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文化祭、アフター/二年生九月

 あそこか? そう思い店内から出て来た学生グループが談笑しているカラオケ店の方へ近付けば中に見知った顔が何人分かいて確信に変わる。

 同級生で、同じクラスではなくて、けれど顔を合わせる機会の割と多い面々。

「お、隼人じゃん」

 薄暗くなり始めた道を進んである程度の所で待機しようとしたが、向こうもこちらを認めたのか「よっ」と蓮が片手を上げ、他の面々も気付いた様子だった。

「ヒトカラか?」

 絶対にわかって聞いている蓮に違う、と首を振りながら順次解散の流れになっている中にミルクティー色の長い髪を探すが。

「綾瀬さんならお会計していたからまだ店内じゃないかな?」

「ああ」

 誠人がそんな風に教えてくれる。

 個人経営の青果店の娘、テキパキとまでは行かないけれどそういうところ(金銭感覚)はかなりしっかりとしているためそういう役回りだったのか、と頷く。

「隼人たちのとこはボーリング大会だったんだっけか」

「うん」

「さぞ珍プレーしたんだよな?」

「いや、普通だって……まあ、スコアは散々だけど」

 蓮のからかいに軽く顔を逸らす。

 あら以外、という風に顔見知り程度の女子数名に見られる……身体能力「自体」は高めなのは知られている様子だった。

 問題はそれがうまく球体に伝わらないところなのだが。

「お、吉野君じゃん」

「おつかれ」

 そんな風にしていると今度は絵里奈と琴美に背中を突かれる。

「そっちも打ち上げ、終わった感じ?」

「だね、カラオケほど長くならなくて二〇分前くらいに終わったんだ」

「それですぐさま愛しの桃香を迎えに来たのね……なるほどなるほど」

「感心感心」

「立派な彼氏であたしゃ安心だよ」

「……言い方」

 一字一句間違いは全く無いのだがそんな風に言わないでほしいというか、わざわざ言わなくていいんですというか。

 男子には「全くこいつはよ」という感じに、女性陣には「今日も和ませてくれますねぇ」という風に概ね見られる。

 何というか、こいつらはそういうものだ、って扱い。

「ま、相手が桃香って時点で諦めなよ」

「そうそう、吉野君が傍に居なくてもラブが溢れてるんだから、ね?」

「罪な奴だね」

「プラマイで言えば間違いなくプラスなんだからいいじゃん」

「……」

 今度は二人に両の肩を叩かれる。

 わかってはいるんだが、認めたくないことはある。

「あ、そうそう、ところで旦那」

「……何でしょう」

 琴美の目を細めながらの呼びかけにまたもや嫌な予感はするものの無視も出来ずに応じる。

 一応辛うじてまだギリギリのギリ結婚してないけど、という絵里奈の呟きは流すが。

「桃香とカラオケって行くの?」

「いや、それはあんまり……というか、無い」

 どちらかというと甘いもの美味しいもの巡りが多いけれど、それを口にすると話がマズい方に転がる予感はして余計なことは言わない。

 いや、琴美と絵里奈にかかれば大抵のものは惚気方向に転がされるのだが。

「まあ、桃香あんまり歌は得意じゃないもんね」

 絵里奈の指摘にご機嫌な時の鼻歌はよく聞いている隼人が内心で補足。

 声は悪くないのだが、何せリズム感が壊滅的でどんどんズレていくのだ……聞いていないふりをしつつ一体何の鼻歌だ? と考えているとやっとわかったときに「これかよ!?」となるくらい別テンポの曲になっているときがしばしば。

「ちなみに、だけど」

「うん」

「桃香が何を歌うか、は知ってるの?」

「……まあ」

 心当たりは、ある。

 あるけれど隼人としては自分からは口にし辛い。

「ん? 綾瀬何歌ったんだ?」

 クラス全員とはいかずともそれなりの人数が居た模様のカラオケ、部屋は複数に分かれていたのか蓮が尋ねると。

 女子比率高めの何名かが複雑な顔を、というか思い切り苦笑いする。

「ん? どういうこった?」

「桃香が歌ったのは桃色吐息と」

「渋っ!」

 それはおばさ……桃香のお母さんの方の十八番な奴、と町内会のカラオケ大会を思い出しながら脳内でコメント。

「あ・と・は、桃色が片想いするアレよ、ア・レ」

 片目を閉じた絵里奈の隣で、琴美が口笛でメロディを。かなり上手い。

 しかし、問題はそこではなく。

「あ、ふーん」

「ほーぉ」

 途端に皆さんから隼人に向けられる「面白いこと言うねぇ?」と書いてある目線。

「それはまた愉快な選曲だね」

 いや、代表して誠人が笑顔で言葉にした。

「まあ、ほら、あいつ大分重度の桃好きだからその単語が入っていれば、みたいなとこあるし……?」

「「「そうですねー」」」

「てか、あいつ呼ばわりかよ」

 嫌な汗が背中を。

 早めに連れて帰りたいからもう来てくれー! と内心で叫ぶと。

「あ、はやくん!」

 重いというか、絡み付くような空気を弾き飛ばすような嬉しさに弾んだ声。

「むかえに来てくれたの?」

「一応、もう夜だし」

「えへへ、ありがと」

 嬉しそうに笑ってから、それを半分ほど仕舞って。

「お会計とかは済ませたから、解散……かな?」

 確かに流れとしてはそうなので。

「じゃない?」

「うん、じゃあお先に帰るね」

 琴美の言葉に数人が頷くと桃香は隼人の方を向いて。

「帰ろっか」

 再度にっこりと笑って歩き出した。

 その横について歩き出す背中の方から。

「「「だから片想いはおかしいだろ!!」」」

 って声なき言葉が聞こえたけれど。

「……えへ」

 角を曲がって指先を捕まえられたら、それはもう聞こえなかった。




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