達を助けてくれた女性はアデルスと名乗った。
熊の獣人はアデルス曰く、そのまんま熊と呼んでいる。
二人とも王都で生まれ育ったそうだ。
「ふぅ~ん、ケイって名前かい。そうかいそうかい。珍しい名だねぇ」
屋上からいくつか家を跨ぎ、今はどこかの家の地下に移動している。
「ところでアデルスさん。なんで俺達を助けてくれたんですか?」
「アデルスでいいよ。それと堅苦しい喋り方もやめておくれ」
ボサボサの長い黒髪にテンガロンハットを被り、おまけに葉巻を咥えている。
口調も相まって男勝りな女性なのだろう。
第一印象で持ったワイルドってイメージがぴったり似合う。
それに反して、身なりは清潔感があった。
真っ白いブラウスに黒いズボンと言う控えめな色合わせだ。
ズボンはゆったりとしているが、裾をブーツインしているので機動性も確保されている。
「あんた達を助けた理由ねぇ。まあ一つはそこにいる精霊に用があったんだけどねぇ」
やっぱりヘレンが目当てか。
「あたしが本当に用があるのは竜騎士さ。そっちのあんた聖騎士だろ?」
ここじゃ有名だろうからアデルスの言葉に今さら動揺したりしない。
それよりもレイラと知り合いなのだろうか。
「ヘレンと申します。レイラとは先程まで一緒だったのですが生憎はぐれてしまいました」
真面目と言うか馬鹿正直と言うか。
ヘレンは匿ってもらっている恩を感じているのだろう。
言わなくてもいい事まで言ってしまうあたり実直な性格なのがよく分かる。
しかしこの言葉があまりにも意外だったのか、アデルスは葉巻を落として立ち上がる。
その勢いで座っていた椅子が倒れた。
「ヘレンって言ったね! 聞く手間が省けてよかったよっ。それは本当かい?」
よほどレイラに大事な用事があるのだろう。
「本当なのですが、レイラが今どこにいるかは不明です」
「そうかいそうかい。じゃああんたらといれば竜騎士に会えるってんだね?」
そうだった。
なまじレイラが有名人だから、またトラブルに巻き込まれないとも限らない。
「その内合流の連絡を入れようかと思ってたんだ」
ウィンドウにはフレンド限定でメール機能が付いている。
俺にはその相手がレッチしかいない。
そもそもここがどこかも分からないので連絡のしようがないのだった。
「そう言う訳でアデルス。俺達はレイラと合流したいんだけど、ここに呼ぶにはなんて伝えたらいいんだ?」
地元なのだからその答えはすぐに返ってくると思っていた。
しかしアデルスは少し悩んでいるようだ。
「ここに呼ぶのもいいけどねぇ。ところで竜騎士のほうにも指揮官がいるのかい?」
「レイラの指揮官は俺だけど、もう一人知り合いの指揮官が一緒にいるぞ」
「じゃあ、港の一番端の船で待ってな、そいつにはそう伝えておくれ。熊に迎えに行かせるよ」
俺達が迂闊に動いたってまた騒ぎを起こすだけだからな。
熊が抱えて移動してくれれば絡まれる事もないだろう。
言われた通りの内容を送った。
それを見て熊も地上に繋がる階段を登っていった。
口調はノロマの癖に動きはかなり早い。
ところで、まだ聞いていない事がある。
「俺達を助けた理由の一つがヘレンだったよね? それ以外にもあるって言い方だよな」
アデルスも同じ話をするつもりだったのかもしれない。
口の端を吊り上げて意味ありげに微笑んでいる。
「あんたにも興味があったからさ」
「俺に?」
興味も何も……もしかして。
精霊を倒して契約したと思っているのかもしれない。
要は俺を買い被っている訳だ。
「あんた何者だい? このあたしだって倒せなかった精霊と契約しているんだから強いんだろうねぇ?」
正直に言って答えに迷ってしまう。
レベルは20だし、そもそもこの世界のルールに則った契約でもない。
今でも一定以上の強さはあるだろう。
それでもヴァイスの連中には勝てない気がしている。
「俺は強くなんかないよ。精霊との契約もしていないしね」
「じゃあ精霊はあんたんとこに勝手に来たってのかい?」
何をどう説明すればいいのか。
救いの手を求めるようにヘレンへ視線を移した。
「我が主は精霊神様がこの世界に導いた救世の指揮官様です。我々精霊はそ神の命に従ってケイ様に仕えると決めたのです。それ以前からわたくしは全てを捧げるつもりでしたが」
ヘレンは素直に真実を話している。
確かにその通りだし、それ以外に言える事はない。
「なるほどねぇ。まさかあんたが預言の書の指揮官だったとはねぇ」
意外とアデルスはあっさり納得した。
しかしその預言の書とはなんなんだ。
「あんな世迷言を信じろってほうがどうかしてるけどねぇ」
「その預言の書にはなんて書いてあったんだ?」
この手の「預言」なんて日本でもいくつかあった。
ほとんどが災厄を預言するものだったけど。
「全部は忘れちまったけど、確か『汝らが窮する時、異界から訪れし救世の勇者、精霊を統べて世界を救う』だったかねぇ。だとしたらあんたはこの世界の人間じゃないって事になるよ」
アデルスをどこまで信用していいかは分からない。
しかしこのまま王都にいたら注目を浴びるのは免れないだろう。
誰かしらの手助けは必ず欲しい所だ。
「アデルス。あなたの目的を教えてくれないか?」
そう言う俺の顔を見るや、アデルスはまたしても含みのある笑みを携えた。
「あたしは強い奴と戦いたいだけさ。あんたんとこの竜騎士もそうだし、あんたが相手してくれたっていいんだよ?」
「それだったら悪魔達と戦えばいいじゃないか?」
まさか悪魔を怖いなんて思ってもいないだろうし。
「悪魔ねぇ……」
ここにきて初めて言葉を濁している。
まさか本当に悪魔が怖いのだろうか。
「よしっ! こうしようじゃないか。あんたあたしとサシで勝負しな。勝てたらあたしはあんたの味方になってやろう」
まるで遠足にでも行くように嬉しそうな顔をしている。
どう考えたって俺にデメリットがないし、アデルスにメリットがあるようにも思えない。
失うものがないならやっといて損はないか。
「わかった。サシって事はアリーナまで行かないといけないよな?」
「さすが救世主かもしれない男は物わかりがよくていいいねぇ。あたし好みだよ」
本当にアデルスは戦いが好きなのだろう。
この話になってから目の輝きが増している。
しかし最後の言葉にヘレンは一瞬だけど肩を震わせていたようだ。
よく自制してくれたと思う。
「じゃ行くよ! 竜騎士のほうは熊に任せとけばいいさ。それと聖騎士はここで留守番してな」
さすがにこれには反論があるようだ。
「アデルスそれはできません。わたくしはケイ様をお守りする事が使命です」
「だったら余計あんたは邪魔なんだよ。それがわからないかい?」
歯に衣着せぬアデルスの理屈をヘレンも充分理解している。
しかし感情がそれを許さないのだろう。
それでもしばらくの葛藤を経て折り合いを付けてくれたようだ。
「分かりました……アデルス。我が主をどうかお守りください」
「だ~いじょぶだよ。任せときな! あたし以外の奴には指一本触れさせないさ」
レッチにはその旨をメールして俺はアデルスと王都の中心部まで向かう事となった。
今日はここまでです。
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