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16話 アデルスとの戦い

 今生の別れのような顔でヘレンに見送られた。

 寂しいとか悲しいと言うのとは違う。

 どこか罪悪感を持っているような気がした。


 ――あまり一人で抱え込まなけりゃいいんだけど。


 前を行くアデルスは、居住区の小道を迷いなく進んでいく。

 さすが地元だけあって、抜け道裏道を熟知している。


 しかもすれ違う人々がみんなアデルスに声をかける。


「おっ、デートかい? アデルスもやっと目覚めたか?」

「うるさいよ爺さん」


「こんにちはアデルスさん! 昨日の差し入れ食べてくれた?」

「ああ美味かったよ。あんたんとこの野菜はいっつも最高だねぇ」


 こんな具合に、老若男女問わず気さくな会話が飛び交っていた。


「アデルスは人気者なんだな」


 前を向いたまま返事はない。

 代わりに手をヒラヒラさせているだけだった。


「少し羨ましいよ」


 なんとなく。

 この世界にきて、今見た光景が一番身近に感じられた。

 何気ない近所付き合いで懐かしさを抱くなんて思わなかった。


 ――こんな俺でもホームシックとかなるんだな。


「あんたはこれからだよ。異界から来たってんなら、この世界のいいところを見つけていくんだよ」

「そうだよな……」


 見た感じでは、アデルスとの歳はあまり変わらないと思っている。

 それなのに精神的にはとても大人に思えてしまう。


「なんだい故郷が寂しくなったのかい? これからあたしとやり合うってのにシケた(つら)してんじゃないよ!」

「シケた面してた?」

「声がそうだったんだよ!」


 何と言う勝手な理論なんだ。


「ほぉら、そろそろ着くよ。一応さっきの奴らがいるかもしれないからこの帽子被っときな」


 言われるがまま、テンガロンハットを目深に被る。


 小道が途切れると商業区画の大通りに出た。

 丁度それを渡った所に指揮官ギルドらしい建物がある。


「先に行って手続きしてくるからちょっと待ってな。あまり目立つんじゃないよ」


 そう言って、アデルスは馬車が行き交う大通りを軽い身のこなしで横断していった。


 あの動きを見るだけでアデルスの強さが窺える。

 まだアデルスがどれ程の実力があるかは分からない。

 だけど俺が今この世界でどれくらい通用するか、アデルスには分かるはずだ。


 最初から全力でぶつかってみよう。




 ここでもアデルスの人脈が発揮されたようだ。

 通常なら順番待ちするはずだった。

 しかしアデルスのアリーナ戦は観戦料が取れるほどに需要があるらしい。


 お陰で目立つなと言う厳命は、本人の人気によって破られてしまった。


「ちょっと人が多いけどそれ被ってりゃわからりゃしないよ」

「そう言われてもなぁ」


 強引と言うか、豪快と言うか、やはりアデルスはワイルドだな。


 そのワイルド女史が腰に差した鞘から新品かと見紛うようなレイピアを引き抜く。

 少なく見ても星5以上の業物(わざもの)だろう。


 それを地面に突き立てる。


「いいかい! 全力でかかっておいで! 舐めてると痛い目見せるよっ!」


 アリーナ全体に響く、気合のこもった口上に観客も大いに興奮している。


「もちろんそのつもりだ。全力で行かせてもらうよ」


 レイピアを装備できるスタンスはあまり多くない。

 基本がエペとサーブル。そこから一つずつの上位型があるだけのはずだ。


 ――あのレイピアの大きさからしてエペ系統だよな。たぶん。


 俺は最初にアリーナで用いたスタイルで挑む。

 右手に大きな片手剣、左手には拳銃を握った。


「ほぅ、見た事のないスタイルだねぇ。こりゃ余計楽しみになってきたよ」


『これよりアデルス様とケイ様の交流試合を始めます。異議がなければ両者準備完了とみなして進行します』


 ランクに関係のない試合はフレンド同士の交流試合として成り立つ。

 普通なら俺のランクではアデルスと対峙することすら叶わない。


 会場が静寂に包まれる。


 試合開始のブザーが鳴った。

 それを待っていたかのように、大歓声が巻き起こる。

 まるで「早く斬り合え」とでも言わんばかりだ。


 俺とアデルスは同時に距離を詰める。


 この時俺は違和感を感じた。

 通常なら拳銃を持つ相手に接近戦を仕掛ける者はいない。


 ――至近距離でも回避する自信があるってのか?


 接近戦でも俺の剣のほうが間合いが長い。

 しかしそれはアデルスの剣速を見て改める事になった。


 切りかかろうとした刹那、レイピアが突きの動作に移っている。

 まだ間合いまで2歩くらいあったはずだ。


 この動きに危機感を抱いて剣を盾代わりにするべく斬撃を止める。


 一瞬で伸びて来たレイピアが、俺の剣の腹を突いたのはそのすぐ後だった。


 ――このままじゃまずい。レイピアの火力は連続性にある。


 本来なら弾かれて態勢を崩すはずだが、アデルスの連続突きは繰り返される。

 これまでの相手ならスローモーションになっていた動きも、今はあまり効果を発揮していない。

 せいぜい半分の速度に落ちた程度だ。

 そもそもアデルスの動きが早いので、防御するので精一杯である。


 止む事のない刺突に会場は一層湧き立った。

 アデルスはそれに合わせるように、笑顔から狂気が滲みはじめる。


「いいねぇいいねぇ! あんた中々強いじゃないか! 濡れてきちゃったじゃないかよぉ!」


 防御一辺倒の相手に強いはないだろう。

 しかも濡れるってどこがだ。


 この台詞は俺をまだまだ舐めている証拠なんだ。

 その笑顔がだんだんと癪に触って来る。


 本当なら防御に魔法を使いたくはなかったけど、活路を見出す為だ。

 仕方がない。


 ――次の突きに合わせるか。


 デーモンスレイヤーを握る右手に魔法を待機させる。


 カウンターを合わせるのが難しい。

 アデルスの連続突きは不規則に襲ってくる。


 突きと突きの合間を縫って、剣に待機型のアイシクルバインドをまとわせる。

 そこにもう何回目になるか分からない高速の突きが命中した。


「なっ! なんだい?」


 意表をつく事には成功した。

 氷がレイピアにまとわりついて、剣速が緩む。


 だけどそれはほんの一瞬でしかない。


 考えてる暇などなかった。

 今度は拳銃からアデルスの足元に同じ魔法を放つ。

 そこから氷の蔦が飛び出した。


 しかし。逃げられてしまう。


 もう少しで掴めそうだったが、アデルスの跳躍が一瞬だけ先だった。


 それでもひとまず先制の猛攻はしのいだ。


 ――この人すげえ強いな。どうやったら攻撃できるんだよ。


 気付くとお互い試合開始と同じところまで戻っていた。


「驚いたねぇ。まさかここまで凌ぐなんてねぇ」

「驚いたのはこっちだよ。なんだよその攻撃は」


 満面の笑みをこぼすアデルスに対して、俺は苦笑いするのがやっとだ。

 相変わらず会場は湧き立っている。


「こりゃ、舐めてたのはあたしのほうだねぇ。すまなかったよ」


 要は全力じゃなかったってことか。


「今度こそ全力で行かせてもらうよ!」


 急にアデルスの目付きが変わった。

 さっきまでむき出しだった歯が隠され、その顔からは感情が見いだせない。


 しかも変わったのは顔だけじゃ無かった。


 ――おいおい、こんなのどうすりゃいいんだよ。


 地面と平行に突き出されたレイピアに揺らめく炎が纏われた。


「サーブルオンファイヤ。受けてごらん!」


 その名前からしてスタンスなのだろう。

 聞いたことも見た事もない。


 俺もデーモンスレイヤーに最大の氷を纏わせる。

 同時にドラゴニックリボルバーから連射性能の高い、アイスダストを撃ちまくる。


 ――近づけない。


 アデルスの利き手とは逆側へ旋回しながら、遠距離魔法で隙を狙う。

 しかしその全てが炎のレイピアに掻き消されてしまう。


 一転してアデルスは動かない。

 体の向きを俺に合わせるだけの動作を続け、常に正面を捉えている。


 そんな攻防が一周回った時だ。


「いくよ!」


 遂に動く。

 右手に持ったレイピアを左肩の上に掲げて一気に振り下ろす。


 無数の火の粉が宙を舞い、アデルスの前に集まり出した。


 ――なんだあれ?


 意味ありげに集合する火の粉は次第に融合し、いくつかの火の球が形成された。

 そこに氷の弾丸を撃ちこむが、まさに焼け石に水を体現している。


 ――どうする?


 アデルスの目が更に鋭さを増したと同時に、レイピアで火の球を突き出した。


 高速の突きで弾かれたそれは更に速度を加えて飛んでくる。


 このままでは負ける。

 でもこれさえ防げばもしかすると。


 俺は咄嗟にウィンドウを表示させる。

 火の球を見ながら必死に操作していく。


 そのまま一つ目を躱し、二つ目を剣で防ぐ。

 続く三つ目を銃弾で相殺し、四つ目が襲い掛かってきた。


 ――イチかバチかやるしかない!


 次の瞬間、俺はそれを見逃さなかった。

 アデルスの顔が驚きに満ちているのを。


 全身にアイシクルバインドを掛けて、俺は四つ目の炎の中に自ら飛び込んで行った。

 炎の中を掻い潜ったと同時にスタンスを変える。


 更に武装解除して、両手共に雷属性の拳銃に握り替えた。

 そして発動する。

 エクストラスキル『マキナ』。


 銃弾の発射は出来なくなるが、自らを雷と同化させる。

 持続時間はたったの5秒。

 それがマキナの能力だ。


 全身から電気が迸り、雷光の如くアデルスに詰め寄った。


 そのまま背後に回り込むと、放電する手で首筋に手刀を入れる。


 ――やった! 勝ったぞ!


 これでアデルスは感電によるショックで失神する。


 はずだったのだが、勝ちを確信したすぐ後。


 気を失ったのは俺の方だった。

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