72 『おかしのいえ』とシーラのお菓子 コメットside
ヴァンさんに憧れている人はたくさんいた。それは私たち女子だけではない。男子にもたくさんいた。
でも彼の一番はシーラだった。何故シーラなのか? シーラより可愛い子はいたし、シーラより役に立つ子もいた。それでもシーラはヴァンさんにとって一番だった。
だから邪魔で仕方がないと思ってはいても、シーラに手を出してはならない。
寄贈にとっていらない子供は排除する。それは当たり前で、始末されても仕方ない存在だ。その私がこうして生きていられるのは親の愛情だけではない。もしかしたら役に立つ日が来るかもしれないと親に思わせたからに他ならない。この孤児院に捨てられた貴族の子は要領が良いのだ。
私は孤児院にいた頃、シーラには近付かなかった。あまり近くにいるのも危険だと思ったから。アンリも同じようなことを言ってた。生まれた頃から孤児院いいたとは思えないくらいオカンな存在だと。
シーラが書いた「おかしのいえ」あの本を初めて読んだ時、涙が止まらなかった。子供二人が森の奥に捨てられる話。私はと言うかこの孤児院にいるものは皆親に捨てられた子供たちだ。なんて本を書くのだシーラは!
でもこの本の兄妹は最後には親元に帰る。この本には希望があった。
「おかしって何? 砂糖がけの窓って美味しいの?」
孤児院しか知らない子が首を傾げている。その時違和感に気付いた。私は七歳までは貴族として育ったからお菓子を知っている。砂糖がけの透き通った窓は食べたことないけど砂糖がけの果物を知っている。
シーラは何故知っているのだろうか?
「そっかぁ。知らないのかぁ。まあそうだよね~。うんじゃあ、お菓子つくろうか」
シーラはなんでもないことのように呟くと、どう言ったのか職員から台所を借りてお菓子を作り出した。材料もどこからか出してきた。
「キャンディーとドーナツよ」
職員にもいくらか分けていた。なるほど対価交換か。
おかしを知らなかった子供たちは初めてのおかしに興奮した。
そしてお菓子を知っていた私も驚いた。私が知っているお菓子と違ったからだ。
砂糖がけの果物とかドライフルーツとかは知っているけど、このドーナツやキャンディーというのは知らない。でも多分このキャンディーというのは隣の隣にある大国で流行している飴というお菓子と同じものではないだろうか。でもなぜ孤児院しか知らないシーラが作れるのだろう? 問い詰めたかったが、皆が喜んで食べていたので聞くことができなかった。聞くというより問い詰めるようになるとわかっていたから。
そしてそんなことより甘くて美味しいお菓子を食べることに夢中だったのだ。
あのあとまた食べたいとシーラに皆で願ったが、「もう砂糖全部使ったから作れない」と断られた。だから今の私の狙いはシーラにまたお菓子を作ってもらうこと。そのためにシーラと同じ職場に就職したのだ。給金も良いから砂糖も買うことができる。
「キャンディーとドーナツ、絶対に作ってもらうんだから!」




