89 活字拾いの娘、万年筆を使う
「シーラ、それはなんだ?」
魚以外の食事も全て海のものを使った料理で、大変満足した私は先ほど見せてもらった地図を忘れないようにと思い、この間アレックからもらった鞄から手作りのメモ帳と万年筆もどきを取り出して書き写していた。
「それって、この鞄はアレックがくれた鞄だよ。どれだけ入れても重さも変わらないからすごく便利」
「いや、鞄のことじゃない。そのペン? それはペンなのか?」
「これはこの間、小説を書いた時にヴァンに作ってもらったの」
そうこの万年筆もどきは、羽ペンで書いているとインクが文字を書いている途中でなくなって、そこから継ぎ足してを繰り返していて、非常に見栄えが悪いことから作り出したものだ。
孤児院で書いたものは別に見た目は気にならなかった。多少丸っこい文字だのと貶す人もいたけど、所詮は読む人も孤児院関係者くらいなので気にならなかった。だが今回は賞を目指すのだ。流石に見た目が悪いろ読みにくいと読んでもらえない可能性もあるだろうと思い、ヴァンに相談したのだ。とここまでのことをアレックに話した。
「いや、そもそも小説を書いたことも聞いていないし。もしかしてガッテン工房が募集していたあれに応募したのかい? だがあれは関係者の応募は受け付けていないだろう。不正を疑われるからな」
「まあまあ、それについてはもう終わったことだから……」
これ以上説教されてはかなわないと両手を振って誤魔化す。だがそんなことはアレックにはお見通し。ヴァンも庇ってはくれない。
「また何か悪巧みでも考えたのか。普段は目立つことをしたくないとか言ってるのに、どうしてそう言うことをするかなぁ」
「だって大金が手に入るかも知れないのに挑戦しないのもさ~。それにヴァンが書いたことにして応募すればバレないと思ったの。クラウスさえいなければ上手く言ってたのに」
「シーラの敗因はズバリ、クラウスを仲間にしなかったことだな。分け前を約束していたら味方になってたはずだよ」
「そうかなぁ。意外とクラウスは真面目だからね」
私は首を傾げる、クラウスを仲間にとか全然思いつかなかった。信用度がまだ足りていないってことだろう。
「そんなことより、そのなんだっけ? まんねんひつもどき? それインクがどこから出ている?」
「よくぞ聞いてくれました。文字を書く度にインク壺に羽ペンを浸すのは効率が悪いので、手で持つこの軸の中に蓄えられたインクを入れて、このペン先に送り出す筆記用具を作ってもらったのです。完璧でしょ?」
プレゼンだからちょっと丁寧な言葉を使ったよ。だけどアレックは私の万年筆もどきを奪うと、先ほど持ってきていた地図の裏に文字を書き出した。良いなかな。その地図大事なものじゃないの?
「これはすごいな。すごく書きやすい。このペン先も凝っている。これはどこで作ってもらったんだヴァン」
「シーラの書いた絵じゃあ、すごくわかり辛いって、初めはどこも相手にしてくれなかったんだ。だが活字文字を作っている金属細工師が細かいものも作れるってきいたからシーラのえを見せたら絵だけじゃ無理だって言うからシータも連れて行って説明させた。理解力のあるやつだったからインクを入れる容器もそいつに任せた」
「そうか、口止めはしてるのか?」
口止め? 何を口止めするの?
「ああ、一応、誰にも言わないようにとは言っている。ただ大量生産する時は一口噛ませてくれとは言われたがな」
「軸は違うやつか?」
「木工職人だ」
うーんと唸りながら、アレックは万年筆もどきを解体していく。まあ、解体といっても壊したわけではない。簡単にインクが取りだせるような作りになってるからね。
「このインク壺? 普通のインク壺と比べて随分細いな。これはインクが無くなったらどうするんだ? 使い捨てか?」
「ううん。これにインクを入れたらまた使えるよ。一応予備を10個作ってもらってる」
「予備だと? ってことはこのまんねんひつもどきも予備があるのか?」
「壊れたらいけなから五個作ってもらってる」
「これはもらってもいいよな」
当然のような顔でポケットに入れている。だが私は無料であげる気はない。アレックが私より貧乏なら無理なことも言えないけど、侯爵家の嫡男に施しはしないのだ。
「結構お金かかったんだよ。賞金で穴を埋める予定だったのに一鉄貨にもなってないし」
「鞄をやっただろう」
「それとこれとは別だよ」
アレックは仕方なさそうに息を吐くと財布を手にした。ヴァンは呆れた顔だ。
「製作費はいくらかかったんだ?」
「金貨五枚だっけ?」
ヴァンに聞く。
「ああ。初めだったから結構かかった。次作るときはそんなにかからないだろう」
「ほら金貨五枚だ」
「やった!」
儲け損ねたから、失敗したなって思っていた万年筆もどきがお金になったのでほっとした。太っ腹な私は鞄に入れていた万年筆もどきとインク壺をもうひと組取り出してアレックに渡した。




