84 活字拾いの娘、王子に話しかけられる①
王子が視察に来ると噂が流れて数日後、本当に明日王子がやってくることになった。
どうやら活字工房で本を作るためにしている印刷の方法、活版印刷は画期的なことらしい。前世日本人の私からすると本が印刷されて一度に同じ本が何冊も作れることは当たり前のことなんだけど、この世界ではまだ珍しく、この大陸にある国ではうちの国バルティニア王国とサルマン帝国だけらしい。活版印刷はすごく珍しいから王子が視察に来てもおかしくはないけど、今更感もある。だって活字工房で本を作り出して何年だっていると思う?
王族が視察するのならもっと早くても良いと思うんだよね。
「なんで今更?」
これを言ったのは私ではない。私は思っていても口にはしない。このセリフ王子に直接言ったわけではないけど、やっぱり不敬だよね。平民の私たちからすれば貴族だって怖い存在なのに王族だからね。王族。
「アンリ、不敬。王子に会っても言っちゃダメだよ、そんなこと」
アンリは時々、ギョッとすることをするからね。注意しとかないと。やっぱり私はアンリの先輩だからね。
「シーラ。俺だって馬鹿じゃないぜ。さすがに王子には言わないよ」
「そうそう、シーラ。アンリだって貴族の子供の教育は少しだけど受けてるんだからそんなヘマはしないわよ」
大丈夫かなぁ、この二人。なんか不安だ。ヘマをしないとか言って笑っているコメットも心配だ。本当にこの二人は貴族の子だったの? 絶対貴族の教育受けてないでしょ?
「シーラは心配しすぎだ。王子と俺たちが話す機会なんてないさ。王子だって平民の子供には話しかけてこないだろ。セシル様とガッテン子爵もいるんだし」
クラウスが言ってるように、王子様は一人で視察するわけじゃない。護衛もたくさん引きつれて、案内人もガッテン子爵にセシルさん、それにローズマリアさんもご一緒すると聞いた。印刷でわからないことも平民の私たちに聞かなくても答えてくれる方がいっぱいいるのだ。
クラウスが言う通りな気がしてきたよ。王子は視察が仕事だから来るだけだから、何を言うかわからない平民に質問なんかしないよね。うんうん。
って思ってた時もあった。ほんと、クラウスを信じた私が愚かだったよ。
「うわ~すごいね~。ねえ、そこの金髪の子、すごく活字拾うの早いね。ねえ、聞こえてるの?」
なんか金髪の王子に話しかけられてるんだけど、どうしたらいいの? 王子は平民の子には話しかけないんじゃなかったの? クラウス、どうにかしてよ。




