83 活字拾いの娘、入賞作品を知る
「大賞作品が決まったわよ」
セシルさんが私たちが働いている活字拾いの部屋に突然入ってくるのはいつものことなので最近は働いている手を止めたりはしない。でも応募していた小説の大賞が決まったとなれば、皆手を止めてセシルさんのところに集まる。今日はガッテン活字工房の上層部の方々が集まって、最終的に残った作品から賞を選ぶ日だった、
「やっぱり、『世界の果てと竜の棲家』ですよね」
クラウスはあの話、気に入ってたからなぁ。でもあれは大賞にはならないだろう。いや決してダメな作品ではない。どちらかというと大変良い作品と言える。でも今回応募したのが悪かった。あの作品さえなければ選ばれたのは『世界の果てと竜の棲家』だったであろうに。
「いえ、残念ながら『世界の果てと竜の棲家』は金賞ね。大賞は『殺人のあとにダンスを』よ。主人公である探偵ジークスの推理の数々。はぁ、素敵な本でしたわ」
前世である日本では推理小説は数々あった。でもこの世界ではあまりないようで、今回募集した中にも推理小説はこの作品だけだった。でもだからこの作品が選ばれたわけではないだろう。
私も最後まで犯人がわからなかった。まさかあの人が犯人だったとは、って感じで終わるのよ。緻密に練られた作品だった。
「授賞式はどうするのですか?」
「授賞式! 考えてなかったわ。そうね、やっぱり必要よね。受賞された方には平民の方もいるから2回授賞式をして、パーティーも2回するj方が良さそうね」
「そういえば、あの料理のレシピはどうなったんですか?」
「今回募集したのは小説だけだったから、あれは入賞はできなかったわ。でもシーラが言ったように挿絵付きで本にしようかって話になったわ」
あの鷹の羽亭の料理人が書いた、「家庭で作れる食堂のレシピ」は簡単な挿絵も書いてあって、なかなか良かった。寮で作ってみたがちょっとした工夫で今までより美味しくなったと好評だった。寮では試食する人が多くいるから検証するのに丁度良かったのだ。
あの料理本は売れる!絶対に!
「そういえばあの人の作品はどうなったんです?」
「あの人?」
「人気写本師イングリスさんの作品ですよ」
「ああ、あれ? あれは駄目に決まってますよ。あんなの世に出したら、盗作で訴えられるわよ」
「惜しいですよね。字も綺麗に書かれていて、一番読みやすかったのに」
そう写本師イングリスが応募してきたのには驚いた。さすが写本師が書いただけあって、そのまま本に出せるくらいのできだったが、小説の内容が最低だったのだ。登場人物の名前だけを変えた有名作品だったから、読み始めてすぐに皆気付いた。ほとんど丸写しだった。
まあ私が書いた作品も盗作だから人のことは言えないんだけど、真似した本はこの世界の本ではないから盗作だとバレることはない。でも私の作品も関係者ってことで入賞できなかったんだよね。がっかりだよ。
そうだ! 次回はイングリスさんと手を組むのもいいかもしれない。前世の漫画家と原作者のように写本師と原作者で応募してみるのもいいかもね。
「おいシーラ、静かだがなんか悪巧みしてるんじゃないか? 」
感が鋭いクラウスが声をかけてきた。ほんとクラウスは要注意である。




