借り物競争、おかわり/二年生十月
「はやくんのクラスはもう決めた?」
「いや、明日になる筈」
「そっか」
今年は違うクラス、進み具合が若干異なることで前後する課題をお互い難しいところはヒントを出し合いつつ片付けながら。
テーブルの向こうからの桃香の問いかけにそう答える……中身は再来週の学校行事について。
「でも、はやくん足速いから」
「ん……」
「きっとリレー、だよね」
自分のことでもないのに、自分の得意なことより得意気に。
「そうなるかな、とは思ってる」
「うん」
桃香の差し入れのクッキーを摘まみながら応じれば。
「応援、するね」
「……クラス違うだろ」
「それでも、心の中でいちばん応援しちゃうね」
ぎゅっと、握り拳とガッツポーズを作って。
「ありがとな」
「うん」
「それで、桃香は……」
どの競技に出るんだ? と聞けば。
「えへへ……」
そして、秋晴れとなった当日。
「あ、桃香だ」
全体のプログラムの中で気持ち前半の頃合いに、先端に少し癖のあるミルクティー色の髪を今日はポニーテールにしている姿を見出して美春が呟く。
ちなみに隼人といえばもっと先に……というか、ほぼほぼ常に把握していた。
どうしたって視線が追いかけてしまうのだからどうしようもない。
「聞いてはいたけど今年も借り物競争出るんだね」
「まあ、あいつ籤運が矢鱈良いし」
「ラッキーなのは籤だけかな?」
ねえ? お隣に住んでる幼馴染彼氏さん? と顔に書いた真矢に笑われる。
「お、あちらも見てるねぇ」
友也の指摘通りこちらを見た桃香がいつものように笑って右手を軽く上げて振ってくれる……所まで簡単に想像できたのだが、今日はそのビジョンが裏切られる。
右手を握り拳にして左手を二の腕に添える、主に家の手伝いをしているときにする「重いものでも平気だよ」のポーズ(そして実際高校生女子としては結構力が強い)だった。
「隼人、あれはどういう意味だい?」
「……とりあえず張り切ってはいるみたいだ」
「今から迎えに行くから首を洗って待っててね! じゃないの?」
「ねぇ?」
サラリという花梨に美春も同意する。
「一体どんなお題を引いて、そこからどういう力技で吉野君に結び付けてくるのかしら?」
「楽しみだなぁ、おい?」
「お、根岸君もわかってきたじゃん」
間違いないな、とクラスメイトたちが揃って頷く。
ほぼほぼ毎日通ってくる桃香とそれを迎える隼人の扱いは半年を経てそんなところに落ち着いていた。
「おっ」
「いらっしゃいましたね」
「一直線ね?」
「別に俺とは限らないし……」
「今更何を言ってやがる」
スタートのホイッスル後。
籤が置いてあるテーブルにたどり着いて紙を開いた桃香が駆け足でこちらにやって来る。
「ちょっと出遅れ気味かな?」
「まあ、足は早くないし……」
このクラスの代表は早くも教頭先生を確保し掛かっているタイミングなので自然と他の所にも目が向く。
そんな中、一生懸命に走ってそれなりに近くまで来て、桃香が大きく手を上げる。
「はやくーん!!」
「ほれ」
「お呼びだぞ」
それ見たことかと男子たちに背中を押され……圧的には蹴り出されたくらいの感じで応援席から発進する。
一方。
「お借りしまーす!」
「「「どうぞー!」」」
丁寧に頭を下げた桃香には女子たちから笑い混じりの返事が飛んでいた。
「で、一体」
「うん」
「どんなお題だったんだ?」
並走が始まった途端に手首を掴まれて、でも今はそれより先に確認事項があるためそちらを先に尋ねる。
「好きな人」
「……」
「……」
「……」
真面目な顔と眼差しにまさか本当に? と思わされたところで桃香の表情から力が抜ける。
「……だったら、良かったのにな」
「……おい」
二人きりなら間違いなくデコピンを飛ばすか頬を軽く摘まんでいるところだった……現在は衆目に晒されているのでできないが。
うっかりやった日にはバカップル扱いをされてしまう、とほんのりもう手遅れなことは自覚しているが火にガソリンを注ぐような過ちは避ける。
「で?」
「うん」
改めて確認をすれば、軽く頷いて。
「身近なスゴイ人、だって」
「それはどういう意味で?」
「わたしの解釈でいいと思うよ? 司会の人のチェックもあるかもだけど」
「そりゃ間違いなくあるだろ……」
そんなことをしているうちに二年生の席付近を抜け一年生の前を駆け抜けることに。
諸々あって割と知られてしまっている同級生に比べれば可愛い系女子に手を引かれている長身男子は下級生からは感嘆の視線で見られてしまっている。
「どれにしよっか?」
「どれって?」
「わたしが」
「ん」
「世界で一番いっぱいはやくんのいいところ言えるんだけど」
満面の笑みが、グラウンドの陽光より眩しい。
「……それは、ありがとな」
「えへ」
逆もまた真なり、なのだけれど今はそれを問われている訳でもないし、それは両方とも二人だけが知っていればいいこと。
第一、そこで桃香の好きにされたら一週間は学校を休みたくなってしまう……恥ずかしさに耐えられない的な意味で。
「まあ、その」
「……?」
「任せてくれ」
二番目にゴールに駆け込みながらそう告げれば。
「うんっ!」
疑いの欠片もない表情で頷かれていた。
「はやくん!」
「「「おおー!」」」
「これは確かにすごいですね」
幼稚園時代の駆けっこで一番を取った時と変わらない顔で拍手をくれる桃香を筆頭に軽くグラウンドが湧く。
体育祭、ということもあって司会に証明を求められた内容に少々緊張しながらも披露したバク宙。
文句無しの認定を貰い、体育座りで見上げている桃香と一瞬だけ片手でグータッチをして。
それから。
「カッコよかったよ……」
「ん」
「もちろん、一番、ね」
帰宅後、二人の時間に頬にご褒美を貰った。




